リン視点

「…ごめんなさい」

私は取り敢えずエンジェルボイスターに戻り、出迎えた実衣さんに謝っていた。

「ううん、リンちゃんは、クオ君を止めようとしたんでしょ?なら、リンちゃんを責められるわけないじゃん」

「でも、なんだか、皆ピリピリしてるような気がして…」

私は帰ってきてすぐに気付いた。
泣きそうなレンの顔。怒っているMEIKO姉。悲しそうな表情をするミリさん。
それだけじゃない。皆が皆、とても悲しみや怒りの混じった表情をしていたり、悲しそうにしていたりしている。

「…最近、ララちゃんやキョウちゃん、ミクちゃんの事もあったし。丁度リンちゃんが居なかった時、ルル君とキリアちゃんが行方不明になったの。その中にリンちゃんとクオ君も居なくなって、皆とても心配していたんだよ」

私ははっとした。見落としていた。最近のみんなの心情を。
そっか、私まで居なくなったら、レンなんて崩れてしまう。
ルカ姉も、きっと心配してる。

「私、皆に帰ってきたよって。心配かけてごめんなさいって言ってきます」

「分かった。じゃあ、私はリンちゃんの機体のメンテナンスしてるよ」

「はい」

私は、正規ボーカロイド隊の部屋の方へ行った。

*****************************

「心配かけて、ごめんなさい」

私は、まずそう謝った。

「ううん。いいよ。でも、クオ君の様子はどうだったの?」

グミちゃんは私にそう尋ねて来た。

「あ、そうだ…。今、クオ兄とミク姉が大変な事になってるの」

私は、クオ兄の言っていた事を思い出して、グミちゃんと、其処に居たルカ姉、がくぽさん、キヨテルさんにクオ兄の事を、ミク姉の現状の事を話した。

「まさか…クオ君かミクちゃんを選ばなければいけないって事?」

ルカ姉はとても驚いたようで私の方をまっすぐに見つめた。

「普通に考えればミク殿だが、ミク殿が目覚めた時クオ殿が居ないとあってはな…」

がくぽさんも、考えるように言っていた。

「その…『ヒカリ』の話というのは…どういう物なんですか?」

キヨテルさんは、まだクオ兄の事を知らないから、そう聞かれるのは分かっていた。

「『ヒカリ』っていうのは…とても、悲しいお話なの」

私は、あまり話したくはないけど、話さなければクオ兄とミク姉についての事は全く分からない。
私がついさっきまで話をしていたクオ兄は、何だったのか?数年前にミク姉と楽しそうに話していたクオ兄は何だったのか?
その『二人のクオ兄』は同じ記憶を共有していれど、プログラム自体は全く違う。
ミクになるはずだったプログラムのクオ兄と、ミク姉の望んだバグとして生まれたクオ兄。
バグはミク姉を蝕み続け、ミク姉は消えてしまう。
でも、クオ兄の意思もある。でも、クオ兄は元々既に消えていた存在。
なら、そもそもそのバグが生まれなければ良かったのか?
そして、今すぐにクオ兄を消せばいいのか?
そんなのは…違う気がした。

「…ミク姉は、クオ兄が居る事を望んでる。でも『今のクオ兄』じゃ、ミク姉を蝕み続ける。なら、ミリさんとかに頼んで、クオ兄のプログラムを弄ってもらおうと思うの」

それが、私の考えた案だった。
クオ兄もミク姉も消えない。一番最善な解決法。
一番気がかりなのは、バグを正常なプログラムへと書き換えられるか…。

「普通なら、無理ね」

ルカ姉はそうきっぱりと答えた。そう『普通なら』無理な答えだった。

「でも、ミリさん達なら、出来るような気がしたの」

「それはミリさん達に頼りすぎじゃないの?」

ルカ姉のその言葉は、意外だった…というより、考えもしなかった事だった。

「…それは…」

「ボーカロイドの問題は本来は私達ボーカロイドで対処するべきな気がするの。これはミクの思いが招いた事態でしょ?本来ならば、私は自分の事は自分で出来るだけやりたい。人は技術を身につけて、自分で生きていく。なら、機械だって出来るんだと思うの。人に限りなく近く作られた私たちなら。クオが一人で消えるなんて、ミクは絶対に許さないんじゃないの?なら、此処はリンや私達…そして、ミクの想いを信じて、クオが消えないようにするのが得策でしょ?」

「…」

私は黙ってしまった。ルカ姉の言ってる事は、私も思ったことがあった。
メンテナンスも、自分の身の事は、自分でできるようになりたいって。

「まあ、要するにクオ君とミクちゃんを取り戻しに行くって事でしょ?」

『そう言うと思って、クオの居場所を調べていたわ!もう確定済みよ!』

「ぎゃっ!み、実衣さん!?」

『ぎゃっ!とは何よ!まあ、ミリさん達と全力でクオのボーレイシェンを探した所、クオはエンジェ星に向かってるみたいなの』

「…エンジェ…」

それは、ユアさんやミリさんの故郷。
そして、ボーカロイドにとっても縁がないとは言い切れない場所。

私達が宇宙へ出た理由のひとつだった。

『今まで悪UTAUに散々邪魔されたけど、最近は悪UTAUも来ていないようだし。ユアさん達の言うとおりなら、悪UTAUはもしかしたら今エンジェ星に向かっているかも…っていう可能性も出てきてね』

「…皆、ミク姉が居ない今。私達でできるだけ頑張ろう」

私は、皆に向き合って言った。
それが…私に今、精一杯出来る強がりだった。

続く

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

歌姫戦士ボカロボット32話

最近思うこと。次回予告完全無視。でも次回予告はやります。
今回はリンちゃん達メインでした。
あれ?珍しく主人公三人娘が一人も出てないww(ユア、ララ、ミクの事)でもミクさんとララは仕方ないっちゃ仕方ない状況ですが…。


次回予告
ロスト「俺達は、ついにエンジェ星へついた。其処には、離れ離れになっていたキョウが居た。そして、ララは今は意識不明になっていると聞いて、ルルの言葉について分かる。そして、そこに悪UTAUがきて…次回「故郷での戦闘」もう二度と、何も失いたくないんだ…!」

現状報告だとこれからの展開で死人が出る事が確定しました。
(誰かは敢えて言いません)

閲覧数:75

投稿日:2012/07/26 15:33:28

文字数:2,222文字

カテゴリ:小説

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