これはある時代の小さな小さな物語。
ここは緑の国の城下町。
国土豊かで平和なこの国は作物がよく育ち貿易が盛んだった。
それ故、城下町の市場はいつも人と活気に溢れていた。
そんな中を人混みをかき分けて、キョロキョロと辺りを見回しながら歩く一人の少年。
その手には蜜柑やらバナナやらの果物の入った籠と林檎の沢山入った紙袋があった。
「…ったく、リンのヤツどこ行きやがったんだ」
(あーのヤロウ、ミカンが食べたーいだの、リンゴが食べたーいだの、バナナはいらなーいだの!ワガママばっかいいやがって…!!!!)
ブツブツと文句を言いながらも気儘な片割れを捜すのは、悲しきかな。
長年世話を焼いてきた性だった。
―――ドンッ!ドサッ!
「うわっ」
右肩に当たった衝撃に、思わず持っていた紙袋を取り落とす。
「り、林檎が…!!」
幸いというべきか、林檎がゴロゴロと転がっていくのは人混みから外れた路地。
それでも潰れてしまった幾つかにガックリと肩を落としながら、少年は紙袋を拾い上げてその中へと林檎を納めていく。
「あー…クソッ。まじでツいてない…」
ふと視線の先の林檎に伸ばされた細くて白い綺麗な手。
「あ。」
「はい、どうぞ」
目の前に差し出された林檎。
林檎の赤が栄える白い手の先には長く美しい翡翠色の髪と海の奥深くの様な碧の瞳。
その碧の瞳が柔らいで、優しい微笑みが愛らしい顔立ちに浮かべられた。
「あの…?」
呆けた少年に首を傾げる少女。
その声に我に返って、慌てて林檎を受け取る。
「っ!ごめん、なさい!あり、がとう!」
赤くなる頬と煩い心音に落ち着け、落ち着けと心の中で言い聞かせながら林檎を袋へとしまう。
「どう致しまして」
にこり、と再び少女が微笑む。
小鳥がさえずるような声とは彼女の事を言うのだろう。
うるさくなく、柔らかな声。
「あの林檎はもう駄目になっちゃったね…」
「へ?!」
若干裏返った声。
(みっともねー!)と心内で地団太踏みながら少女の視線の先へと自分も視線を向ける。
そこにはグチャグチャになった林檎とそれに群がる猫や小鳥の姿。
「あーあ。まぁいいや。食べてくれるヤツがいるんなら」
後々の制裁は怖いけれども仕方がない。
(ミカンとバナナで許してもらうことにしよう。)
はぁ…と小さく溜め息をついて頭を掻く少年に、少女は目を丸くした後クスクスと笑う。
「優しいんだね」
「は?!」
(あぁまた裏返った!)
少年の自己嫌悪には気付かずに少女は続ける。
「優しいんだなぁって思って。動物は好き?」
「…まぁ嫌いじゃない、です、けど…」
「動物が好きな優しい人は心が綺麗な人だよ」
――君は心が綺麗なんだね――
歌う様に告げられた言葉とふんわりと柔らかな微笑みに心臓が跳ねた。
キュッと心臓を鷲掴みにされた様に苦しい。
(あぁ、やられた)
恋に落ちた。
――ゴーン…ゴーン…
遠くで鐘の音が鳴り響く。
「あ、もうこんな時間…帰らなくちゃ…」
鐘の音に表情を変えると少女が呟く。
「それじゃぁ…また落とさない様に気をつけて」
「あのっ!」
スカートの裾を翻し、踵を返す彼女の背を呼び止める。
長い髪を揺らして不思議そうに振り向く彼女の瞳から、視線を地に落として少年は小さく深呼吸をした。
キッと視線を上げて瞳を見据える。
「あの!また…また会えませんか…!?」
「え…?」
丸くなった瞳に、慌てて次の言葉を紡ぐ。
「いや、ほら、拾って貰ったお礼とか!その、出来たら、って思って…!!!」
(あぁなんてベタな言葉しか出てこないんだ!)
もうだめだ失敗したと肩を落とす少年の姿に、クスリと少女が笑みを洩らす。
「あそこの橋を渡って、三又の大木に向かって右。」
「え…?」
「茂みの中で解りにくいけど、獣道があるの。それを真っ直ぐ行くと壊れかけた古い家があるわ」
「え、あ…」
「私の秘密の場所。あなたには教えてあげる」
「あの…?!」
「またね!」
それだけ告げると少女は再びスカートを翻して足早に去っていった。
ただ一人、状況についていけずにぽかんと口を空けたままの彼を残して。
暫くして我に返った少年。
「え?橋を渡って?二股?いや、違った、三又?秘密の場所?ってことは?」
(会いに行っていいってことか…?!)
驚いた様にパチパチと瞳を瞬かせた後、少年は空へ向かって大きく拳を振り上げた。
「っしゃあああああ!!!!」
少年の歓喜の雄叫び。
しかし、それはむなしくも城下の喧騒にかき消されたのであった。
「うっさいわよ」
少年の体が突如前のめりになり、そのまま地へと倒れ伏す。
少年が居たその空間には、高く掲げられた足があった。
僅かだがヒールがあったその靴は確実に少年の後頭部を打ち、少年は地に臥しな
がら痛さに身悶えしていた。
「全く、お忍びだっての解ってるの?そんなデカい声を上げて見つかったらどう
するつもり?レン」
鈴の鳴るような凛とした声が少年の背に降る。
青い瞳に若干涙を滲ませて、レンと呼ばれた少年はキッと相手を睨みつけた。
「リン!」
腕を組んでレンを見下ろしている少女ーリンはレンと同じ色の瞳に呆れた色を浮
かべながら溜め息をつく。
「一人で勝手にどこ行ってたんだよ?!お前、自分の立場分かってんの?!」
立ち上がり、怒りと痛みに声を張りあげるレン。
それに両手で耳を塞ぎ視線を逸らすリン。
「アー、キコエナーイ」
「リン!」
「アンタこそ、私の名前を大声で呼ばないで。バレるって言ってんでしょ!」
再びリンのヒールが少年の体へとめり込む。
今度は油断をしていた柔らかい腹部へ。
痛みにうずくまりながら、レンは思う。
そう、この世はいつだって理不尽だ。
そしてこの女は理不尽の固まりだ。
「もう早く帰るわよ!こんなダサイ格好してらんない!」
レンの視界の端で質素なスカートが翻る。
腹部にズキズキと残る痛みを抑えながら、レンは慌てて立ち上がりその後を追っ
た。
「そうそう」
ふと、少女が立ち止まって振り返る。
「そこに転がってグシャグシャになっている林檎の言い訳は後で聞くからね?」
小首を傾げ、にっこりと華が咲く様に可愛らしく微笑みを浮かべる。
その様は可憐で、思わず誰もが見とれてしまう様なものだったが…隠された言葉
の真意とその笑みの恐ろしさをよく知っているレンは顔をひきつらせた。
つまり『テメェ後で理由聞くから逃げんじゃねーぞ』と。
「…カシコマリマシタ」
「よろしい」
レンの返事に満足気に頷けば、リンは鼻歌を歌いながら足取り軽く帰路へと向か
った。
その背を半泣きになりなつつ眺め、そして空を見上げるレン。
嗚呼、この世はいつだって理不尽だ。
先程別れたばかりだというのに、緑の少女がとても恋しかった。
溢れそうになる涙を堪え、レンもまた、彼女の後を追って帰路を急ぐのだった。
【レンミク】悪ノ召使と緑ノ娘【1】
悪ノ召使と緑ノ娘の恋物語。
まだ未完成です。
ところどころ言葉もおかしいので、そこはスルーしてやってください。
コメント2
関連動画0
ブクマつながり
もっと見る-リン!俺らずっとずっと一緒だよな!-
-当たり前でしょう?ずっと一緒だよ!-
・
・
・
ピピピピピpガチャ
「ん…」
懐かしい夢を見た
俺とリンが14歳で、ずっと一緒にいることを誓ったあの日のこと
「もう9:00か...消滅の残り時間

N@So
「ミク姉!」
「わわっ、レン?」
ああもう大好きすぎるんだけど。
なんでこんなに可愛いんだろう。
「・・・あのー、レン?」
「んー?」
「ま、ま・・・」
「ま?」
「前からが、いいなあ・・・」
言ったと同時に真っ赤になるミク姉が可愛いすぎてこっちまで赤くなった。...大好き(レンミク)

珀月心裡
ゼロ「悪ノのギャグパロディヤルゾ!!」
リン「いきなり!!!?」
昔々あるところに~
リン「って何で国の予算がこうも減るわけ!!?」
レン「それは大臣の娘が酒を飲んでるからですよ」
リン「またかあああああ!!!禁酒法作るわよ!!!!!」
国民のことを一番に考えるいい王女様が居ました。
悪の王女ではあ...ヤンデレンと純情リンと哀れな主人4

ゼロ
この世界は異常だった。
この世界は残酷だった。
この世界は滑稽だった。
この世界には、様々な人間が、それぞれの役割を演じている。
一人は悪政を行い、革命で処刑された人呼んで『悪ノ娘』。
一人は『悪ノ...悪ノ -その後-

グーフ&ボイスレコーダー
おぼろ気な記憶の声が私に語り掛ける。
指輪を大切にしてね――
誰がくれたのか覚えてない、黒い石の古びた指輪。そういえば机の中に入れたままだったっけ……。
私は何故か突然思い出した指輪を、出してみようと思いつつ眠気に負けてベッドに潜り込んだ。
爽やかな朝の光がキッチンに降り注いでいた。木の家...凍りの心

リオロ
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ご意見・ご感想
kohaku_0218
その他
>レモナさん
私も好きです!
ご感想有難うございますー!
まさかこんな拙い作品にメッセージを頂けるとは思ってなかったので…とても嬉しいです。
続きを載せられるよう、頑張りますね!
メッセージ本当に有難うございます!
2008/11/28 00:54:24
mumu
ご意見・ご感想
すごくレンミクが大好きです!!
この小説見たときキュン死にするかと思いました(笑)
続きすごく楽しみにしてます!
お体に気をつけて書いてください。
応援してます。
2008/11/23 17:53:59