俺は、喫茶店でミクと向かい合っていた。言わずもがな、ミクに「作戦会議よ!」と引っ張り出されたわけなんだが。というか、何で喫茶店なんだ?
 ちなみに、作戦というのは言わずもがな、この前失敗した「レンと巡音さんをくっつけよう作戦」のことである。理由はさっぱりわからないが、ミクは未だに燃えているのだ。
「とにかく、どうにかしてもう一回呼び出したいの。クオ、何かいい案ない?」
 ……思わず深いため息が出る。どうしてミクは諦めてくれないんだ。
「なあ、ミク……もう止めようぜ、こんなこと」
 ミクはふるふるとかぶりを振った。二つに束ねた髪が一緒に揺れる。はあ……見た目やしぐさは滅茶苦茶可愛いのに、なんで中身はこうぶっ飛んでるんだ。
「絶対に嫌」
 なんでこいつはこんなに意地になってるんだ? えーと、じゃあ、別の方面から攻めてみるか。
「そもそもレンの奴をお前んちに呼ぶのに無理があるんだよ」
「だって、クオと鏡音君は友達でしょ? 友達の家に遊びに行くのって当たり前のことよね。クオはよく鏡音君の家に遊びに行くじゃない」
「だからさあ、お前んちはお前んちであって、俺んちじゃないの」
「今はクオの家よ」
 いや、さすがにそれはちょっとなあ。ミクの家には中三の時から厄介になってるけど、俺は未だにお客さんみたいな気分でいる。あ、別に邪険にされてるわけじゃないぞ。俺はミクと同じ広さの一人部屋(俺の実家の部屋の倍ぐらいある)使わせてもらってるし、食事もミクと完全に同じメニュー(しかも量は俺の方が多い……ミクと同じ量じゃ少ないだろうって)だし、小遣いまでミクと同額(これまた、実家でもらってた額よりもずっと多い……)だったりするし、ミクが何か(服とか、学用品とか)を買ってもらう時は、同じランクのものを買ってもらえたりするが、そこまでされると、なんていうか……逆に申し訳ない気がするんだよな。そんなにしてもらっていいんだろうかって。
「レンに怪しまれたんだよ」
 仕方がないのでそう言ってみる。
「怪しまれたって?」
「この前、なんでいきなり自分を家に呼んだのかって、しつこく訊かれた。何か魂胆があるんじゃないかって。考えてもみろよ、レンと知り合って一年半なのに、俺があいつをお前んちに呼んだの、この前が初めてなんだぜ」
 ミクは、半眼でじーっと俺を睨んだ。怖いのでやめてほしい。
「クオ、まさかとは思うけど」
「誓って計画のことは喋ってない。適当にごまかしておいた」
 ミクがふうっと息を吐く。ごまかしの内容を訊いてきたりしませんように。さすがに何重もの嘘をつくのはしんどい。幸い、ミクはその辺りを訊いてはこなかった。次の「作戦」とやらで頭がいっぱいらしい。
「そろそろハロウィンだし、パーティーをするってのはどう?」
「断言するが、そんな口実じゃ怪しまれるだけだし、あいつは来ない」
 そもそもそのイベント、全然定着してないじゃないか。毎年商戦だけが異常に活発なだけで。
「うーん……わたしの家に呼ぶのが難しいとなると……あ、そうだわ。みんなでどこかに遊びに行かない?」
 ちょっと楽しそうかもな……はっ、いかんいかん。ミクに乗せられてる。
「行くってどこへ?」
「リンちゃんは門限があるし――あそこのお父さん、門限にはすごくうるさいのよ――近場じゃないと無理だけど」
 ミク、お前と俺も門限あるの、忘れてないか? 巡音さんのところよりは遅い時間だし、連絡さえしっかり取っておけば、伯父さん伯母さんはそこまで心配しないけど。
「ゲーセンとか?」
 呼び出す理由としてはこれが一番楽だろうなあ。ミクはあんまりゲーセンには行かないから、社会見学として連れて来たと言えば、あいつも怪しまないだろう。巡音さんは更におまけということで……。
「リンちゃんをゲームセンターに誘うのは無理だと思う。ゲームやらないもの」
「じゃ、カラオケは?」
 これまた社会見学という理由でなら(以下略)
「それも厳しいと思う。リンちゃん、クラシックしか聞かないから」
 巡音さんって、普段どういう生活送ってるんだ?
「あんまり変なところだと、レンを引っ張り出すのが難しくなるぞ」
 俺がレンと遊びに行く場合、行き先は映画館かゲーセンだ。映画は好みがバラバラすぎて難しいし――正直、恋愛映画はもうたくさんだ――、ゲーセンはさっきの理由で駄目、となると……。
「……遊園地なんてどう?」
 俺が考え込んでいると、ミクがそう言ってきた。
「遊園地か……」
 ここしばらく行ってねえな。そもそも、男二人で遊びに行くような場所じゃあないし。けど、男女混合四人連れで行くんならいいか。
「それならいけるかも」
 俺がそう言うと、ミクは嬉しそうな顔になった。
「でしょでしょ~」
 得意げだな。「褒めて褒めて」と言わんばかりだ。まあ、可愛いから許そう。
「で、いつにする?」
「リンちゃんはまだ足の怪我が治ってないから、足が治ったら誘ってみる」
 あ~、そういや、二週間ほど前に捻挫したとか言ってたな。この前ミクの家に来た時も足を引きずっていたっけ。そうなると来月か? まあ、ミクに連日せっつかれないんだからよしとしよう。レンを引っ張り出す口実も、考えとかなきゃな。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ロミオとシンデレラ 第八話【作戦会議中のクオ】

前回のエピソードでリンが言っていた「ミクの用事」っていうのは、これです。

そんなわけで次の作戦は遊園地作戦に決定したわけですが……これを書いている私は、出不精であの手のところ、もう年単位で行ってないんですよね。ちゃんと書けるんだろうか……。

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投稿日:2011/08/18 19:26:57

文字数:2,162文字

カテゴリ:小説

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