「「ただいまー」」
 あ、ハモった。
 私は慌てて葵を見る。
 葵は素っ気無く別の方向を向いてしまう。
 少し嬉しかった。
「なああおいー」
「私、忙しいから」
 葵は私の手をかわして、リビングに行く。
 また実況動画を見るらしい。
「じゃあ葵、私はいってくるね」
 返事はない。
 少しさびしくなる。昔の私にビンタをしたくなった。
 そんなさびしい気持ちを抱えたまま、お風呂へ向かった。
 脱衣をして、湯船にゆっくりとつかる。
 ココロに浮かぶのは、葵との姉妹関係だ。
 数日前とはだいぶ違う。結構進歩した。
 よそよそしくなっていた姉妹関係も、一歩ずつ前進している。
 でも、まだまだ小さい頃とは違う。どうにかしないと。
 きっかけがなかった。
「ん?」
 視線を感じて後ろを振り向くと、ガラスの向こうに葵が立っていた。
「あおい?」
 慎重に慎重に、やさしく声をかける。
「一緒にはいろう。お姉ちゃん良い?」
「いいよ」
 葵が入ってきた。
 私はゆっくりと湯船から出て、葵の後ろについた。
「お姉ちゃん……」
 柔らかい沈黙が、周囲を漂う。
 妹の葵が、姉の私の代わりに勇気を出してくれたのだ。
 私もここで勇気を出さないと、姉として情けない。
「あおいー、背中流すね」
 私はそれから丁寧に丁寧に葵の背中を流した。
「なあ葵。今までごめんね。お姉ちゃんなのに、葵に嫉妬してた」
「ううん。お姉ちゃんは悪くないよ。……私だって、お姉ちゃんに嫉妬してた」
「え?」
 私から切り出したことで、葵が饒舌になっていく。
「お姉ちゃんのコミュ力、うらやましいもん」
「私だって、葵がうらやましい」
「たった数分違いなのに、ずいぶん違うね」
「お姉ちゃんだから、気負いすぎたのかな」
 嫉妬の気持ちにかられて、葵を突き放していた過去を私は思い出す。
「お笑いには興味ないけどね」
「実況動画には興味ないけどね」
 私と葵はお互いに笑い合った。
 葵がこちらに振り向く。
「ねえおねえちゃん、ぼいすろいどを絶対完成させよう!」
 葵は両手をグーにして、上目遣いに見てきた。
 私は胸を張って言った。
「絶対に」
「そしたらおねえちゃん、実況動画やろうよ」
「え、でも」
「お姉ちゃんは叫んでるだけで大丈夫だから」
 私が叫ぶだけで、実況になるの?
「私が解説する」
 それなら、私たちに出来るかもしれない。
 私たちに新たな目標が出来た。

 それからすぐには収録が終わるわけではなかった。
 でも、毎日その収録の反省と勉強を繰り返していくうちに、次第に収録が上手くいくようになっていた。
 そして待望の
「はい。終り。お疲れ様でした」
 偉い人のその言葉を持って、収録は終わった。
 私たち姉妹と家族は大喜びだ。
「あんたたち、最高よ!」
 お母さんの喜びもすごい。
 スタッフさんたちもガヤガヤと楽しそうにしている。
「茜、葵、欲しいものなにかある?」
 終始機嫌が良いお母さんが言ってきた。
 私たち姉妹は顔を見合わせる。
「「それは――」」

「ぎゃああああああ、死ぬ、死ぬ」
「お姉ちゃん下手糞」
 私たち姉妹はさっそく実況動画を作り始めた。
 最初のゲームはホラーゲームだ。
 なんでホラーゲーム?
 私のリアクション観たかった葵の所望らしい。
 お姉ちゃんとして、駄目だとはいえない。
 私はなんせ誇りあるお姉ちゃんなんだから。
 ほんと、RPGのほうが良かった。
 でも、妹のためなら仕方が無いね。
 ――グサッ
「あ」
「お姉ちゃん、あうとー」
 葵の「駄目な姉だ」と訴えるような顔にイラッとした。
 そっちがそのつもりなら、こっちも覚悟を決める。
「お姉ちゃんを舐めないで」
「プップクプー」
 でも勝とうが負けようが実はどうでもよかった。
 こうして一緒に居ることが大事なのだ。
 私はニヤニヤする顔を引き締めて、悟らせないようにして、ゲームに没入していった。    END 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

琴葉茜『お姉ちゃん』2/2

 琴葉茜ちゃんが「お姉ちゃん」になる物語です。

 もしよろしかったら読んでみてください。よろしくお願いします。




 表現したいものを表現する、って難しいなぁ。
 まあ日々精進するしかないよね。

 次はレンくんとリンちゃんの兄妹物語を書いてみたいと思います。

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投稿日:2019/05/04 11:06:55

文字数:1,647文字

カテゴリ:小説

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