この物語は、カップリング要素が含まれます。
ぽルカ、ところによりカイメイです。
苦手な方はご注意ください。
大丈夫な方はどうぞ。
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彼女は何時も、店のカウンター席の隅に座っている。
ここはMusic Bar。休日前の夜を中心にライブがある、音楽と店の雰囲気を楽しんでもらう為の店。
ジャズの流れることの多い店だが、音楽のジャンルは特に問わない。あえて言うなら「この店の雰囲気に合う音楽」だけが条件という少し気楽なものだ。
今日も彼女は店に来ている。
がくぽは彼女が頼んだドリンクを、カウンター越しに差し出して置いた。
ありがとうございます、と彼女は控えめに微笑む。
彼女が最初に来たのは数ヶ月前。確か他の客と一緒だった。その後も一人でよく通ってきている。
誰かと話すでもなく、酒を飲むでもなく、ただゆったりと音楽を楽しみ、ライブの時は眩しげな眼差しでステージを見つめ、曲が終われば穏やかな拍手をし、静かに帰っていく。この店の空気に溶け込んでいるかのような女性。
よく見れば美人だしスタイルも申し分無い程、長く美しい桜色の髪も目に付きそうなはずなのに、彼女の持つ雰囲気と、控えめ、というよりも地味と言ってしまった方がいいくらいの服装のせいか、あまり目に留まることはない。
しかし店のマスターであるがくぽは、彼女には不思議な魅力があるように感じていた。内に秘められた、しかし上手く説明できない何かを彼女は持っている。
ただそれは単なる直感で、彼女と話をしたことはほとんどなかった。彼女との接点は店のマスターと客というだけで、特に他の客と違いはない。
「マスター、今日はこの辺で上がらせてもらっていいですか?」
店のアルバイトのレンが、後ろから突付きながら訊いてきた。振り向くとレンの背後には双子の姉のリンも小首を傾げてこちらを見ていた。
「ああ。ご苦労様、今日もありがとう。」
「はーい。お疲れっしたー。」
「それじゃマスター、お疲れさまです。お先に失礼しまーす。」
軽くぺこりと頭を下げてロッカールームへ行く二人に手を軽く振って、がくぽは店の業務へ戻った。
今日はライブが無い日。連れ立って飲みに来る客がある程度居るが人数もさほど多くない。その客達も徐々に帰っていく。
それらの客を見送りつつ、通常なら十二時くらいには仕事は終わる。
だが今日は違った。
店を見渡すと、最後の客は例の彼女だった。通常なら彼女はこの時間既に帰っている筈だ。
がくぽはカウンターの側から彼女を見た。何か考え事でもしているのか、その顔は少し思い詰めているように見えた。
「どうかなさいましたか?」
「……えっ?」
弾かれた様に顔を上げた。
声を掛けられたことに驚いているようだ。がくぽを見、そして店内、時計と視線を移し、彼女は俯いた。
どうしたのだろう。
がくぽが顔を覗き込もうとすると、突然彼女が顔を上げた。
顔が思ったより近付いて、がくぽは驚いて一歩下がった。
「すみません。」
「ごめんなさいこちらこそ。」
彼女は顔を少し赤らめて言い、次に緊張した面持ちに変わった。
「突然で申し訳ありません……お願いがあるんです。」
一度だけこのお店のステージで歌ってみたいんです、と彼女は言った。
普通の仕事をしているけれど、歌うことを忘れられない。でも自信がなくずっと胸に仕舞い込んでいた。
けれど雰囲気に惹かれて店に来るようになってから、歌いたい気持ちが抑えられなくなった。
他の客が居るときは恥ずかしいし人に聴かせるだけの自信は今もないけれど、それでもステージの上で一度歌いたい、と。
「いいですよ。」
真剣に言葉を重ねる彼女に、がくぽは微笑んで言った。
「但し条件があります。」
「条件……?」
「一人きりで申し訳ないですが、私が観客になります。いいですか?」
少し不安気だった彼女の顔がほころんだ。
「はい!」
彼女はステージの上のピアノの前に座った。指を慣らすように鍵盤を叩く音が滑らかに響いた。
「それでは、歌います。」
ステージの前に椅子を一つ置いてがくぽは座り、彼女に頷いた。
それは聴いたことのある曲のジャズアレンジだった。恐らくアレンジは彼女のオリジナルだろう。
流れるピアノの心地よい響きに、彼女の時に高く柔らかく時に落ち着いて響くしっとりとした歌声が美しく重なり、それが胸を震わせ周囲の空気へ溶けた。
何より歌っている彼女の表情は美しく楽しげに輝いて、何時もの彼女とはまるで別人の様なその魅力が一際眩しく見えた。
歌声と音に身を任せ彼女を見つめている間は別の空間に居るようで、時間は瞬く間に過ぎた。曲が終わっても暫くその余韻に拍手も忘れていた。
「……ありがとうございました。」
彼女がピアノの椅子から立ち上がりお辞儀をした時、ようやくがくぽは我に返った。
顔を上げた時、彼女は少し頬を上気させ、何時もより生き生きとした微笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「下手でしたけど、最後まで聴いてくださってありがとうございます。おかげですっきりしました。」
「下手だなんて……。」
拍手だけでは到底足りない。がくぽは立ち上がって彼女に近付き、その両肩を掴んだ。
「お願いです。店で歌ってください。」
「え……ええっ?!」
彼女はうろたえた。
「そ、そんな、私……。」
「下手なんかじゃない、本当に素晴らしかった。あなたの歌をもっと聴きたい、他の人にも是非聴かせるべきです。」
彼女は驚きに目を瞬かせた。
「お願いします、どうか、今度は他の人も居る時に店のステージで歌ってください。」
言い終わってもがくぽはひたと彼女を見つめ続けた。顔を赤くし彼女は困惑して視線を泳がせた。そして根負けしたように俯き、蚊の鳴くような声で言った。
「……はい。」
Music Bar -第1話-
がくぽがMusic Barのマスター、ルカがその客という設定です。
ボーカロイドの小説は色々な設定で書かれているのを目にしますが、どうも私が書く際はボーカロイドが俳優の様に役を演じるイメージに……違和感を持つ方もいらっしゃるかなと思いつつ。
キャラクターの性格ですが。
この話でのルカの性格設定は、内気で鈍くて照れ屋で音楽への熱意は人一倍なお嬢さん、ということになってます。
すみません話の都合と作者の趣味ですorz
他の性格・設定のルカもがくぽもぽルカももちろん大好きです(何
読みづらい点等あるかと思います……申し訳ありません。
問題等ありましたら削除いたします。
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「ルカさん。」
「……ん…………」
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