UVーWARS
第三部「紫苑ヨワ編」
第一章「ヨワ、アイドルになる決意をする」
その20「亞北ネルという親友・その2」
いよいよ明日は実技試験、という日に、ネルちゃんから電話がかかってきた。
「どう?」
別に緊張はしてないし、ネルちゃんがいろいろ教えてくれたから、迷うようなことはないって思っている。
「ありがとう。大丈夫だよ」
ネルちゃんがほうっと安心したような吐息を漏らした。
「ヨワのことだから、心配してないけど、…」
ネルちゃんが言葉を出すのを躊躇っていた。
「なあに? いつも、言いにくいことをズバッって言ってるのに。珍しいね」
「えーと、ね…」
「どうぞ」
「ヨワ、もし、落ちたら、どうするの?」
あ、考えてない。
「あは」
思いついたことをそのまま口にしてみた。
「普通高校、受けるよ」
「大丈夫?」
「公立で勉強しなくても入れるところに行くよ。で、大学出たら、UTAU音楽事務所に雇ってもらう。マネージャーになって、ネルを大々的に売り出すってのは、どう?」
ほんのちょっと間があった。
「それ、いいねえ」
また、ちょっと間があった。
「ヨワをこき使って、いいわけ?」
ネルちゃんの期待通りの答でないことだけは分かった。
「逆じゃないの? わたしが凄い仕事を持ってきて、ネルは分刻みに動かないといけなくなる」
わたしは笑った。ちょっとわざとらしく。
「ふふっ」
「へへ」
ネルちゃんの笑いもぎこちない。
少し不安になって、わたしは黙った。ネルちゃんは何が言いたいんだろう。
「でも、そうじゃないよね」
ネルちゃんの言いたいことがちょっと分かった。
「うん。一緒に、UTAU学園に行く」
わたしの言葉の後に、ネルちゃんの溜め息が聞こえた。今度はほうっと安心したような吐息だった。
「ヨワなら大丈夫。でも、手を抜いたら、承知しないよ」
「うん」
親友は、本当にわたしの心配をしてくれた。
「分かってる」
ネルちゃんの言いたいことが大体、分かってきた。
「明日は全力で行くよ、ネル」
「おう! 頑張ってね」
「おう!」
少し元気が出た。
電話は終わった。少し、気がかりなのは、ネルちゃんの言いたいことはまだあるような気がすること。
でも、敢えて言うほどではないのかなあ。それともニュアンスが伝えづらいことなのかなあ。
ネルちゃんの言葉を反芻してみた。
わたしが「手を抜く」のはあり得ないけど。ネルちゃんはそれを心配しているように思えた。
〔大丈夫。体調も万全。明日は全力投球だ〕
ネルちゃんと一緒にステージに立つことを夢に見つつ、わたしは寝ることにした。
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