素材の甘味を活かしたいなら、お砂糖は少なめがいいと思う。


-甘い脳内コンフィチュール-


「ミク……」

と、あの人が私の名前を呼ぶ度に、頭から砂糖をぶっかけられたイチゴのように真っ赤な顔をして絞まりない口元ヘラヘラさせながら「なぁに?」なんてかわいこぶったりしてた時もあったっけ……

ぐちゃぐちゃと砂糖と煮詰められた結果、私はコンフィチュールになって、恋や愛が甘いだけじゃなくて、ほのかな酸味や、苦みがあったことも忘れてしまった。

ただただ甘いだけのコンフィチュールになった私は、マスターの甘い囁きにレモンのハチミツ漬けみたいになっている双子や、ピンクレモネードみたいにお洒落に気取る後輩の隣で、一つため息をふぅと付きながらパンに塗りたくられる日を待っているだけの時間を送る。

甘いだけになってしまった自分の魅力がわからない。
もう新鮮なわけでもない、煮詰められた存在、まるでコンフィチュール。

コンフィチュールは単体で食べるもんじゃなくて、私は同じように単体な事が寂しくて縋る場所を探してた。

それで好きになったはずなのに今は名前を呼ばれても心は弾まないし、顔も赤くならない。

けろりとした顔で
「ミク?」
「なぁに?お兄ちゃん」
なんて、返事をする。

好きだった時お兄ちゃんって呼ぶのも止めてたの気付いてたかな。

私知ってしまったから。

アイスにコンフィチュールじゃあまったるくて、
アイスには、ブランデーがよく合うってことに。

それは、私には出せない大人の味だって。

その事には自分で気付いた。
だから私はアイスを諦めて、コンフィチュールにぴったりなパンを探すことにした。

ただそれだけのこと。

不思議と涙は出なかった。
苦しくもなかった。

甘いだけのコンフィチュールが、脳から湧き出てるかのように私の思想を麻痺させていた。

コンフィチュールになった私が歌う声は、甘く響いて

むしろ甘く響き過ぎて

たるいだけその歌は、マスターにも聴かれたくない程に酷いものだった……


歌が1番正直だった。


ああ、本当にコンフィチュールみたいにどろどろと溶けてしまえたらいいのに。


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甘い脳内コンフィチュール【ミク→カイ失恋/ミク独白】

別に失恋したけど、
苦しくないし、
いつも通りになっただけだし
気にしてないよ



彼女はいつもよりたくさんまばたきをした

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投稿日:2010/03/04 06:56:20

文字数:913文字

カテゴリ:小説

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