歌うために作られたからと言って、何もかも完璧に歌えるわけではない。
失敗だって勿論するし、上手くいかない時だってある。
―――なのに。
どうして君はそんなに泣くの?
「リン、なかないで」
僕の目の前には、うずくまって泣きじゃくる片割れの姿。歌が上手く歌えないと、スタジオを飛び出していったのだ。連れ戻してくると言って、僕もリンの後を追いかけてきたら、随分離れたところまで来てしまった。
僕はしゃがみこみ、彼女に目線を合わせる。
「…れぇん」
ひっく、ひっくとしゃくりをあげながら、リンは僕の顔を見上げる。目からはぼろぼろと涙が止めどなく溢れていて、既に地面にはいくつもの染みが出来ていた。
僕は何も言わず、リンが言葉を発するのをじっ、と待った。情けないことに、ここで僕が何を言ってもリンを不安にさせることしか出来ない。だから何も言わずにリンの出方を待つ。
「私、歌えない」
ぽつり、と呟かれる台詞。
リンのしゃくりが治まってきた頃の事だ。
「どうして?」
「頭では判ってるのに、声に出ないの」
そこまでいい終わるとリンはまた瞳の水分を潤わせた。そんな彼女になるべく優しく微笑みかけて、右の掌を壊れ物を扱うかのように、そっ、と頬に触れる。
「リンは、歌うことが嫌いなの?」
「…ううんっ!大好き」
ブンブンと勢いよく頭を横に振る。
「じゃあ、歌おうよ」
そう言うとリンはまた俯いてしまった。
僕は彼女の顔を優しく包み込み、俯いた顔を持ち上げる。
「私はっ…レンみたく上手に歌えない!」
弱々しくも精一杯絞り出した一声。僕はびっくりしてリンの目から視線をそらせずにいた。潤んだ瞳に嘘は見られない。
「私が悪いのにっ!レンに一方的に嫉妬しちゃって。そんな自分が、嫌で嫌で仕方が無くて!最悪だよね…私。」
―――こんな私が嫌い。
リンはそういうと、再び泣き出した。ここは泣きたいだけ泣かせた方がいいかもしれない。リンを胸に抱き寄せ、背中をさする。
落ち着いてきたのを確認すると、抱きしめる力を少し強めた。
「僕は、リンの歌好きだよ。」
「うそだっ」
「本当」
「うそうそうそ!」
リンは必死で僕の腕から逃れようと力を入れたが逃がすコトなんてしない。
「リンは、僕の歌スキ?」
「……だいすき」
ちょっとだけ、リンの力が緩むのがわかった。それから、リンが僕の歌を好きだと言ってくれて嬉しい気持ちになる。
「覚えてる?僕達の始まり」
「…うん」
「僕はリンの片割れだけれど、リン自身でもあるんだよ?」
鏡に写したもう1人の自分。
確かに僕は僕だけど、リン自身と言っても過言ではない。
「僕のことは好き?」
「好きっ!大好きっ…!」
僕はリンを抱く力を緩めると、両肩を掴み向かい合う。
「だったら、自分も好きになって」
「どうして?」
「リンは、僕でもあるんだ。だからリンが自分を嫌いって言うのならば、僕のことも嫌いってことになるんだよ?そんなの、淋しいよ…」
こういうとリンは凄く悲しそうな顔をした後、ごめんね、と繰り返しながら抱きついてきた。ぎゅっと巻かれた腕の力はそこまで強くなかったけれど、僕はその腕から逃げようとしても絶対に逃げられないだろう。
リン。
僕は君が好き。
君も僕の事を好きという。
それは当たり前のことなのかな?
そうやってプログラムされてるのかな?
出来て当然のことって一体何?
ボーカロイドが上手く歌うこと?
片割れを好きになること?
それを当たり前というのならば、僕達はいつか壊れてしまいそうだ。
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もし、この感情がプログラムだとしても、
リンを好きだという気持ちは
事実であって欲しい。
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