こんにちは!池下竣紀です。
誰も居なくなった古い天文台の屋上で、空に向かって大きな口を開けている巨大なブリキの器があります。それは音を鳴らすためではなく、上空から降ってくるかすかな光の粒を集めるために作られた不思議な道具です。静かな夜空から流れてくる冷たい光が、金属の大きなラッパの中で小さく弾け、波紋を描きながら底へと溜まっていきます。その底に溜まった液体をそっと掬い上げて耳に近づけると、どこか遠い場所で誰かが流した涙のような、細くて綺麗な歌声が聞こえてくるのです。
私たちが心の中で育てる創作の種も、きっとこの光の液体によく似ています。誰にも見せない秘密の notebook に書き留めた一小節や、キャンバスの隅に落とした歪んだ線。それらは一見すると意味のない無駄な足跡のように見えますが、深く澄んだ静けさの中でじっくりと寝かせることで、やがて他の誰の真似でもない特別な作品へと姿を変えていきます。完璧な形でなくても構いません。少しいびつで欠けた部分があるからこそ、その隙間に光が差し込み、聴く人の感情を深く揺さぶることがあるからです。
誰も踏み入らない屋上で、冷たい風に吹かれながら一人で金属の器を磨き続ける作業は、とても寂しく思えるかもしれません。けれど、その指先が覚えている感触や、静寂の中で見つけた小さな響きは、決して消えることのないあなただけの財産になります。言葉にならない思いや、形にできない切なさをそのまま抱きしめて、静かに次の歌を待つ時間もまた、表現の一部なのです。
大きな口を開けたブリキの器が、新しい光の粒を静かに飲み込んでいきます。その底でゆっくりと混ざり合う記憶と旋律が、やがて透明な音の波となって溢れ出し、遠い場所にいる誰かの寂しい夜をそっと包み込む日を夢見ています。壊れかけた小さな機械が刻む不器用な鼓動とともに、私たちは今日も誰も知らない新しい音を探し続けています。
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