火の手から逃げついた先は、殺風景な鉄の小部屋だった。
内部に続くと思われる巨大な自動扉がある。
そして目の前に立つ、黒尽くめの男。
謎の爆発によって襲い掛かってきた火の手から俺を助けてくれたのはいいのだが、なぜかこの男のことが不審に思えてならない。
漆黒の戦闘服にタクティカルベストを纏い、そして手には見覚えがあるライフルが握られている。
顔はマスクで覆われている上に、目もゴーグルで隠され、表情が読み取れない。
初対面の上に表情も相容れないのは不安すぎる。
「どうした?」
そう考えているうちに怪訝そうな顔になっていたのか、不審そうに問いかけられた。
「いや・・・・・・なんでもない。」
もしかしたらこの男が、例の警察機関の特殊部隊隊員かもしれない。
となれば、味方に出会った、と言うことか。
「お前のことは聞いている。陸軍の特殊工作部隊だな。」
「そうだ。」
男の言葉に、なぜか呆気なく答えてしまった。
「あんたこそ警察機関に所属する特殊部隊の?じゃあ、SATか、SITなのか?」
「どちらでもない。警察にはただ試験的に籍を置いているだけで、本当は防衛省直属の部隊だ。その二つの部隊とは用途が違う。主に参謀や工作の部類だ。」
「防衛省の直属・・・・・・。」
では長官か、内閣総理大臣の指令で動いていることか。
特殊部隊は一般の軍隊と違って政治色が濃い部隊であるから、こういった軍事介入が難しい任務に動員されるのは当然だろう。恐らく、防衛省の指令だ。
「部隊としては、今回が初任務だ。この任務でその信頼性が実証されれば、警視庁の籍から姿を消し、本当に防衛省直属になる。」
その男は、他人事のように言った。
「少し喋りすぎたか・・・・・・ん。」
男の顔が、俺の体を向いた。
俺の体の隅々まで観察しているように、上下に首を動かした。
「その兵装・・・・・・お前、アンドロイドか?」
思いもよらぬ発言に、俺は少し狼狽した。
どうして分かったのだろう。
顔を見ただけでは人間と見分けがつかないはずだ。
髪は、シルバーなのだが。
「・・・・・・それがどうした。」
「陸海空とも、人間型アンドロイドの運用は廃止されたはずだ。」
「何?!」
廃止・・・・・・された?
「一体何故だ?そんな話は知らない。」
俺は男に問いただした。
廃止なら、何故俺はここにいるんだ。
「今から、丁度九ヶ月前のことだ・・・・・・。」
男は、淡々と語りだした。
「当時空軍で空中戦闘用アンドロイドの性能評価を行うために、水面空軍基地にて五機のアンドロイドによる実戦が行われた。」
「実戦?」
「そうだ。クリプトン社の協力を経て。今や政治、軍事をも操るクリプトンは、当時日本と対立していた興国に、積極的に戦闘を行うよう仰いだ。クリプトンは、興国とも深い関係を持っていたからな。そして、興国軍は秘密裏に水面基地に集中的に攻撃を開始した。だが、他の兵器とは比べ物にならない戦闘用アンドロイド、そして強化人間とゲノム人間が搭乗する戦闘機によって全て返り討ちにあったのだ。数回の戦闘を行い、十分なデータが採れたところで、クリプトンは興国軍の全軍事戦力を奪うために行動を開始した。巨大空中空母や、新型のアンドロイドを日本軍に供給し、興国の戦力を根こそぎ壊滅させていった。」
信じられん・・・・・・。
専守防衛の日本防衛軍が、他国に対して攻撃を行ったというのか。
だが、男の話しかたは自然だ。それに、俺にそんな嘘をつく理由が見当たらない。
「その結果興国は解体まで追い詰められ、消滅した。ここまでは全てうまく行っていた。だが、事件が起こった。」
「その事件というのは、まさか・・・・・・。」
思い当たる節が、俺にはある。
「知っているか。そうだ。八ヶ月前の水面基地襲撃事件だ。」
「聞いたことがあるだけだ。」
ただ、いつ起こったものなのかとか、詳細までは知らない。
「興国の軍事力を奪った空中空母の部隊を指揮していた、FA-2というアンドロイドが、突如味方であるはずの水面空軍基地を襲撃した。原因はそのアンドロイドが精神プログラムのエラーを起こしたと言われている。」
「精神プログラム・・・・・・。」
「お前の持っている感情だよ。今こうして俺と話しているように。」
「・・・・・・。」
「話を続けよう。FA-2の率いる部隊はアンドロイド達によって全滅したが、水面基地側も甚大な被害を被った。・・・・・・この事件のおかげで、軍はお前のような感情のあるアンドロイドの運用を廃止したんだ。」
「そんな・・・・・・では、俺はなぜ?」
「俺は、そんなことまでは知らん。」
「・・・・・・。」
信じがたい話だが、どうやら真実のようだ。
俺は同様を隠ず、落ち着かせようと男に背を向け、バックパックから煙草を取り出し火をつけた。
本来ならこんなものを携行して任務中に喫煙するのはもっての他だが、男は特に咎めようとしない。
「ところで、さっきの爆発・・・・・・あれは何だ。」
俺は何気なく男に問いかけていた。
「俺にも分からん。ただ、倉庫練に潜入していた俺の仲間が巻き添えになり、死んだ。」
この男の・・・・・・仲間が死んだというのに、それほど感情の変化が見られない。
「あと二人、この技術研究練に潜入している。」
「そういえば、あんた達はどこから?」
「施設五キロ先の地点にヘリからラペリングした。」
マスクとゴーグルで覆われているせいかもしれないが、声が冷静だ。
それに、この男・・・・・・。
「!!」
そのとき、部屋の奥にある自動扉の向こう側から、かなりの人数の足音が近づいてきた。
おそらく、敵。
俺は煙草を吐き捨て、踏み潰した。
「来るぞ・・・・・・。」
男は、低く呟いた。
この部屋には身を隠すものが無い。退却路は塞がれている。
つまり、このままでは・・・・・・。
足音が自動扉手前で止った瞬間、男は俺に扉の左側につくよう、合図を送った。
俺は男の考えを察知し、俺と男は扉の左右に張り付いた。
そして、扉が甲高い作動音を立てて開かれた。
次の瞬間、扉の向こう側から現れた兵士を掴み、その場に叩きつけた。
俺と男は同時にそれを行い、一瞬の内に二人の兵士を無力化させた。
扉の向こう側を覗くと、数人の兵士がこちらに照準を定めていた。
SUCCESSORs OF JIHAD 第十五話「遭遇」
てゆーか一体なんなのよこの人。
「水面基地襲撃事件」【架空】
2020年10月30日、突如空中空母ストラトスフィアを率いるアンドロイド、FA-2が精神に異常をきたし、友軍の基地である水面空軍基地を襲撃した事件。
ストラトスフィアの全戦力が水面基地に襲い掛かり、ストラトスフィア自体も水面都に突入しようとしていた
激しい戦闘の末にFA-2とアンドロイド部隊は破壊され(FA-2は自爆したと言う報告がある)、ストラトスフィアは手動で進路を変更された。
しかし水面基地も甚大な被害を被り、所有していた航空機や人員はほぼ全滅してしまった。
この事件によって、軍は感情を持つ戦闘用アンドロイドの運用を廃止した。
ちなみにこの水面基地襲撃事件によって一機を残し他の感情を持つアンドロイドは破壊されたが、機体の頭部の部品が回収されていないという。
残された一機のアンドロイドはクリプトンの計らいによって軍を去り、その後の消息はつかめていない。
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