私の真白な心に色をつけたのは……







心拍数#0822





今日も快晴。青空も茹だる様な日差しも、この部屋からはわからない。
この部屋には私とお前と、お前がもってきてくれたタンポポの花。
何もわからないこの空間にはいつもタンポポ。

『ほら、おじいさん。これでこの部屋はいつでも太陽がさしてますよ』

無邪気に笑うお前が本当の太陽だって言いたいけど、
そうしたらお前は拗ねていつもそっぽ向くから、その言葉は胸にしまって、

『そうだな、期限付きの太陽だ』

って、微笑んで答えた。


だから、お前がその期限を延ばそうと何度も太陽を持ってきてくれる。
お前はタンポポに固執してるけど、本当の快晴は期限無しの―――。




この部屋に入ってから、色んなことが変わった。
知っていたはずのものから離れ、自分さえ忘れてしまいそうだった。

それでも、お前は教えてくれた。
タンポポもそうだし、雨も曇りも、全部教えてくれた。

雨の日は、花壇の花が枯れてしまっていた日。

曇りの日は、猫のミケが障子を破った日。

お前が私にお前を話してくれる度に、この部屋には四季が巡る。



何十年と、生きてきただろうか。
そのうち何度、心臓は生を刻んできたのだろう。
そのうち何回、お前と時を共にしただろう。



お前は覚えているだろうか。


『人生って何日あると思う?』

我ながら意地悪な質問。
お前は困った顔で

『神様しか知りません』

って答えた。
そして慌てて

『私と貴方がこの先一緒にいる日数と一緒ですよ』


って、言った。




ねぇ

僕の心臓がね、止まる頃にはね

きっとこの世をね、満喫し終わってると思うんだ。

やり残したこと何もないくらい

君の隣でさ、笑い続けてたいんだ。


この部屋からきっと出れない。わかってる。私の世界はこれ以上広がらない。
それでも、何も後悔はしないと思うんだ。
きっとその時には、お前は泣いてるかもしれないけど。

でも、私の心臓が頑張って血液を流すうちは、
お前の話を聞いていたいんだ。
私の世界はお前だから。お前だけ。

もっともっとって、お前は私の心臓に訴え続けるだろうけど、
私の心臓は、お前の涙が止まれ止まれって叫ぶ。


高鳴る鼓動に伝えていく。
お前と私の鼓動は、もう決して重ならないけど、
それでも、お前を離さないって約束する。

お前が寂しくないように、寂しくならないように。


嘘だけど、嘘にならないように。





『私の心臓はね、1分間に70回生きてるって言ってるんだ』


『そうですか。じゃぁ私今走ってきたから100回位言ってるかもしれません』


『でも、今はちょっと駆け足で110回にもなる』


『え、今ですか?先生呼びますか?』


『ばあさんがいるからだ』


『え?』




『110回、愛してるって、言ってるんだよ』




お前の照れた顔は、すごく可愛い。
どんなに皺が増えても、どんなにシミができていても。

あぁ、その顔が見れたからもうなんでもいいって思える。

お前は惜しげなく私に見せてくれるから。



欲深い私は箱にしまって。




ねぇ、お前と私の出会いを運命なんて綺麗に片づけるのは無理だけど


私からしたら人生で唯一の、たった一回の奇跡だったんだ。




ねぇ私の心臓は後何回愛してるって言えるだろう。

もしかしたら明日までかもしれない。

10年後かもしれない。


どちらでも構わない。


今、

お前を愛せることに



ありがとう。




この部屋から出れない。わかってる。私の世界はこれ以上広がらない。
それでも、何も後悔はしない。
その時に、お前は泣いていたけど。

でも、私の心臓が頑張って血液を流すうちは、
お前の話を聞いていたいんだ。
私の世界はお前だから。お前だけ。

もっともっとって、お前は私の心臓に訴え続けた。


私の心臓は、お前の涙が止まれ止まれって




叫んだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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『心拍数#0822』を老夫婦で妄想。

蝶々Pことpapiyonさんの『心拍数#0822』を聴いて感銘を受けてつい創作。
PVを作ろうかと思ったんですが、画力が無いことを思い出して創作しだしたら文才も無いことに気がつきました。

初めて聞いたときに、とても幸せな老夫婦の人生が見えて、泣いてしまいました。

年を重ねても年を重ねても、愛するということ、生きるということは、隣り合わせであってほしいと思います。

閲覧数:134

投稿日:2010/09/09 00:41:05

文字数:1,674文字

カテゴリ:小説

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