じゃあ迎えに行くから、とメールが着てから、もうどれくらい経っただろう。座る階段の背後から射す夕陽が、足元の影を長く伸ばす。8段、9段。確かメールが来たときは、6段目の半分くらいだったはずだ。
伸ばした脚を、抱え直す。兄が来る気配はまだ、ない。
(・・・あ、ループした)
ヘッドフォンから流れる曲が、朝聴いたものに戻った。レンはため息をつく。
そういえば前にも、こんな風にカイトに待たされたことがあった。わざわざ外で待ち合わせることなどそう多くもないが、何かあるときは大抵兄が待っていてくれるので、待たされたときの記憶は残っている。あれも確か、夏の日だった。
抱き寄せた膝に顎を乗せる。その時の自分は、今に比べるとだいぶ、背も低かった気がする。兄もまだ、制服を着ていた。何年前だろうか。耳元の曲が邪魔をして、はっきりと思い出せない。けれど、この寂寥感は同じだ。ざわざわとした不安と、寂しさと。そして。
(こんなふうに、伸びる影も・・・・・・)
赤い夕陽が、影の輪郭を濃くはっきりと映し出す。影絵のように切り取られた黒い部分がより強く、レンの心の孤独を揺さぶる。
――早く俺を、迎えに来いよ。
黒い影から目を逸らすように、瞳を閉じる。ちらちらと残像が瞼の裏に残ったが、じきにそれも消えた。感覚が、ヘッドフォンからの音に支配される。
よく馴染んだ音の中にふと違う音が入り、レンは膝から額を離す。階下から駆け上がってくるのは、聞きなれた硬い靴音。
「遅っせーよ」
先程までの寂しさなど微塵も感じさせない表情で、レンがむくれる。上がってきたカイトはごめん、と微笑みレンのヘッドフォンを外させた。
「思いの他、時間かかっちゃって。はい、これお詫び」
差し出されたコンビニの袋には、アイスがふたつ、入っていた。袋を覗き、レンはちら、とカイトを見上げる。
「自分が食べたかっただけじゃねぇの?」
「うん、それもあるけど。先選んでいいよ」
云われ、レンはひとつを手に取り包装を剥いだ。まだ溶け始めてはいないが、こう暑くては時間の問題だろう。残った方の封を切っている兄に荷物とゴミを押し付け、レンはアイスを咥えるとさっさと階段を下りていく。
「え、レン。鞄は?」
「俺今、アイス食べるのに忙しいから」
荷物よろしく、と手を振る弟に、仕方ないなぁとカイトは苦笑する。まとめて持ち上げたレンの鞄は、何が入っているのかかなり重たかった。そういえば中学生の頃は、教科書などで、やたら荷物が多かった気がする。カイトは鞄を抱え直すと、降りて行ってしまったレンを追う。
兄の手で外されたヘッドフォンが、微かに首元から音を届ける。太陽はもう見えず、建物の間からオレンジ色の光を放つだけだ。やがてカイトが、隣に並ぶ。あの夏の日からもう、随分と経ってお互い身長も接し方もいろいろと変わってしまったのだけれど。
「鞄持ってやるの、駅までだからな?」
「ケチ。いいじゃん、家まで運んでくれたって」
それでも、好きなアイスの味は、覚えていてくれていた。
夕暮れは近くて遠く 【“どこかにいる誰か”イメージ文】
敬愛するZEROさまのイラストが素敵すぎて斃れたので、
もう、好きの気持ちだけで書かさせて戴きました。
ただ如何せん初めての挑戦だったので、云い出してしまったはいいけど、
穴掘って逃げたくなりました・・・; じゃあ書くなって話です。
ZEROさまの【どこかにいる誰か】
→ http://piapro.jp/content/2hsxxy06yjcnhp3g
ZEROさまのイラストに漂う、空気感が好きです。
あの独特な、ふっと動き出しそうな、自然な感じが。
その雰囲気が好きなので、勢いあまったのですが、
どうも勇み足感が否めない・・・orz
しかし初めての兄弟設定・・・!
今まで地味に、カイト兄さんとレンくんを兄弟として、
書いたことがありませんでした。
レンくんはそれまで「お兄ちゃん」とか「カイ兄」って呼んでたのに、
思春期を迎えて、慣れない感じに「兄貴ィ」って呼んでたら可愛いな、とか。
男兄弟の距離感って、なんか好きです。
・・・すみません、自分埋める穴掘ってきます。
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