私のお父さんは、バイクが大好きだ。お仕事がお休みの日は、バイクを整備して手を真っ黒にして、それが終わると「どこかを試しに走ってくる」と言って、夕方まで帰ってこない。
 そんな父をお母さんは呆れながらも、どこ吹く風と見守っている。時々、お父さんは、お母さんを後ろに乗せて、私をおじいちゃんのところに預けて、どこかへ出かけてしまう。お母さんもバイクが好きで、お父さんがバイクでどこかに行こうかと言ったその日には、うきうきとしていました。
 私も連れてって欲しいな、と昔から思っていた。でも、私も一緒に行くとなると、電車や車になってしまった。
 お母さんも私に悪い、と言っていたけど、私もお母さんが楽しみにしていることをとってはいけないと思っていました。だから、一日や二日くらい、おじいちゃんの家で我慢しました。
 ある晩御飯のこと、お父さんが「今度はお盆でお休みだから、あや、家族でどこかへ遊びに行こうと思うけど、どこがいい?」と話しだしました。私は悩みました。面白そうなところや、遊園地や、いろいろなことが浮かびました。でも、私も中学生になるんだし、何かちょっとだけ、他の友だちが経験できないようなことをしたいと思いました。
「お父さんのバイクで、どこか連れてって欲しい」
 そう言ったら、お父さんは驚いて、お母さんの方を見ました。お母さんも驚いていました。それもちょっとの間で、お父さんは嬉しそうな顔で、
「そうか、あやもバイクでどこかに行きたいか」
と言いました。
 それからお父さんとお母さんは、いろいろと話し合ったみたいでした。それで、お母さんは電車で、お父さんと私はバイクで、豊田の山の方にある、温泉に行く事になりました。
 お父さんはそれからバイクの整備に熱中して、お母さんは旅行の準備をしていました。ほとんどいつもの旅行と同じ準備だけれど、いつもと違うのは私のヘルメット。お母さんのお古のヘルメットをかぶると、ちょっと大きかったけど、詰め物をしてピッタリと収まるようになりました。

 そしてお盆になりました。その朝、私はお父さんの乗るバイクの後ろに乗りました。いつも庭先で、整備が終わると聞こえてくるあの音が、その時は私の足元にありました。とっても大きな音。お父さんが足で操作して、カシンと音がしたあと、エンジンの音がせわしなくなって、すっとバイクが道に出ました。
 流れていく風と、それに負けじと大きな音を出して動くバイク。風と、街の風景がドンドンと流れていって、ちょっと怖くなって、お父さんの背中にしがみついていました。
 高速道路に乗って、しばらくお父さんと私はバイクの切り裂く風に包まれていました。どんどんと走って行くと、生暖かった風がひんやりと冷たくなった時がありました。変なの、と思っていると、お父さんがとんとんと私の体を叩いて、どこかを指さしました。つられて私もそっちを見ると、大きな山が間近に迫っています。森の香りがつんと鼻に入ってきて「遠くに来たんだなぁ」と、私は思いました。
 山は、生えている木が違うのか、でこぼことしていました。その一つ一つが、違う色の緑でした。濃い緑薄い緑、ちょっと茶が入った緑、いろいろでした。
 バイクはトンネルを超えて、山をぬって走って、いろいろな風景を見せてくれました。大きな山を横目に見るたびに、私なんかがここにいていいんだろうかと、不思議な感覚になりました。
 しばらくして、温泉についてお母さんを待つ間に、お父さんが「面白かった?」と聞いて来ました。私は
「不思議な感じ」
と言うと、お父さんはちょっと困ったような顔をしてから
「バイクってそういうもの、どこか知らない道を走って、不思議な感じになるもの」
 そう言いました。
 お母さんが電車で温泉について、一緒に温泉に入りました。お母さんも、バイクでのことを聞いて来ました。同じようなことを言うと、
「そうね、遠くへ行くって、そういうものかも」
 と言って、ちょっと考えてから
「でもね、遠くへ行って、大事なことよ」
 私はまた不思議に思った。
「でもそれって、電車や車でも同じじゃないの?」
 お母さんはそれを聞いて、ふふっと笑って「そうね」と言った。

 お父さんやお母さんが、なぜバイクが好きなのか、ますますわからなかった。風に包まれたり、大きな山のそばを走るのは、面白いと思った。でもそれは、他の乗り物でも同じじゃないのかなと思う。近くの旅館で泊まって、翌日またお父さんのバイクに乗って、家に帰ることになった。
「帰りは違う道を行こう」
と、お父さんは言いました。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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父とバイク(未完)

お久しぶりです。

バイクって楽しいのよ、ってことを、はじめてお父さんのバイクの後ろに乗った小学生のあやが、その感想を夏休みの宿題の作文に書いた体の作品。

だがしかし、自分があんまりバイクの楽しさをわかっていなかったと痛感。とりあえず上げるといういきさつ。感想などいただけたら幸い。

とりあえず、休みになると、手を真っ黒にしながらバイクの整備をするのが自分の楽しみ。
ま、いつまでも楽しく乗りたいなぁという自分の思いもあります。

あとちなみに、この父のバイクは、ヤマハのSR。なんとなく、SR乗りってそういうイメージ。

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投稿日:2012/06/24 23:39:11

文字数:1,898文字

カテゴリ:小説

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