街灯が減り、辺りが暗くなった。
私が生まれた時から決まっている。
自分は歩み続けなくてはならない、手がかりになるのは先に見える街灯の光だけである。
歩み続ける理由はわからない、ただ、なすがままに足を踏み出し、次の街灯へ向かう。
楽だった、何も考える必要が無かったのだ。
何も考えずに、次、次、次…
ある日、私は次の街灯が無いことに気がついた。
これでは、どうしても前へ進むことはできない、先が見えない、手を伸ばしても何もつかめない。
何時まで経っても、辺りが明るくなることはないし、これと言って、することもない。
どうしようか悩み、途方に暮れていると、自分の足元で少年が倒れているのに気がついた。
「君、大丈夫?」
うつ伏せになっているこれを自分は心配をしていたが、少年は顔を上げてこう言った。
「大丈夫…転んだだけ、ケガもしてないし、立ち上がれるし、歩くこともできる」
立ち上がった少年は私の顔を見て、唐突に口を開いた。
「お姉さんは、ここで何をしているの?」
「私は、立ち止まっているだけ」
「なぜ?」
「先が、見えないから」
嘘は言っていない
「明るくなるのを、待っているの」
ただただ、たんたんと答えた。
少年の表情は暗くて見えなかったが明るい声で、こう言った。
「僕が、先へ連れて行こうか?」
私は驚いた、こんなにも暗い場所をこの少年は歩けるのか。
「僕が手を引いてあげるよ」
しかし、名も知らぬこの少年を信頼していいのだろうか。
いや、名を知らないなら、聞けばいい。
今は前に進もう。
「ねぇ、君の名前を教えてくれない?」
「僕の?僕の名前は『未来』だよ」
現代の子供らしい名前だ、ナントカネームというやつだろうか。
「未来君、よろしくね」
うん、と大きな返事をして、未来君は私の手を取り歩き出した。
それから、役目を思い出したかのように自分の足は歩き出し、進む。
何も考えずに、次、次、次…
未来君は何一つとして言葉を発しない。
それどころか、私の目には、血色の悪い手を引く若い手しか見えない。
思えば、何処へ向かっているのだろうか、そもそも、ここは何処だ?
ここは…
その瞬間、私は何かにつまづいた。
つまづいて、転んだ。
派手に転んだはずだけど不思議と痛みは無い、きっと怪我もしていないだろう。
でも、どうして、悲しみがこみ上げてきた。
涙が溢れる。
「お姉さん、大丈夫?」
立てない…
座り込むのが精一杯だった。
「ごめん、私、もう駄目かもしれない」
「どうして?」
「最初は、たくさんの道しるべがあった、どの道へも進むこともできた」
私は後ろへ振り返った、そこには今までの足跡がくっきりと残っている。
「でも私は!一番近い、一番楽な街灯へ進んだの!立ち止まっても時間は私を先へ進めてった……街灯が無くなって、先へ進め無くなっても、君が…未来が私を引っ張った…そして…私は今日……"人生"に転んだ…あはは…」
滑稽だった…自分自身が…こんなにも
「こんな人間に、光はもう射さない……日は登らないの!」
涙が溢れる。
今更、もう遅いのに
「うぅっ…あぁっ」
「…ねぇ、お姉さん、ここで何をしているの?」
「うぅ…私は……」
私は…
「ねぇ、お姉さん、日は登るんだよ」
日が…登る?
こんな私に…光は…
「お姉さん…お姉さんは!どんなに辺りが暗くても自分が見えてた、自分を見失ってなかった」
自分…を
「お姉さんは!絶対に来た道を戻ろうとはしなかった!前へ進んだ!!」
前へ…
でも…
「でも、私は…どうすればいいの?」
未来は私に言った。
初めて会った時と同じように
「大丈夫…転んだだけ、ケガもしてないし、立ち上がれるし、歩くこともできる」
未来は私の手を引っぱり、その力で私は立ち上がる。
「ほら、立てた」
「でも、暗くて先に進めない…」
「大丈夫……ほら…」
その言葉と同時に、目の前は光に包まれた。
光に目が慣れて辺りを見渡すと、そこには何もない、地平線が何処までも続いていた。
「お姉さんは、この地平線の何処までも行ける。自由に道を外れることもできる」
自由に…
あぁ、そうか…
そうなのか…
「人生って…こんなにも自由だったんだ…」
…きっと私は、これから長い道を歩むのだ
長い長い人生を…
未来の方を見た、彼は私をここまで連れて来てくれたのである。
「未来君、ありがとう」
未来は何も言わなかった。
でも、笑っていたような気がする。
実際はわからない。
当然だった
未来は眩しくて見えなかったのだから…
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想