ミクの兄…──シアンはやけに静かな妹の部屋の前に立っていた。
 あんなことをすれば、おてんばなミクにはかえって逆効果だと知っていたはずなのに、つい口に出してしまった。

 今頃、不貞腐れているのだろうか。

 どうなんだろうか。

 ノックして、中にいるのを確認するだけなのに、その腕が重い。
 もう10時半だ。出かけていれば返事はないだろう。ミクはどんなに不貞腐れていてもノックをすれば返事ぐらいはする。ただ誰か分ったら中に入れないだけ。

 あの手紙…――。

 忘れもしない。
 あの手紙は…――自分が愛した人も『18歳になった時に受け取っていた』手紙だ。
 彼女…──ローズは一緒に見に行こうよ、と誘ってくれたが、その日は生憎泊りがけの仕事があったため行けないと断った。変わりに、どんなことをしていたか教えてほしいと頼めば、喜んで引き受けてくれた。
 ローズは、その手紙を持って家を出た所をご両親が見送って、最後。

 そのまま帰ってこなかった。

 森の中を探しても、見つからない。
 犬を使って捜索させたが、失踪してから数日後には雨が降って断念せざるおえなくなった。
 あの日を、何度後悔しただろう。
 一緒に行っていれば、彼女は失踪することなんてなかったはずだ。

 後悔しても、後悔しても…――あの無念は、まだ蟠っている。
 ミクも、居なくなって寂しがっていた。夜、泣いていたのだって知っている。

 彼女は、自分だけではなくミクにとっても大事な人だった…――それを自分は…。

 がしゃん。

 突如、ミクの部屋からガラスの割れる音がした。

「ミク!」

 有無を言わさず扉を開け放つ。躊躇いが消え失せた視界に映ったそこには、割られた窓ガラス。
 そして。


「ミク!?」


 最愛の妹が居ない、がらんどうの部屋。
 風に煽られて、カーテンがゆらゆらと揺れていた。


♪☆♪


 振り向けない。

 「見てしまったね」と、カイトの声。

 喉がカラカラに渇いて、ごくりと唾液で喉を潤す。

 レンが「Danger dangeR!」と笑った。

 耳元に響く心音。
 額に脂汗が滲んでいる。

 「怖がらないで?」なんて励ましているような台詞にそぐわない明るい口調のメイド。

 もう、いやだ!!

 ミクは出入り口に立ち尽くす家の住人達の間にある隙間を通り抜ける。

 「Where are you goinG?」と完璧な発音で少女が発音すると、それを翻訳するように神威が「どこにいくのです?」と問いかけ…──。

「お待ちなさい」

 そう大合唱する中、逃げ出すミクの肩を神威に掴まれ、動けなくされる。

「嫌だ、離して! 私、帰るの! 帰るのぉっ!!」

 「ネェネェ」とリンが呟いて、レンが「遊ぼうよ」と誘う。

「遊ばない! 私、家に帰るの! お兄ちゃんの所に帰るのぉーっ!!」

 いやいやと体を揺すっていると、カイトとメイコは横に並び、ミクを押さえている神威の横にグミが一歩踏み出し並ぶ。

 遊んで欲しいらしいリンとレンは、ミクの周りをぐるぐるとスキップしている。

「台本通りに進むのかい?」とレンに続いて「今宵ハドウナルえんでぃんぐ」とリンは歌う。

「ソウ全テハ君次第」
「そう全ては君次第!」

 人形達は歌いながら続ける。

「探セ、探セ、はっぴーえんど」
「順番間違えたらオ・ワ・リ☆」

 リンは天窓を指差して。

「Ture enDハ棺入リ?」
「さぁ、今夜もBat∞end∞nighT☆」

 そんなの、知らないよ!!

「やだやだやだ! 私、死にたくない! 家に帰るの! 帰りたいの!! 返して! ねぇ、お願いだから返して!!」

 再び暴れて神威から逃げようとするがビクともしない。
 そんなミクに、住人達は投げ掛ける。

「舞台が終われば」
 主人と婦人は呟き。

「帰れるでしょう」
 メイドと執事が台詞を閉じた。

 尚も、双子人形は遊ぼうよとせがんで来る。

「舞台って何よ! 何なのよ!? 私、知らないよぉっ!!」

 四人は閉口し、顔を俯かせている。

「帰ッチャウノ」とリンが真っ赤な瞳で首を傾げると、レンがちぇ、とつまらなさそうに頭の後ろで手を組んだ。

「家に帰してよ! 帰してってばぁあ!」

「舞台が終われば」
 主人と婦人は呟き。

「帰れるでしょう」
 メイドと執事が台詞を閉じた。

 感情の色を失った住人達は、まるでこれが自分達の台詞だと言わんばかりに、抑揚なく繰り返した。

「教えてよ! 意味がわかんないよ! 舞台って何?! 終われば帰れるって、どうやって終わらせるのよ、この人殺し!」

 罵詈雑言を浴びせてようやく神威がぱっと手を離した。前のめりになって逃げようとしていたせいで、また床に突っ伏した。

「舞台が終われば」
 主人と婦人は呟き。

「帰れるでしょう」
 メイドと執事が台詞を閉じた。

 気持ち悪い!

 ミクは階段を駆け下りる。グルグル回るように降りる階段。それに代わり映えのない石を詰められただけの階段。無限ループしていつまでに経っても降りられないのではないだろうか。それを助勢するように、まってよーっとレンの声が聞こえる。

 息を切らせて、恐怖からあふれでる涙をぬぐいながら、ミクはひたすら階段を下った。

 やだやだ!
 私、帰りたい!
 こんな所、もう居たくないっ!

 無事居間にたどり着いて、エントランスまで飛び出す。
 ドアにしがみついて取っ手をぐいっと引っ張る。しかし、がちゃん、と固い引っ掛かかりに解放は阻まれた。

 鍵が掛かってる!

「鍵かけんじゃないわよ、馬鹿っ!!」

 鍵、鍵、鍵!
 誰が持ってるの、鍵!!

 アイツらの誰かよね!?
 誰?!

 やっぱり、持ってるなら家の主人…!

 でも、どうやって奪い取る?
 あいつらはグルになってたくさんの人を殺してるんだ…!

 だんっ、と扉を叩き付ける。


 奪い取らなきゃ!


 私はお兄ちゃんの所に帰らなきゃいけないの!
 お兄ちゃんの所に帰りたいの!

 あの人みたいになったら、お兄ちゃんがまた泣きたいの我慢して、泣かないの!
 大丈夫だって強がるんだから!
 お兄ちゃん、本当は…本当は本当は泣き虫なんだから!


「お兄ちゃんは、私が居ないとダメなんだからっ!!」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

Bad∞End∞Night【自己解釈】⑤~君のBad Endの定義は?~

本家様
http://www.nicovideo.jp/watch/sm16702635


書いてたら、何かね。
お兄ちゃんの名前は青色の名前。
婚約者は、ピンク色の名前。

亜種があんまり分からないのですよ。

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投稿日:2012/05/13 19:59:47

文字数:2,643文字

カテゴリ:小説

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