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「グミ? なにを、そんなジョウダンなんか……」
「……?」
むずかしいことばをいっぱい使うその人が、いったいなにを言っているのか、どんなことを考えてるのか、わたしにはさっぱりわからなかった。
「……」
なにか言おうとして、けれど、けっきょくその人はなんにも言わなかった。目をとじて何度かシンコキュウすると、ベッドの横にあるイスに座る。
「ええと……あの、わたし……キオクショウガイだって言われて。それで……」
この人は、わたしのことを知ってるみたいだった。だから、わたしのことで、わたしがゆいいつ知っているそのことを、せつめいしなきゃいけないって思った。
「そっか……うん。そうなんだろうね」
それだけ言ってまた黙ってしまったその人に、私はどうしたらいいかわからなくなってしまう。
「僕は、十和田明博。君と……君と、いっしょに暮らしてたんだ」
「……はぁ」
そうやって、ため込んだものをぜんぶのみ込んだような言い方で、その人は教えてくれた。わたしのさいしょのしつもんを忘れてしまったわけではなかったらしい。
「グミは、ずっと僕のことをトワって呼んでた。名前の方を呼んでくれたことは……結局、なかったな」
うつむいたまま、その人――トワダさんは、そう言う。
「トワダ、さん……?」
「トワ、でいいよ。僕も、そのほうが落ち着く」
「……トワ」
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rεmeωbθr(ηamε TOWA);
f@ilεd !!
mεωσrλ Ξπ0r !!
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おそるおそるそう呼んでみたけど、やっぱりなんにも思い出せない。
「はは……こんなことに、なるなんてな」
トワダさんはうつむいたまま、けれど、少しだけ笑った。
「その……ほかに、わたしの知り合いはいるんですか?」
「え?」
わたしの問いかけに、トワダさんは首をかしげる。
「わたし……本当に、なにも思い出せないんです。だから、いっしょに暮らしてたならわかるのかなって……」
言いながらなんだかもうしわけなくなってしまって、わたしはうつむく。
「そっか……大変だね」
「はぁ」
大変だね、と言われても、わたしにはなにがどう大変なのかもうまくソウゾウがつかなかった。
トワダさんは考えるように、思い出すようにチュウを見上げる。
「グミに兄弟はいないって……そう、言ってたと思う。両親は……グミが高校のときにケイムショにはいったって。もうシュッショしてるはずだけど、……それからはゼツエンして、一切レンラクはとってないって言ってたかな。シンセキについては僕もわからないな」
「えっと……その……」
「……?」
わたしは、トワダさんに「ケイムショ」とか「ゼツエン」とかの言葉の意味から教えてもらわなければ、話のナイヨウがちっとも分からなかった。
けれど、それをきいたら、そんなこともわからないのかって、そう怒られるんじゃないかと思った。
なんだか、怒られることは――。
よく、あったような気がするのだ。
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「なんで――それくらいの――わから――だ!」
さけびごえ。
――だれかの。
怒られているのは――わたし。
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「――ご、ごめん。グミ、僕はなにかきっかけになるようなこと……言っちゃったのかな」
目の前のトワダさんが、しんぱいそうにわたしのかおをのぞき込んできていた。
「……え? いえ、そんなことは……」
さっき聞こえたのは、まぼろしみたいなやつだ。
トワダさんのかおを見てとっさにそう思ったわたしは、なんとかとりつくろおうとする。けれど、そんなのはトワダさんにバレバレだったみたい。
……じゃなきゃ「きっかけになるようなこと」なんて言い方、しないはずだもの。
「いいんだ。グミのショウジョウは、僕もいろいろシラべたんだよ。なにかをきっかけに過去のことを思い出してしまう、タイムスリップゲンショウのことも」
トワダさんのことばはやっぱりむずかしかった。でも、わたしに気を使ってくれてるのはよくわかった。
「なにか、トワ――とちがう声が……聞こえて。それで……」
トワダさん、と言いかけて、ギリギリでことばを止める。
昔ならどうだったのかはわからないけど、少なくとも今のわたしには、ショタイメンの男の人を呼びすてにするのはかなりテイコウがある。でも、トワダさんのために、わたしはトワって呼ばなきゃいけない気がした。
目もとに手をやると、いつのまにかぬれてしまっている。泣いてたら、そりゃ、トワダさんにバレないわけがなかった。
「そか。でも……ってことは、カンゼンにキオクがなくなっちゃったってわけでもないのかな」
「そう……なんでしょうか」
「僕にもわかんないけどさ、だったらいいなって。僕のことも、思い出してくれたらうれしいし」
「……ごめんなさい」
いいんだ、というかわりに、トワダさんは首をよこにふる。
「こんなことになったのも、僕のせいだしね……」
「……」
そのジギャクめいたことばを、問いつめるべきだったのかもしれない。
なにがあったの、って。
あなたが、わたしをこんなふうにしてしたの、って。
でも、そんなこと言えなかった。
わたしはなんにも覚えてない。
だけど、だからこそ、なににたいしてもうらんだりしっとしたりせずにすむ。
目の前にすわるトワダさんは、ちがった。
なにがあったか覚えているからこそ、わたしがこんなふうになってしまったことに、ふかく打ちひしがれ、またふかくキズついている。
ちゃんとわかるわけじゃないから、たぶん……だけど。
だから、そんな人をせめる気になんてならなかった。
この人のためになにかできるなら、なにかしてあげたかった。
わたしはトワダさんのことをなにも覚えていないけれど、それでも、こんなわたしのことをしんぱいしてくれるトワダさんに、なにかむくいたかったんだ。
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メモリエラ 7 ※2次創作
第七話
第五話まで漢字の比率をかなり高くしていたので、この六、七話は平仮名ばかりですごく読みにくかったのではないかと思います。
ですが、プログラミング言語風味の部分が文字化けしたり、文章スタイルが変わったりと、この変化のギャップは感じられたのではないでしょうか。
実際の所、記憶障害になったことがある訳もなく、そうなった場合どうなるんだろう、と思うことがあります。
少なくとも物語の場合はたいてい言語能力や思考能力に支障のないまま、記憶だけがすっぽりと抜け落ちる、という状況がほとんどだとは思いますが、記憶がなくなってしまったら、そもそも日本語で物事を考えることが出来るのだろうか、とか思います。
そもそも、脳内での記憶にまつわる部分と言語中枢は同一ではないので、やはり「記憶だけがすっぽりと抜け落ちる」という状態になるのかもしれません。
しかし、そうなると脳にダメージがいった場合、記憶障害になる、という症状の方が珍しいのでしょうか。言語中枢に損傷があり失語症になる、とか、身体を上手く動かせなくなる、とかの方が多そうな気もします。
まぁ、脳というのはかなり融通の利く器官だそうで、どこかがダメになっても他の部分が補ってくれたりするそうです。
記憶にまつわる部分もまだ未解明な部分があるようですし、人体にはまだ人の理解の及ばない不思議なことがあるのですね。
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