夜中に突然あたしは目が覚めた。何でだろう。充電中のはずなのに。
周りを見ると、真っ暗て訳じゃなくてぼんやりものが見れた。そういえばこの部屋、夜になるとうっすら壁が光るようになってるんだっけ。
机の上の時計に目をやると午前3時だった。ああ、何でこんな時間に目が覚めなきゃいけないのさ。あたしのすぐ横でミクとヤミがぐっすり眠っていた。つーかヤミはパジャマとかどこから持ってきたの?で、ミクは制服の下に着てるワイシャツだけ。うん・・・・・・ホントにそれだけ。多くは語らん。それにしても一つのベッドによく三人も入ったもんだ。
とにかくもう一眠りしようとあたしは寝返った。そのとき・・・。
「・・・・・・ぐすっ・・・。」
ミクから何か声がした気がした。あたしはミクの方を向くと顔を近づけた。これはもしや寝言かな?
「・・・・・・ぐずっ、すん・・・・・・。」
これ、まさか泣いてるんじゃ・・・ミクの顔をじっと見つめると本当に涙が流れていた。でも、なんで?何か怖い夢でも見てるんだろうか。
「・・・・・・はぅ・・・・・・うぅ・・・。」
なんか苦しそうだ。何見てるんだろ。
「・・・・・・・・・い・・・やぁ・・・。」
嫌?
「どうし・・・て・・・こん・・・な・・・くっ・・・。」
ちょッ、ななな何見てんのさ! いや、そんなことあるわけないか・・・。
「ひ・・・ど・・・い・・・・・・。」
何が何が何が?あたしはすっごく気になった。
「わ・・・た、し・・・・・・。」
わたし?
「・・・ひと・・・・・・・・・ごろ・・・・・・し・・・うぐぅ・・・。」
えっ・・・・・・! どういうこと?
ミクは敵を殺すことに罪悪感があるんだろうか。そんなわけない。昨日の戦闘のときだってだってあんなに楽しそうにしてたし・・・・・・。
「ひ・・・どい・・・・・・わ、たし・・・。」
でも、心のどこかでは 感じているのかもしれない。だって、こんなに悲しそうにしてる・・・・・・ミクは肩を震わせて泣いている。その姿がすごく切なくて、思わずあたしはミクを優しく抱きしめた。
「ミク・・・・・・だいじょうぶだから・・・・・・安心して・・・・・・。」
あたしはそんなことをつぶやいていた。だって、そう言わずにはいられなかったから・・・・・・。
指先や腕、ミクに触れているすべての部分から、ミクの肌の温もりが伝わってくる。 ミクの体はやわらかくて、気持ちいい。人工皮膚の体でも、こうやってお互いを感じあうことができるんだ・・・・・・。
やがてミクも静かになり、あたしもミクから離れるとまた眠りについた。
◆◇◆◇◆◇
「・・・・・・そして、午前のCAPが終了しだい、空母か上を飛んでいる給油機に燃料の供給を求めるようになっている。基地に近いが、空母や給油機ならスピーディな給油が可能だ。午後も同じようにCAPを続け任務終了後必要があれば、空母に泊まることもある。大体このようなスケジュールだ。もし緊急事態が起こればAWACSから指示を聞き取り迅速に行動するように。以上だが、何か質問はあるか。」
「はーい。きゃっぷって何のことですか?」
殺音ワラが面白半分なのか真面目なのか分からないような言い方をした。
「コンバット・エア・パトロールの略で戦闘空中哨戒という意味だ。」
「どーも。」
「・・・・・・。」
隣で麻田中尉が不機嫌そうに顔を歪めている。理由など大体分かる。普段自分の質問などは蹴られたり笑いのタネにされたりするのにワラのあんな不真面目な言い方の質問を少佐が普通に答えたということだ。麻田。お前に前科がありすぎるのだ。ワラ以外に質問するものはいなかった。
「他になければこれでミーティングを終了する。シック小隊はこの後すぐにブリーフィングがあるのでここに残るように。ちなみに緊急の用があれば、夜にミーティングを開き連絡する。以上。」
皆一斉に立ち上がると敬礼し、シック小隊を残してブリーフィングルームから出て行った。
今朝のミーティングは空母と共同で行う任務のブリーフィングだけに相当長かった。 明日、俺達は早朝に基地を出発しB-55エリアに停泊している空母艦隊の艦載機と共に警戒任務に当たる予定だ。なおシック小隊は今からウィングの飛行テストらしい。 それだけではなく、無人標的機を使用した兵装テストも行うようだ。
今日も俺達は非番だが、明日になればこの基地総動員で忙しくなるだろう。
俺には今のうちに何かしておくべきことは無いだろうか・・・・・・。
◆◇◆◇◆◇
――B-01空域上空――
『シック4、ターゲット99を撃墜。プログラム04対空戦闘訓練終了。テ
ストプログラム全課程終了。各機、基地へ帰投せよ。』
今日は昨日の動作チェックに続いて、今度は本当にウィングで空を飛ぶ訓練をやった。それだけじゃなくでっかい武装を使って無人機を撃ち落すなんてのもやった。まぁ、キクは「斬ってた」けどね。とりあえず今ヤミが最後の一機を撃ち落して、訓練プログラムは全部終了した。
「了解。キク、ヤミ、ワラ、帰投するぞ。」
「うん。」
「了解。」
「あー終わった終わった!!ゴッドアイ!!今何時くらいー?!」
「あと数分で正午だ。」
「じゃあ、帰ったらお昼ご飯じゃん。今日は何が出るの?」
「こら、ワラ!!基地に帰るまで任務だぞ。静かにしろ。」
タイトさんの声がヘッドセットから聞こえてきた。いっつもこんなかんじでタイトさんに注意されてしまう。何でかな?ちょっとくらい話するくらいいいと思うのに。
「はいはい。」
「やっぱ、ワラも食事機能が付いているのか?」
「とーぜん!!イチゴが大好きなんだよねー。」
「おいおい。ゴッドアイまで・・・。」
「タイトさんは生真面目すぎるんだよ。」
「あんたが騒がしいだけよ。」
「相変わらずお堅いねー。おっ先ー!!」
「おいワラ!!編隊を崩すな!!・・・まったくしょうもないやつだなー。」
だけど今でも、あたしは今日の朝起きたこと、ミクのことが頭から離れない。なんであんなことになってたのか。なんで・・・泣いてたのか。
もっと頭から離れないのは、ミクを本気で抱きしめてしまったこと。
今までふざけ半分だったけど、あんなに真剣に他人に触れたのは初めてだった。そのせいで、あのあと起きたときからミクを見るたびに胸の中になにかもやもやしたものがたまっていって、なんて声かけたらいいかわかんなくって・・・それで・・・それで・・・・・・ドキドキする。どうして?
「・・・ワラ!!」
「えっ!!」
「ぼーっとするなよ!」
「あ・・・・・・うん。」
「こちらゴッドアイ。シック1、ランウェイコースに入った。ランディングアプローチを開始せよ。」
「了解。シック1からコントロールタワーへ。これよりランディングアプローチを開始する。着陸許可求む。」
「こちら水面コントロール。進路クリア。シック1、ランウェイAへの着陸を許可する。アプローチを開始せよ。」
「了解。アプローチを開始する。」
昼食が終わったあと、俺は図書室に入ると両側に数台のパソコンが並べられたリファレンスコーナーに来ていた。今は誰もいない。
ここはほとんど来たことのない空間だ。麻田や気野はよく利用するらしいが、俺はあまり興味がなかったのだ。
既に電源が入っているパソコンの前の椅子に腰掛けると、俺は早速インターネットを起動した。そして今月のニュースを検索し始めた。
検索結果の中にはこの前のタンカー事件のことが載っていた。俺はすぐさまクリックし、記事を読み進めた。
2020年、9月9日、謎の武装集団が突如日本海沖にタンカーで現れた。彼らはその先月に起きた緒綿市の拉致事件の被害者を人質にとっており日本領海からの離脱を試みたが、海上保安庁が投入した戦闘用アンドロイドによって武装集団は全滅し、特殊部隊SSTがタンカー内部に突入した。しかし内部には人質はおらず後に捜索部隊が再度捜索したが人質を見つけることはできなかったらしい。海上保安庁の発表では、この事件は不明な点が多く武装集団の目的はおろか国籍すら判明していないという・・・。真相は現在調査中らしい。
俺はブラウザの「戻る」のボタンを押すと最新のニュースを探した。欲しい情報はこれじゃない。
しかしどんなに探しても欲しい情報が見あたらなかった。と、なると政府はまだ例の事件の事を隠しているのだろうか。この前の戦闘の事を。
それは妥当な判断だといえる。そんなことを発表すれば、国民が混乱を引き起こす可能性があるからだ。だが、いずれ運命のときが来るだろう。宣戦布告を受けるそのときが。
とりあえず事件が政府によって発表がされていない、ということだけを確認した俺はこれ以上調べることもないので椅子から立ち上がり、リファレンスコーナーから出ていった。
すると図書室にミクとワラが一つの腰掛に座り、何かの図鑑を手にして二人で読んでいた。その様子は仲の良い友達同士のように見えた。
「隊長。そこにいたのか。」
「こんにちわー。」
「どうしたミク。珍しいな、お前がこんなところに来るなんて。」
「ワラが、何か楽しいところはないかって、聞いてきたから・・・。」
「そうか・・・。」
俺はいくつも並んでいる本棚に近づき、本一つ一つを眺めた。
昔は小説が好きでよく読んでいたが、このごろは随分とご無沙汰している。
なにか、手軽に読めるものはないだろうか。俺は小さな文庫本を取り出すと貸し出しをする機戒に向かった、そのとき、
「なんか他にないかな。」
「んーそうだな・・・・・・ふわっ!!!」
「わっ!!」
本棚の向こう側から突然現れ、俺の目の前を横切ったミクが俺の靴に躓き派手に転んだ。
「すまん。大丈夫か?」
そう言ってミクの方を見下ろした瞬間、俺は固まった。なぜなら、ミクは・・・・・・。
「あ、ああ・・・わたしこそごめん。」
ミクが起き上がったそのとき、背中に視線を感じた俺は固まった体でカクカクと後ろを振り向いた。
そこにはワラがいて、不気味な笑みを浮かべて俺のことを見つめていた。
「み・た・ね♪」
「ねぇ、隊長がまたうなされてる・・・・・・。」
「またかよ。うるせぇなー。」
「武哉のイビキだってうるさいじゃん。」
「静かに二人とも・・・。何か寝言を言ってる。」
「・・・・・・・・・・・・・・・な、なんだって・・・!!!!」(×3)
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