『さあ、そこに在る“黒歴史”への扉を開け』
ハジマリを告げる鐘が鳴り響く。
“最後の貴族”であるあたしが、“最初の貴族”と成る時が近付いている。
『死ね。死ね。我ら民を裏切った“貴族”ども』
『死をもってして、その罪を償え!』
嗚呼。声が、聞こえるわ。この扉の向こうから。
“貴族”という身分の者を片端から排除した、民たちの憤り。
―――あたしが、何をしたというの?
『扉を開け。さらば幸は訪れん』
嗚呼。あたしの遠いご先祖様よ。
貴方も、今のあたしと同じだったのかしら?
嗚呼。開かなければいけないのね。
そして、新たな歴史を、生みだすべきなのね。
それが、“最後の貴族”の使命―――
『お行きなさい。貴女が生き残った。その意味を、果たすのです――』
優雅なドレスを破り捨て、緩やかに波打つ髪を切り捨てて。
纏う甲冑の鎧。盾を構え、煌めく白刃の剣を掲げ。
『いざ行かん。我らが誇り“最後の貴族”よ』
視えるわ、血に汚れた民の無様な醜態が。
あたしは、あたしのやり方で、“黒歴史”の道を切り開いて見せる。
『サア、ソコニ在ル“黒歴史”ヘノ扉ヲ開ケ』
戦場の荒野。駆け抜けるは一騎の黒馬。
“最後の貴族”―――彼女は物語となり伝説となり。
紡いだ“黒歴史”は永久の世へと語り継がれる―――
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