「ねぇレン、私、高校どうしようかなぁ」
「どうって…あそこ行くんじゃなかったの?N高校」
僕達の中学校からは、毎年1人2人行くか行かないか、くらいのレベルの進学校。ミクはそこに行きたいと、去年あたりからずっと言っていた。
【泣き虫カレシ 中】
マク●ナルドの混雑したカウンター席。2人で並んで腰かけて、ミクはシェイクを、僕はハンバーガーとポテトのセットを食べながらの会話だった。
中学に上がっても、僕とミクは相変わらずで。変わったことと言えば、放課後にお互いの家ではなく、どこかお店に入って話をするようになったことだった。
中1と中3。年の差は変わっていないのに、学校が上がっただけで、随分差ができたように思う。
そしてその感覚は、多分勘違いではないのだった。
一般に、女の子の方が早く大人になって、男の子は大学を卒業するまで子供のままだ、なんてことを聞く。
最近になって、僕はその言葉の意味が何となく分かった気がする。
ミクは、僕が小学生をしている間に、ぐんと大人になっていた。
背はそんなに伸びていない。顔だって、年相応に大人っぽくなっただけだ。
それでも何となく、雰囲気が変わっていた。
ミクは僕よりも2歳年上なんだ。そんな当たり前のことを、僕は最近再認識している。
それは、ふとした拍子に出てくるボキャブラリーの違いだったり。
読んでいるファッション雑誌が変わっていたり。
うっすらと化粧をするようになったことだったり。
小さな小さな違い。でも、それに気付かずにはいられないような、そんな違い。
ミクは、年上の、女の子なんだ。そして僕は年下で、男で、彼女と比べたらまだまだ泣き虫な子供だ。
その事実が、とても重要なことに思えた。
ミクはストローの端をかしかし噛みながら、僕の言葉にむぅ、と眉根を寄せる。
「そうしようと思ってたんだけどね…」
「何かあったの?」
「うーん、何て言うかなぁ…私には向いてないような気がするんだよね」
うん、と頷くミク。僕はふぅん?と首を傾げるしかない。
「向いてないって…授業が厳しいとか?」
「そんな感じかな。この間、N高に行った先輩が高校紹介で来たんだけどね、話聞いてたら、何か、私には向いてなさそうだなぁって思って」
やっぱりストローを噛みながら、歯切れ悪くミクは言う。
僕はそれに対して、同じくふぅんと言うしかなかった。高校進学なんて、僕にしてみれば先のこと過ぎてまだまだ想像ができない。進路に悩むほど、将来のことを考えてもいなかった。
そんな僕の考えが分かったのか、ミクは僕を見てからかうように笑う。
「あ、レンにはまだまだ難しい話題だったかな?」
「な…別に難しくないよ!」
「本当?困った顔してたぞー?」
「ミク!」
ムキになる僕に、ミクは声を上げて笑う。その笑顔に、まるで心臓を打ち抜かれたような気がした。
…僕がミクを、友達ではなく女の子として意識したのは、多分ミクが中学生になった時だったと思う。
届いたばかりだった制服を着て家に遊びに来たミクは、まるで見知らぬ女の子のようだった。
スカートもブレザーも、どこか着慣れていない感じがして、そのちょっと緊張した様子と紅潮した頬がとても可愛いと思って。
ミクは女の子。
僕は強くそう思った。
次の日、僕とミクはまたマク●ナルドに来ていた。食べるものも変わらない。ミクはシェイク。僕はハンバーガーとポテト。
席に着くと、ミクは何かが吹っ切れた顔で明るく言う。
「私、N高やめることにした」
「いいの?ずっと行きたいって言ってたのに」
「うん、いいの」
にっこりと、もう大丈夫だと笑うミク。
きっと、本当に大丈夫なのだろう。ミクがこの笑顔を浮かべる時は、僕に大丈夫を伝える時だ。
だから、僕もそれを受け入れて笑う。
「そっか。…じゃぁ、どこに行くかはもう決めたの?」
「ううん、まだ。何個か候補はあるけど、これから絞って行こうと思って。成績的には余裕だしね~」
「うわ、嫌味っぽい」
はは、と笑いあう。カウンターの前の窓ガラスに映る僕と彼女は、まるでカップルみたいだった。
…でも、僕達は友達だ。家が近所の幼馴染。ミクがお姉さんで、僕が弟で。
その事実が、少しだけ胸に刺さる。
こっそりと苦い気持ちを抱える僕に、ミクは楽しそうに言った。
僕のもやもやを吹き飛ばすような言葉を。
「ね、レン。今度映画見に行こうよ」
「映画?」
「だって最近全然レンと遊びに行ってないもん」
「今一緒じゃん」
「これは放課後デートでしょ?そうじゃなくて、普通に遊びに行きたいの!」
「え…」
とっさに、反応できなかった。
目を丸くして言葉を失う僕。頭の中では、彼女の言葉が踊っている。
放課後デート
デート
固まった僕に、ミクは不思議そうに瞬いた後、「あ」と間抜けな声を上げる。その頬が、耳が、首筋まで一気に真っ赤になった。
お互いの顔を見て沈黙して、しばらく。先に言葉を取り戻したのは僕の方だった。
「…えっと、ミク…?」
「う、あう…」
「えぇと…放課後デートって…」
ごくりと唾を飲み込んで、恐る恐る言う。
「僕と…デートしてるって、思ってくれてたの?」
「…だ、だって…」
真っ赤な林檎のような顔のまま、ミクはしばらくためらった後、意を決したように言う。
「私は、レンのことが好きだもの」
その言葉は、嘘みたいに鮮明に響いた。
店内の喧騒が、波が引くように消えて行く。そして僕は、まるでその波に僕の言葉も飲まれてしまったかのように言葉を失っていた。
ミクが、僕を好き?
友達としてでは、なく?
一向に答える気配のない僕に、不安になってきたのかミクがもう一度繰り返す。
「私は、レンのことが好き。友達としてじゃなくて、男の子として、好きなの」
繰り返されて、やっと僕の中にその言葉が染み渡って行く。
同時に、泣きだしたいような、飛び上がりたいような、そんな不安定な気持ちに翻弄されて、じんわりと涙が浮かんだ。
「レ、レン、泣かないでよ。…嫌だった?」
「…違うよ。嫌じゃない。嫌な訳ない」
僕は笑う。きっとこの笑顔は、生涯浮かべる飛びきりの笑顔だと思いつつ。
「僕も、ミクのことが大好きだよ」
笑顔に押し出されるように、涙が一粒だけ膝に落ちた。
その後、ミクは無事に高校に進学し、僕とミクはまた、中学と高校という別々の場所に通うことになった。
当たり前と言えば当たり前の話だけど、僕達にとってそれはとてももどかしくて。
僕が塾に通うようになってから買ってもらった携帯電話で、僕達は毎晩電話した。学校に行っている時はメール。休みの日は遊びに行く。
中2の夏休み。初めて志望高校を記入することになって、僕が迷わず書いた高校は、ミクと同じ高校だった。
「レン、私と一緒の高校じゃなくてももっと上のところに行けるのに」
とある休日。僕とミクはお互い私服で、チェーン店の喫茶店にいた。僕の向かいでアイスココアを飲みながら、ミクは不満そうに言う。
「勿論、一緒に通えたら嬉しいけど。でも、レンはやりたいこととかないの?」
「やりたいこと、かぁ」
僕はカフェオレのカップを置くと、天井を見上げる。空調のファンがゆっくり回っていて、スピーカーからは、コンビニでもよく聞くクラシックだか何だか分からない曲が流れていた。
僕のやりたいこと。言われてとっさには出て来なかった。というか、考えたこともなかった。
やりたいことって何だろう。将来就きたい職業も、叶えたい夢も、特に思いつくものはない。精々、ニートにはなりたくない位のものだ。
考えて考えて考えて。熱が出そうになるくらい考えて、僕の心にふっと浮かんできた答えは。
「…一緒にいたいな」
「え?」
「ミクと一緒にいたい。そのために、早く大人になりたいと思うよ。…それじゃ駄目?」
「…ううん。いいと思う」
頭をかく僕に、ミクは笑う。
きっと僕は、この時、気付くべきだったんだと思う。
ミクの笑顔が、ほんの少しだけ、普段とは違っていたことに。
でも、この時の僕はミクと一緒に過ごす時間がただ楽しくて、幸せで、何も考えていなかった。どうしてミクがそんな質問をしたのか。逆に、ミクは将来何をやりたいのか。
僕は子供だった。幼かった。2つの年の差なんて関係ない。僕個人が、幼かった。
そしてそれを、僕は最悪の形で痛感することになったのだ。
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