※注
 wowakaPさまの「アンハッピーリフレイン」を聞いているうち
 頭の中をぐるぐるし始めた自己解釈です。
 吐き出したくて仕方がないのですがPV作る技術もないので小説で。
 多少の流血表現がございます。妄想も暴走しております。ご注意をば。
 読んだ後の責任は負いかねます。





地獄だなんて、嘘。
これはきっと幸せなおとぎばなし。
 
 
* * *
 
 
鬱蒼とした森の中、獣ではないものの足音に耳を澄ませ、慎重に足を進める。握られた手が熱い。荒い息を繰り返す蛙の王様を見つめ、ハートの女王は言う。
 
 
「大丈夫……って聞くも野暮よね。少し休まない?」
「今ここで休んだらすぐに見つかる。もう少し先へ行ってからだ」
「……。ふうん。あんたの腹が読めた。私一人を逃がす気でしょう」
 
 
命をハートの女王にくれてやる気はあっても、ハートの女王の命は要らないということか。一緒に死ねるというからついてきたのに、一体どういうつもりだ。蛙の王様はからからと渇いた笑い声をあげた。
 
 
「一緒に死ぬとは言ってない。逃げようと言ったんだ」
「逃げ切れると思ってるの? というより、あんたが途中で死んだら、私もその場で後を追うわよ」
「どうして死ぬ必要がある。俺と違って、あんたの寿命は長い。戦い以外の人生を、好きなように歩め」
「嫌よ。あんたと死ぬ」
 
 
恋心をよせる男と共に死ぬ。まるでおとぎばなしじゃないか。これ以上の幸せ、何処を探したってない。蛙の王様は着ぐるみ頭越しにじろりと睨む。負けじと睨み返すハートの女王。やがて蛙の王様は深くため息をつき、視線をそらした。
 
 
「よくもまあ、この着ぐるみ頭にそこまで惚れられるものだ」
「ええ惚れてるわよ、ぞっこんよ、めろめろよ。嬉しいでしょう?」
 
 
軽口混じりに言う。どうせ鼻で笑われると思っていたハートの女王だが、予想は外れた。蛙の王様は前を向いたまま、聞こえるか聞こえないかの音量で、ぽつりと呟いた。
 
 
「……恋をしたのが、自分だけだと思うな」
「え」
 
 
それ以上、蛙の王様は何も言おうとしなかった。
 
―――地獄だなんて嘘だ。ここはきっと、おとぎばなしの中。
上手く逃げたつもりでも相手は大人数。じきに、ハートの国の兵に囲まれた。だが絶望など微塵も浮かばなかった。そんなもの、最初から最後まで感じていなかった。八つ裂きにされたって磔にされたって、何をされたって幸せに死ねる。
 
辿り着いたのは国の果て。荒い流れの川が遙か下方に見える、きりたった崖。
 
 
「……、流石にこれは、逃げようがないわねえ」
「……、そうだな。俺も、そろそろ限界だ」
 
 
森から迫り来る兵の気配を察し、蛙の王様はため息をついた。寿命の尽きかけている自分はもとより、ハートの女王の逃げ道もまた完全に塞がれたことを悟ったのだろう。
 
 
「往生際の悪い男ね。まだ諦めていなかったの?」
「諦めるものか。人生は素晴らしいものだ、“ハートの女王”」
「知らない。私が欲しいのはあんたの命だけよ、“蛙の王様”」
 
 
笑って、ハートの女王は蛙の王様の着ぐるみ頭を撫でる。そろりと顔を近づけ、羽が触れるより軽く、キスを落とす。
 
 
「頭突きより、こっちの方がずっと素敵」
「……。悪かったな」
「ふふ。じゃあいきましょうか―――地獄の果てまで」
 
 
歌うような声と共に、一歩、足を踏み出す。
その先に道はないとわかっているから目を閉じる。全ての音をかき消す激しい水の音に身を任せる。
 
繋がる手だけが、焼けるように熱い。
 
 
もし、これがお伽噺であったなら。
優しい優しいお伽噺であったなら、二人、ここで死ねたのだろう。
 
 
冷たい水に叩きつけられた衝撃。暗く深い闇の中、落ち続ける感覚にそっと目を開ける。ハートの女王と、蛙の王様。いつのまにか蛙の王様の着ぐるみ頭は無く、涼しげな顔がそこにあった。しかしその微笑みはやけに寂しげだった。
 
 
「なるほどな。……ようやく、頭のおかしい法律の意味がわかった。これはこれでいいのか……少なくとも、あんたも俺も死なない。幸せと言えば、幸せなのか」
「何、言ってるの―――あんた、」
 
 
声がふるえる。
蛙の王様だけではなく、ハートの女王もまた、同じように“気づいた”証拠だ。ハートの女王の引きつった笑顔に苦笑を返し、蛙の王様は繋がれた手に力を込めた。
 
 
「大丈夫だ。俺の命はあんたにくれてやる。あんたの命も、俺がもらう。一緒だ。一緒なんだ」
「嘘よ。嘘。嘘! こんなものの何が“幸せ”よ!」
 
 
暗闇を落ち続ける、遙か上空。黒の中に浮かぶ“世界”は、呆気なく剥がれ落ちていた。あれだけ争って奪い合ってきた土地。踏みつけられた命、生き残った命。死んでいった数え切れない女王達。
 
 
「見なくていい。あれは、紛い物の世界だ。悲しむな」
 
 
泣きたくなるほど優しい声色で言い、蛙の王様は、そっとハートの女王の視界を遮った。乱暴に首を振って目をふさぐ手を振り払い、彼女は蛙の王様をにらみつける。

一緒に死ねると思ってた男。
もう、二度と会うことのない、男。
 
 
「嫌―――だって、忘れる! 忘れるじゃない! 触れられない、もう、話も出来ない!」
「ああ、そうだ。でも、あんたの願い通りだ」
「こんな結末、望んでない―――……!」
 
 
悲鳴のような叫びは優しいキスに飲み込まれる。落ち続ける暗闇に、突如、光がはじけた。神々しく鮮烈な光―――繋がる手の熱さが、やがてとけてわからなくなる。それは絶望。戦地ですら感じなかった、絶望。
 
 
「忘れても、二度と触れられなくても。俺たちは、地獄の果てまで“一緒”だ」
 
 
そんな“一緒”に、何の意味がある。
悲しくて悲しくて、泣き叫ぶ声が、わんわんと響く。
 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

アンハッピーリフレイン 自己解釈してみた【04】

一日で終わらせる!
と謎の情熱を持って、リアルタイムで書き殴っております。
誤字脱字がありましたらばそっと教えていただければ幸いです。

閲覧数:784

投稿日:2011/05/12 23:41:54

文字数:2,437文字

カテゴリ:小説

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