幼いときの夢を見た。
もう思い出すことは無いと思っていた、優しい両親が笑っていた。
『おいで。×××。』
もう二度と会えないと分かっていた、愛する両親が立っていた。
『おいで。愛しい×××。』
もう二度と見たくも無かった、死んだ両親が頭を撫でて抱きしめて言った。
―それはとても優しくて暖かくて―
『愛しているよ。私たちの×××。』
見たくも無かった顔は、聞きたくも無かった声は、感じたくも無かった温もりは、僕の中で小さな小さな水溜りになった。
―それが夢だと知っていても―
『大好きだよ。可愛い可愛い×××。』
―じゃあ、どうして逝ってしまったの?―
母も父も優しく微笑んだまま手を振った。
二度と戻らない故の悲しみは、僕の中で何度も何度も悲鳴をあげた。
僕から溢れ出る涙も、零れ出る嗚咽も、両親とよく似ていた。
―ああ、愛していたなんて言いたく無かったよ―
幼い頃の夢を見た。
大好きな両親が僕の名前を呼ぶ。
僕はその腕の中に風のように速く飛び込んだ。
『ただいま、×××。』
『お帰りなさい、ファティ、ムッティ。』
父の大きな手が僕の頭をぐしゃぐしゃと掻きまわす。
母の細い指が僕の頬をくすぐった。
もう二度と見たくも無かった、死んだ両親が頭を撫でて抱きしめた。
―それはとても冷たく残酷で―
『愛しているよ、×××。』
『僕もだよ。ファティ、ムッティ。』
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