"a...Sew... Sew zot ly-ch I-dyss."
"嗚呼、私の…私の尊き愛しの王"


 北の果て。そこは、雪の降る場所。北の果てにあるその国を治める帝王は、平和を愛してて、その実力から『賢帝』と呼ばれている人だった。
 私は、その彼のもとに使える1人の……戦士。周りからは『雪菫』とか『冬戦の花』と呼ばれて、名将といわれる部類に入るみたい。雪菫という名前は、賢帝の彼から聞いたのだけれど、どうやら雪の散る戦場を軽やかに舞う姿が的にはそう見えたのだそうだ。私はよく雪原の戦場にいたけど、軽やかに舞ったりなんてしてない。ただ、生き延びることに必死なだけ。でも、周りがそういうから、そうなった。よくある事。だから、気にしたりしない。
 たくさんの功績を残した。そのおかげで彼の1番近くにいることができている。
 財産や名誉なんてどうでもいい。ただ、彼の近くにいる事が出来れば――。
 
 今日は、国立記念日だ。この国ではそれはそれは盛大にそれを祝うのが習になっている。他国の上部の人間が我が国まで出向いて挨拶をしに来たりするけど、それは貴族の人たちの政治的なものなので一般人にかかわりは薄い。
 だから、何よりも楽しみなのは、記念祝祭と称して開かれるお祭り騒ぎ。たくさんの人が会場に詰めかけて、1人だったり大人数だったりの催し物を見て行くのだ。勿論、国を挙げての1大イベントだから、その分警備もきつい。私の率いる部隊も、このお祭りには参加を義務付けられている。
 その役目が警備では、ないけれど。
「雪菫さん。ちょっと疑問に思ったんですけど、なんで剣士やってるんですか? って思って。ほら、雪菫さんって確か18で若いし。野心が強くて名誉とかそういうのがほしいわけでもないし。やっぱり、ちょっと分かんないですよ。」
 祝祭が始まる前のこの時間は結構暇なもので、私は自分の隊の人たちと会話をしていた。そんな会話の中の1コマ。
「ああ、それは……ごめんなさい」
 言い淀むと、彼らは何かを察したみたいだ。兵士には暗い過去をもった者も多いからきっとそう思ってくれたのだろう。それを見越して、私もそんな反応をしたのだけれど。でも、その所為で少し、場の雰囲気が悪くなってしまった。わずかなその変化を元に戻そうと、私に質問をしてきた方の剣士が話を振った。
「じゃあ、好きな人とかは!?」
「え…………。」
 思わず顔が赤くなる。
「そ……それ、は。」
「え、いるんですか!?」
「まじか! ……で、誰なんですか。」
 恥ずかしい。真っ赤になってしまう自分が恥ずかしい。見られたくなくて、うつむいてしまう。あぁ……なんでこんな話題振るのっ!
「な、内緒、ですっ!」
「もしかして、賢帝だったりして!」
「!」
 ま、待って自分。動じるな……。相手は、冗談のつもりで言ってるんだから聞き流しておけば大丈夫なの。ほら、座ってる賢帝の方を見ないっ。
「……そう、なんですか?」
「うぅ……。」バレバレ……。「内緒に、してくださいね」
 剣士が、賢帝に恋をしたところでそんなの不釣り合いだ。王様は姫様と結婚する。色々考えたとしても、当たり前の事。そもそも彼が、振り向いてくれるわけがない。だからこそ、隠しておきたかった。
「って事は、剣士をやってる理由もそうなんですね?」
 確認するように聞かれた。首を振ったところで、ウソなのはすぐにばれそうなのでもう認める。そうだ。私が武勲をあげるのも、そうして位が上がれば彼に近づけるからだ。でも実際に、数々の功績を上げて、兵士の中では一番彼に近い位置にいる。
「と、とにかくっ。もうすぐで祝祭も始まるから私は行くますっ。全員、整列!! 間もなく祝祭が始まる! 近衛隊として、恥じない行動をするようにッ!」
 前半はもう早く会話から逃げ出したいがためのいいわけだった。後半は、隊にいる全員への言葉だった。リンゴみたいに染まった頬をしながらなのであまり格好はついてないと思う。あぁ……。
 警備として祭りに参加するのではなく、催し物を見てきている賢帝と少し離れたところで、厳かな反応をしてきりりとしているのが私たちの役目。だけど、私は国民にもよく知られた存在であり、同時に賢帝と並ぶ英雄的存在だった。だから、近衛隊の彼らから離れて、彼が襲われないよう注意しながら賢帝の横に付くのが私だ。
 兵士として、剣士として、1番あなたの近くにいられる場所。
 その場所に向いながら1歩1歩賢帝に近づくのを意識してドキドキしてくる。彼は無表情だったけど、私が隣に立ったのに気付いた時だけ、その表情を崩して優しく笑った。
 たとえ、一方的な片思いでもいい。その笑顔を見ているだけで、今の私は幸せだから。
 国立記念祝祭が……今、始まった。



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ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

或る詩謡い人形の記録 2 -雪菫の少女-

  ※この小説は青磁(即興電P)様の或る詩謡い人形の記録(http://tokusa.lix.jp/vocalo/menu.htm)を題材にした小説です。
 
ヤリタイホーダイ(http://blog.livedoor.jp/the_atogaki/)というブログでも同じものが公開されています。
こちらの方が多少公開が早いです。

 
始 http://piapro.jp/content/0ro2gtkntudm2ea8
前 http://piapro.jp/content/0ro2gtkntudm2ea8(始のアドレスと同じです。)
次 http://piapro.jp/content/x2uqs96cqn35qtpq

閲覧数:289

投稿日:2009/06/18 01:46:49

文字数:2,043文字

カテゴリ:小説

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