午前7時過ぎ。
普段は昼過ぎ位に目覚める俺が、珍しくそんな時間に起きた。
二度寝しようかとも思ったが、目が冴えてしまっていたので、
とりあえず寝室を出てリビングに出た。
すると普段リビングの隅に布団を敷いて、
そこを寝室として眠っているミクが、やはり珍しく眠っていた。
俺はミクの寝顔が珍しくて、つい側に寄った。
スースーと静かに寝息を立てて眠るミクが愛しく思えて、軽く頭を撫でた。
するとミクがもぞもぞと動いたので、
俺はあたふたと慌てて立ち上がり、早歩きに台所に逃げ込んだ。
台所から覗き見るミクは向こう側を向いたまま、まだスースーと静かに寝息を立てている。
俺はそれに安堵すると、せっかく台所に立ったので久々に自分で朝飯を作る事にした。
 

俺がミクの分の朝飯を用意したら、ミクはきっと驚くだろう。
 

その姿を想像すると、なんだか俺はワクワクしていた。
久々の料理に腕がなる。
俺はなんだかミクを喜ばせたくなったので、
普段よりも丁寧に時間をかけて料理を作る事にした。
午前9時を回って、食器洗いも終盤に差し掛かった頃ぐらいにミクが起き出した。
1LDKのボロアパートの癖に、
変に洒落てリビングが見れる様になっているキッチンからその様子を確認する。
そんなミクはというとリビングに敷いた布団から起き出して、眠そうに何度も目を擦っている。
それから暫くぼーっとしたかと思うと、キッチンに立っている俺と、
テーブルに並べられた飯に気付いたミクはそれを交互に見つめ始めた。
そしてようやくその飯を作ったのが俺だと気付いた瞬間、
ミクは口元を覆って目を見開いた。
俺はミクのその驚き様に笑いを堪え切れなかった。
洗い物を終えた俺は台所からリビングへ移動しながら、ミクに声をかけた。
 


「どうしたんだ、ミク?」
 


かける声がどうしようもなく笑ってしまって震える。
ミクは暫く呆然と俺を見ていたが、やがてポツリと言った。
 


「マスターが……早く起きてる……」
 
「おまっどういう意味だよ」
 
「だ……だって!」
 


ミクの言葉に俺はちょっとカチンとくる。
するとミクが慌てて弁明を始めた。


「だってマスターは深夜まで起きてて朝起きれないから、
きっとこれが噂の駄目ニートなんだと思って……」
 


ミクの声が段々と小さくなる。
俺は一度静かに目を閉じて、それからまた目を開いて静かな声で言った。
 


「……ミク」
 
「は、はい」
 
「お前……朝飯抜きな」
 
「そ、そんな!」
 
「残念だなぁ……ミクの為にミクの大好きなネギを沢山使って
おかず作ったのに食べられないなんて」
 
「そんな!マスタぁー……」
 
「いやぁー残念だ」
 
「ごめんなさいマスタぁー!」
 

 
朝の食卓にミクの悲痛な叫びが木霊した……。
それから昼過ぎ。
散々ミクを苛めて終わった朝飯の片付けが終わって、
俺達は早速楽曲作りを開始した。
 


「なぁ、まず作詞から取り掛かろうかと思うんだけど……ミク?」
 
「はい……」
 


応える声に力がない。
一体どうしたのだろう?
 


「どうした?」
 
「いえ、その……マスターを怒らせたら怖いって思い知りました」
 
「なんだよ、まだ拗ねてんのか?ちゃんと飯は食っただろ?それともまた」
 
「いえ、良いです!作詞ですね、作詞!しましょう作詞!」
 


ミクはそう言って無理矢理話題を切り替えた。
俺はそれがおかしくて、少し笑った。
そうして作詞を始めたのだが……
 


「ミク、何かないか?」
 
「え?なにがですか?」
 
「なんか歌いたい曲とかテーマとか。なんかないの?」
 


作曲もした事なければ、作詞もした事ないのだ。
幾らミクに作曲の仕方を教わったとはいえ、作詞は教わりもしなかったど素人。
なにかテーマでもなければ、思い付きもしない。
 


「そうですね……私は、幸せな歌が歌いたいです」
 
「どんな?」
 
「なんていうか……あったかくて、奇跡とか希望とかそんなのを歌いたいです」
 


ミクはそう言いながら、少し哀しそうな顔をした。
どうかしたのか聞こうと思ったが、
すぐにミクがなんでもない様な顔をするので深くは聞かなかった。
俺はそのまま何も見なかったかの様にミクと詞を考えていく。
 

アレが良い、コレが良い。
この詞を入れたい、この詞は要らない。
 

そうして大体夕方過ぎまで詞を作り続け、
俺達はそのまま飯も食わずに作曲に取り掛かった。
ミクに修正を入れて貰いながら、作り始めた音は少しずつ曲になり始める。
歌詞にあわせて曲を作っていく工程は素人の俺には難しかったが
、それでもミクと一緒に進めていけば、それは少しずつ完成に近付いていった。
作業は深夜も休む事なく進み、
キーボードを叩く音とディスプレイから放たれるぼんやりとした光だけが真っ暗な部屋を満たした。
 


「ミク、眠かったら寝ても良いぞ。曲が出来たらお前に歌って貰うんだし」
 
「平気です。せっかく此所まで来たんですから、
どうせなら最後までマスターと一緒に完成させたいです」
 
「そっか」
 


俺は頷いてまた画面に視線を戻す。
最初の方は難しくて時間のかかった作業が、これだけ根を詰めてやるとコツを掴むのは早く、
俺は一人でも作業を手際良く進められる様になった。
だが早くなった分ミスを連発する様になってしまったので、
俺が打ち込んだ曲のミスに気付いたら、ミクが指摘するといった感じで曲作りは進んだ。
そうして曲が出来上がる頃には外は白み始めていたのだった。
 


「よし、出来た!」
 
「やりましたねマスター!」
 


時計を見れば朝の6時頃。
初めて作った曲は半日以上かかってやっと完成を迎えた。
 


「ミクのお陰だな」
 
「そんな事ないですよ」
 


俺達はそう言ってお互いに完成を喜び合った。
後はこの曲をミクが歌うだけだ。
だがその前に。
 


「流石にパソコンと睨めっこしながらの徹夜は疲れたな」
 


俺は疲れた目元をほぐす様に揉みながら言った。
 


「大丈夫ですかマスター?」
 
「あぁ、大丈夫だ。つか続きは一旦寝てからで良いよな?」
 
「はい。ゆっくり休んで下さいねマスター」
 
「悪いな」


 
ミクにそう言って俺はそのまま倒れ込む様にベッドに入り、すぐに眠りに落ちた。
 
そんな俺の様子を、哀しげに……
それでいて愛しげにミクが見つめていたのを知る術もなく。


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Song of happiness - 第5話【4日目】

この話から更に行数増えます。
更に読みづらくなります、すみません。
携帯からの方とかには申し訳ないです

閲覧数:93

投稿日:2010/11/19 14:15:51

文字数:2,711文字

カテゴリ:小説

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