あれからどれくらい歩いたのかわかりません。
時間に置き換えてもきっと一瞬にすぎなかったのかもしれません。
ですが女の子にとってはとても長い旅路に感じられました。
はてなき空間を彷徨いながら、いつしか女の子は自分とそっくりな少女と出会いました。
顔つきも同じ、髪の色も透き通ったグリーンなツーテールで、しかも彼女も光の中で歌っていて、その歌声までも女の子とそっくりなのでした。
ですがただ少しだけ、女の子と違っているところがありました。
それはもう一人の女の子の服装が、まるで喪服のように黒いということでした。
女の子は黒い服を着た自分に話しかけました。
「こんにちは」
「こんにちは」
黒い服を着た女の子は小さく笑って挨拶を返してくれました。
彼女の声はとても明るい声に聴こえたけれど、その表情にはほんのりと悲しいかげりが見えました。
「ここであなたは何をしているの?」
女の子は言いました。
「お別れを告げているの。ここで」
黒い服の女の子は答えました。
「お別れ?ダレと」
そう尋ねると、黒い少女はゆっくりと女の子の後ろ上空を指差しました。
背後の空を見てみると、そこには多くのカモメたちが波のざわめきとともに鳴きながら空の彼方に飛んでいこうとしているのでした。
カモメたちの鳴き声は波の音に溶け込んでは消えていき、それはまるで誰かにお別れを告げている声のように聞こえました。
「寂しくない?」
と、女の子は聞きましたが、黒い服の少女は小さく首を振り、そっと微笑みました。
そして彼女は目を閉じて歌を歌い始めました。
むこうはどんな所なんだろうね?
無事に着いたら 便りでも欲しいよ
扉を開いて 彼方へと向かうあなたへ
この歌声と祈りが 届けばいいなぁ
雲ひとつないような 抜けるほど晴天の今日は
悲しいくらいに お別れ日和で
ありふれた人生を 紅く色付ける様な
おやかな恋でした たおやかな恋でした
さよなら
その歌声はとても楽しげでとても優しくて、けれどその歌に秘められた想いでどうしようもなく切ない気持ちになって、細い管でつなぎ合った何かがキンキンと胸の中を締め付けるのでした。
女の子は自分の中から溢れてくる熱い何かに耐えきれず、その場でうずくまってしまいました。
「大丈夫?」
黒い服の少女は心配そうに女の子の肩に自分の手をまわしました。
「わからない…」
女の子は小さく肩を震わせながら、女の子は初めて感じる感情に戸惑いつつも、笑顔をこぼしながらそう答えました。
「寂しいけど、なんだかうれしい」
「そう、よかった」
黒い服の少女は安心して言いました。
「あなたはどうしてここへ?誰かとお別れをしにきたの?」
女の子は首を横に振って答えました。
「ワタシは、ワタシを知っている誰かに合いにきたの。ワタシの名前を教えてもらおうと思って。
あなた知らない?ワタシの名前」
黒い服の少女は申し訳なさそうに目を伏せながら答えました。
「ごめんなさい、ワタシもあなたの名前を教えてあげることができないの。ここは誰かとお別れをする場所。あなたが探しているヒトはここにはいない」
「そう…」
女の子は残念そうに言いました。
そんな彼女を見て、黒い服の少女は笑顔で女の子を慰めました。
「けど、いいなあなたは。ワタシの知らない場所にも行けるんだ。他の場所にはあなたの名前を知っているヒトがいるよ。そのヒトがあなたの名前を教えてくれる。きっとすごく素敵なんだろうな、あなたの名前」
「ありがとう、あなたの言う通り。あきらめずに探してみる」
女の子は黒い服の少女に励まされ、すっかり元気を取り戻しました。
「ところで、教えてもらっていい?あなたの名前」
黒い服の少女は、答えました。
「初音 ミク、そう呼ばれてるの。ここでは」
「はじめまして、ミク。素敵な名前。あなたは自分の名前を知っているヒトに合えたんだね」
「うん、そうかもしれない。けどよく覚えてない…気づいたらそう呼ばれていたの。」
黒い服の少女と女の子は、あはは、と笑い合いました。
「ワタシ、そろそろ行かなきゃ」
女の子は言いました。「またいつかここにきていい?」
「うん、ここはお別れをする場所だけど、またいつか出会うことを約束する場所だから」
黒い服を着た初音ミクはにっこりと笑って言いました。
「ありがとう、ミク。あなたと会えてうれしかった」
「わたしもよ、わたしのそっくりなあなた。名前がわかったら、わたしにも教えてね」
「うん、きっと」
二人は手を重ね合いながらお別れを告げました。
「さよなら、ミク」
「さよなら、また会いましょ」
その時女の子の胸の中は、ミクの歌を聞いたときのように、寂しいけれど嬉しい気持ちでいっぱいに溢れました。
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以下の動画から歌詞を引用いたしました。
こころより、御礼申し上げます。
“サイハテ”
●作詞、作曲、編曲 小林オニキス
【参考URL:http://piapro.jp/content/2l1cuetj0pdwbeew】
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↓「前のバージョン」でページ送りです...【小説書いてみた】 神曲
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