気が付くと俺は三つの扉のある部屋にいた。目の前には緑色の扉。俺は緑色の扉のノブをしっかり握って立っていた。握っていたノブを回そうとしてみたが、まるで動く気配はない。
「夢を見ていたのか……」
俺は先程までライブホールにいたはず。ホールから出ようと、扉に手をかけて……。
リーーン。リーーン。
ふいに聞こえた鈴の音色に俺は周囲を見回した。しかし、薄暗い部屋の中ではどこから聞こえてくるのかはっきりとしなかった。
(ん? 何だこれ……)
足元を見回していた俺はジーンズにくっついていた緑色の糸に気が付いた。
(糸屑……じゃないな。だとするとこれは……)
よくよく見るとそれは糸屑ではなく、不思議な光沢を放つ一本の髪であった。
(まさかこれは……)
「ミク……」
俺は急いで時間を確認した。ライブ開始まで、もうそれほど時間が無い。急いでライブ会場に向かわないと。俺は鉄の扉を開け全力で駆け出した。久しぶりに聞く蝉の声がやけにうるさく青空に響いていた。
ライブ開場に到着すると、既に辺りは人でごった返していた。先頭は既に会場内へと入り始めているようで、まさにギリギリ間に合ったという感じだ。
「俺も急がないと」
俺は持っていたチケットに書かれている整理券番号の通りに列に加わり、会場への入場を待った。
ホール内に入ると既に前方は人で埋まっており、俺は仕方なく真ん中辺りに陣取ることにした。皆、ライブ開始を今か今と待ち望んでいるようで、騒然とした空気が辺りには充満している。まさに爆発寸前であろうか。
俺にしても楽しみしていたミクのライブ、気持ちが逸るけれど今はそれだけではない。もう一つ気掛かりなことがあった。
(あの夢は現実だったのかどうか……。いや疑いようの無い証拠がここにある)
俺は携帯に結び付けていた緑色に光る髪の毛を見つめた。
ミクのツインテールは無くなってしまった。いずれ元に戻るとは思うが、今回のライブには間に合わないだろう。おそらくライブを企画した人間すら知らないこの事実。参加者である皆に余計な混乱を起こさないように、俺が極力フォローしなければ。
などと考えているうちに徐々に光が落ち始めた。いよいよ始まるのだ。待ちに待った瞬間がやってくる。
正面中央にスポットライトが当てられる。そしてゆっくりとミクが姿を現した。
やはり……。ミクの髪はツインテールではなくショートカット。格好がいつもの格好なだけに違和感が漂う。
周囲の状況も盛り上がると言うよりは、ざわついている感じだ。俺はここぞとばかりに叫ぼうと力を入れた。その瞬間、携帯に付けていたミクの髪の毛が解け、ステージに立つミクへと強烈に引き寄せられた。
髪の毛はまるで意思を持ったかのように、光の軌跡を残しながらミクの下へと辿り着く。そして髪の毛とミクが触れ合ったその時、ミクが光に包まれた。
「ありがとう!」
光の中から現れたミクは、ツインテールを揺らしながらニコリと微笑んだ。
「フッ。どこまで計算されてたんだか……」
悪戯っぽく笑うミクに、俺も苦笑するしかなかった。
会場は今の演出にヒートアップ。割れんばかりの歓声に沸いている。
最高の舞台はまだ始まったばかりだった。
コメント0
関連動画0
オススメ作品
落ちてゆくㅤ星のようにㅤやがて弾けてしまうから
剥製の空ㅤその中ㅤ飛び込んだ割れ物だ
欠けた手振りじゃㅤ足を引っ張ってしまうから
どこへ行こうにもㅤ叶いやしないな
ただ底へ落ちてゆくんだ
夢に見たようにさㅤ君が待っているんだ
きっとㅤ星が流れる空を眺めながらさ
迎えに行くからㅤ君が願うまでもなく
帰...レーヴ 歌詞
IiwiY
宇宙の果てに飛び込んでおいで
銀河の隅で待ってるからさ
流れ星に願ったことも
ずっとずっと覚えてるから
あの頃みたいにはしゃげないかな
10年前とは違うから
思い出の海に飲まれながら
流れる星を追いかけた
何光年 離れてても...思い出の宙 歌詞
やしろ
誰かを祝うそんな気になれず
でもそれじゃダメだと自分に言い聞かせる
寒いだけなら この季節はきっと好きじゃない
「好きな人の手を繋げるから好きなんだ」
如何してあの時言ったのか分かってなかったけど
「「クリスマスだから」って? 分かってない! 君となら毎日がそうだろ」
そんな少女漫画のような妄想も...PEARL
Messenger-メッセンジャー-
死後の恋 歌詞
罪には罰を 恋には呪いを
玲瓏たる宝石ども どうか、私に
死に行く私達に祈りを
絢爛なアナタに誓いを
その秘密、憐れ嘆かわしいアナタ
真意を知らぬ 愚かな私をお許しください
私の運命を決定て下さい
死後の恋は真実でした
貴下が、信じてくださった...死後の恋
nabana00
6.
出来損ない。落ちこぼれ。無能。
無遠慮に向けられる失望の目。遠くから聞こえてくる嘲笑。それらに対して何の抵抗もできない自分自身の無力感。
小さい頃の思い出は、真っ暗で冷たいばかりだ。
大道芸人や手品師たちが集まる街の広場で、私は毎日歌っていた。
だけど、誰も私の歌なんて聞いてくれなかった。
「...オズと恋するミュータント(後篇)
時給310円
おにゅうさん&ピノキオPと聞いて。
お2人のコラボ作品「神曲」をモチーフに、勝手ながら小説書かせて頂きました。
ガチですすいません。ネタ生かせなくてすいません。
今回は3ページと、比較的コンパクトにまとめることに成功しました。
素晴らしき作品に、敬意を表して。
↓「前のバージョン」でページ送りです...【小説書いてみた】 神曲
時給310円
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想