夜の静寂を基地の中に轟くサイレンが破った。それに叩き起こされた僕は反射的にベッドから飛び起き、タイトとキクもけたたましいサイレンの音に反応してスリープモードから目覚めた。
 「博士!これは……。」
 「ひろき、こわいよ……。」
 「スクランブルだよ。基地のレーダーが敵を捉えたんだ! すぐに決められたパイロットは発進しなければならない。その中にはミクも……。」
 「博士……。」
 「無事に帰ってきてくれ。ミク……!」

 ◆◇◆◇◆◇
 
 「あーうっさいなー。何この音ー!」
 「わたしは行かなきゃならない!」
 「えっ?!ちょっあんたどこ行く……。」
 ワラ言い終わる前に、わたしは制服を脱ぎ捨てスーツ姿になると格納庫に走っていった。
 格納庫では二人の整備士が待ち構えていた。二人はすぐさま私を巨大なアーマーで包み込み、台車に乗せた翼をアーマーの背中のコネクターに差し込む。二人はたった三十秒でそれを終えた。
 「準備完了! 気をつけて!」
 その言葉を背に受けて、私はエレベーターへと走った。エレベーターの機械に足を乗せると、機械が私の足をしっかり固定する。
 そしてエレベーターは速く上に昇っていく。隣のエレベーターにも隊長たちの機体があった。
 「ソード隊、発進準備が整い次第、緊急発進せよ!」
 バイザーの中に無線がながれてくる。そしうてエレベーターが上へたどり着いていた。
 <<こちらソード1。カタパルト装着。発進準備完了した>>
 <<了解。ソード隊、離陸を許可する>>
 そして私達は順番に夜の空へ飛んでいった。

 ◆◇◆◇◆◇
 
 スクランブルで俺達は急遽空へ上がっていた。俺はキャノピーをナイトビジョンモードにしていると、夜でも昼間のように明るく鮮明な視界だ。
 指令本部によるとレーダーサイトから敵味方識別信号が発せられたが応答はなかったらしい。今回も興国機の領空侵犯か。
 夜中の領空侵犯などもはや珍しくない。いつもどおり英語と興国語で警告し、必要があれば不明機と距離を詰め「ワレ二従エ」の意味で機体を左右にバンクさせる。世界共通の機体信号だ。
 だが、今回はそう上手くいくとは思えなかった。
 「おい……なんだよこの数は!」
 麻田が驚くのも無理は無い。レーダーにはいつもの領空侵犯より明らかに多数の機影が表示されていた。しかも、まっすぐ本土側へ直進して進路を変えようとしない。不明機の大群と俺達の距離はみるみる縮まっていく。
 <<ソード隊、聞こえるか。こちら司令本部。敵の数は十六。君達と同高度だ。奴等はまっすぐ基地に飛行しておりすでにDエリアを越えてCー72エリアまで来ている。Bエリアまでに侵入される前に警告通告を実施し進路D-99に変更させろ。なお、敵がいかなる行動に出ても発砲は禁ずる。以上だ。>>
 「ソード1了解。」
 そのとき、コックピットのランプが点滅しけ細かに突き刺さるような高音のアラームが鳴り渡った。
 <<注意! レーダー照射を受けている! 君達全機だ!!>>
<<敵さんは戦るつもりだ! 隊長!>>
 そして、アラームの音が連続したものに変わった。そう。撃ってきたのだ。おそらく中距離用レーダー追尾ミサイルだろう。
「全機ブレーク! チャフを発射しろ!」
 俺達は急いで旋回するとレーダーミサイルの追跡を撹乱させる金属片、チャフを発射した。音速で飛来するミサイルが俺達の機体とすれ違う。
 続いて十数の機影が俺の視界に現れた。あれはSu-35。興国の国籍マークがある。
 <<撃ってきた! おい本部! 交戦指示はでないのか!!>>
 <<ソード2、交戦は許可できない!>>
 <<何言ってんだ! 相手は……っ!>>
 一瞬、夜空に稲妻が走り、夜空の中眩い日の手が舞い上がった。まるで花火のように。
 あの稲妻の正体は、レールガンの放射する電流。ミクが撃ったのだ!
 <<ミクやりやがった!>>
 「ソード5! 何をしている! 交戦指示は出ていない!!」
 ミクの思わぬ行動に対し、大量の血液が頭に上り詰めた俺は、無線に向かって半ば怒鳴り散らすように叫んでいた。
 <<構いません>>
 が、返ってきた声は司令の声だった。
 <<ソード隊、交戦を許可します。敵機を全機撃墜しなさい>>
 何だって……そんなことをしたら……。
 だがやつらは俺達を取り囲もうとしている。明らかに交戦意思がある。
 <<さすが司令、話が分かる! ソード2、交戦!!>>
 「ソード1、交戦。」
 戦闘態勢に入った俺の頭の中で、脳内麻薬物質アドレナリンが通常では考えられないほど分泌され、常人を遥かに超えた集中力がうみだされる。状況を完全に把握し、脳内に情報が大量に流れてくる。
 「敵は、背後……四機……捕捉。」
 俺は操縦桿を手前に引いてエンジンの出力を最小まで絞った。それと逆噴射装置を最大出力にする。機体が進路を維持したままひっくり返る。
 「AIM-10X用意……ロックオン。」
 逆さまに見えた四機の敵機を一瞬でロックオンし、俺は兵装発射ボタンを押した。
 「ソード1、フォックス2。」
 ウェポンベイから一度に四発のミサイルが放たれ、それぞれ目標に正面から追尾していった。
 四機はいきなり正面に飛来したミサイルを避けきることが出来ず、直撃した。
 機体の姿勢が戻るころには後ろで四つの火球が花火のように輝いていた。俺はすでに次の目標をロックオンしていた。
 <<グッキル隊長!>>
 <<ソード3交戦>>
 <<ソード4、フォックス2!>>
 仲間が次々と敵を撃墜していく。十六対五という数の差では負けているが、俺達の能力は数で押し切れるものではない。
 この機体があらゆる機体を凌駕した性能を持ってるという以前に、俺達が異常なのだ。
 この体は三十Gまで耐えられる上にGで脳が圧迫されたときに起こるブラックアウト(視界不良)も無ければバーティゴ(平衡感覚の喪失)も無い。パイロットの六割頭という言葉かあるが、むしろ俺達は戦闘時に極度の戦闘興奮状態、コンバット・ハイになり集中力が常人を遥かに超えたものとなる。さらに脳内に埋め込まれたナノマシンと機体のセントラルコンピューターが通信し、機体と周囲の状況が脳に送信される。つまり機体の各センサー、レーダーがまるで自分の体の一部のようになるのだ。当然、計器パネルに目をやる必要も無く、俺達は戦闘に集中できる。人命を軽視した日本防衛軍の狂った実験によって俺達は最強の戦士となったのだ。だが、
 <<…敵機撃墜! 次だ!!>>
 それ故に、俺達を敗北させたミクの秘密が気なるというものだ。
 そして敵機は残り一機となった。麻田の機体がそれの後ろに付いた。
 「敵は残り一機だ。撃墜しろ。」
 <<なんだ、あいつ! くそっ。ガンがあたらん!! 誰かミサイルもを打ち込んでやれ!>>
 <<だめだ。残弾数ゼロ。もう残っていない>>
 <<こちらももう撃ち尽くしてる!>>
 俺もウェポンベイに残っている兵装は無かった。
 <<わたしがやってやる!>>
 ミクの両肩から突き出た二砲身のレールガンの片方に、電撃が迸った。
 『発射!』
 レールガンから稲妻の如く弾頭が発射された。
 一瞬の出来事だった。それはレーザーの様にも見えた。まさに光の速さだ。
 敵は発射に気付いていたらしく回避運動をしていたが、弾は敵機の左翼を半分ほど吹き飛ばした。
 その機体は数回回転したが、やがて姿勢を立て直し、逃走を開始した。
 <<ちっ! もう一回……>>
 <<ソード隊、もうそれくらいでいいでしょう。あなた達は帰投しなさい>>
 無線から司令の声がした。 
 「了解。各機、帰投するぞ。」
 <<でも!!>>
 「ミク、帰投だ。」
 <<……分かった>>
 俺達は編隊になると基地の方向に飛行していった。

 ◆◇◆◇◆◇
 
 ようやく興奮状態から覚めたものの、今だ言葉にできない感触の残る体を落ち着かせながら、俺はコックピットで一人考えていた。 
 今日の戦闘は一体なんだったのだろうか。
 いきなり現れた、いつもとは違う大勢の武装した興国機。
 しかも警告を発せれば進路を変更していったいつもと違い、今回はいきなり攻撃を仕掛けてきたのだ。あまりにも不可解だ。
 そして、交戦をあっさりと許可した司令の口ぶり。不自然なほど冷静だった。まるであの戦闘を当然のことと思っているように……。
 どちらにしろ、俺達に正当防衛という大義名分があったとしても、俺達は興国の機体を撃墜してしまった。これに対してあの国がどんな行動に出るだろうか。そして、その国に一番近いところにいる俺達は、これからどうなってしまうのだろうか。

ライセンス

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Sky of BlackAngel 第十一話「予期せぬ交戦」

しっかし三十Gまで耐えられるとかすごすぎ。
彼らには戦闘機パイロットが経験する様々な負担が無いんです。(マジでか)
しかも隊長は戦闘中でもナレーションができるすごい人だったのです。

閲覧数:254

投稿日:2011/08/06 00:47:31

文字数:3,604文字

カテゴリ:小説

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