月日は流れ、だんだん肌寒い季節になって来た。




「つ、ついに完成したわ!!」

 僕がバイトから帰ってくるなり、キッチンからルカさんの歓喜の声が聞こえてきた。


「ルカさん、何やってんの?」
「あ! ネギさん! 見て! ついにちゃんとしたたこ焼きが完成したのよ!」
「へー……確かに見た目は美味しそうだね」

 この頃になるとルカさんはすっかり家に慣れたのか、僕と話すときも超リラックスしてる感じだ。
 まあ、その方が僕も気が楽だけどね。


 しかし……キッチンには今まで失敗したであろう沢山の残骸があった。
 ルカさん、何時間やってたんだ……?

 そこに小さな影が2つ見えた。

「お兄さん!」
「あ、ミキちゃんとピコ君か」

 このちっちゃな小人みたいな子たちは、今ではすっかりルカさんになついて大の仲良しになっている。

「ルカお姉ちゃんがね、失敗ばっかりしてるの!」
「ぼく達毎回試食させられてるんだよ!」 

 そりゃまたお気の毒に……。

「でも今回は上手くいったみたいだよ?」

 僕はお皿の上を指さす。

「あ、ホントだ。形がちゃんとまあるくなってるね!!」
「でも形だけじゃダメだよ! 味も美味しくなきゃぼく達は合格は出さないからね!」

 ルカさん、ちびっこ達にスパルタ教育されてたのか。

「今回は分量も間違えずに、焼き時間も計算して完璧なはずよ!」

 ルカさんは自信満々だ。でもなぁ、彼女は前科があるからどうにも信用出来ないっていうか。

「んじゃ、いただきまーす」

 って焼きたてだよな!?

「ミキちゃん、熱いから気をつけてね」
「大丈夫だよー! まずは外側だけだから」

 ミキちゃんがたこ焼きをかじる。

 そんな小さな体でたこ焼き食べるのは無理があるんじゃないか……?

「……!! あれ?」

 ミキちゃんどうしたんだ……?

「美味しいかも」

 マジか!?
 ピコくんも「じゃあぼくも!」と一緒にかじる。

「ホントだ。まずくない」

 それを聞いて僕も気になった。

「それじゃ僕も一つ……あ、熱っ……!!」

 人に注意しといて自分が火傷しそうになってりゃ世話ないな。
 けど……あれ?
 これ、本当にルカさんが作ったのか? まずくないぞ?

「ルカさん、頑張ったんだね……」
「ネギさんわかってくれるのね! あれからずっと修行してたんだけど、今日は何かコツが掴めそうで朝からずっとやっていたの!」
「へぇ……」


 どうでもいいけど、この材料ってどうしてるんだろうなぁ。
 
「ねえ、ルカさん」
「はい?」
「ちょっと疑問なんだけど……この材料って毎回どうやって用意してるの?」
「ああ、これはミクが渡してくれたものよ」
「ミクが!?」

 あいつ……でもどうやって?

「あの子には感謝してるわ。今ではミクがすっかりこの家の買い物係になってるんだけど、その時にね、余ったお金で好きな物買ってもいいってお母様がいつも言って下さってるの」

 なるほど……僕はキッチンに置いてあるものを見て納得した。ルカさんが用意したらこんなまともな材料になるはずがない。

「それで薄力粉とかタコとか、その他諸々買ってるわけか」
「そうなのよ。いい子でしょ?」
「まあ……あいつの場合自分でネギ出せるし、自分のもの買う理由も無いだろうけど、でもちょっと感心したな」

 あ、でも待てよ。自分で用意したほうがミクとしてもリスクを回避出来ると踏んでたんじゃ……まあ、どっちみちルカさんに全てを任せるよりはいい。

 その時足音が聞こえた。

「ルカお姉ちゃん!」
「あれ? リンちゃん」
「あ、お兄ちゃん。お兄ちゃんも試食ですか?」
「まあね」

 ルカさんを心配したのかリンちゃんがキッチンに入って来た。

「リン、これ食べてみて」

 ルカさんがさっきのたこ焼きが載った皿をリンちゃんに手渡す。
「うん」

 リンちゃんがもぐもぐと食べる。

「わぁ……すごく良くなったね! あとはもう少し外側がカリッとなったらもっと美味しくなると思うよ!」
「ありがとう、リン。頑張るわ!」

 こうやってリンちゃんはアドバイスもしてるんだ。さすがだな。

「ねえ、リンちゃん、リンちゃんもたこ焼き作れる?」
「え? わたしですか? こればっかりは焼く時に慣れが肝心なので、何回か練習しないと上手には出来ないと思います……。焼くのは誰にでも出来ますが、焼き具合を完璧にしようと思ったらとても難しいんですよ」
「そうなんだ……。リンちゃんでも難しいのか」
「期待に添えなくてごめんなさい。今度練習してみますね」
「いや、いいんだよ! 無理言ってごめんね」

 たこ焼きって案外奥が深いんだな。
 前に家族で焼いた時は、固くなったり焦げたりしたけど、あれはあれで美味しかったんだけどリンちゃんが求めてるのはきっとプロの味なんだろうな……。

 それに、今ルカさんより上手に焼けるようになっちゃいけないとか思ってるのかな?
 これは僕の勝手な思い込みだけど、優しいリンちゃんだ。お姉ちゃんを立てたいと思ってるのかもしれない。

 そんな事を考えてるとリンちゃんがにこにこして言った。

「でも代わりに、メイコお姉ちゃんと一緒に材料を調べて、ミクお姉ちゃんに買って来てもらったりはしてますよ。いつかルカお姉ちゃんがたこ焼き屋さんになるっていう夢を叶えて欲しいんです」
「そっか……! 材料が本格的だと思ったら二人がミクに助言してたんだ。いいね、姉妹で協力しあうのって」
「はい!」

 ちびっこ達がルカさんの横で「もう一回やろう!」「今度はもっと強火でやろう!」とか色々言ってる。

「でも強火だと焦げちゃうわ……」

 ミキちゃんがルカさんの肩にぴょこんと飛び乗り励ます。
「大丈夫だよ! もっと素早くやれば焦げないよ! ルカお姉ちゃん頑張って!!」
「わ、わかったわ……!」

 そんな感じでルカさんの修行はその後も続いた。





 案の定、夕食はたこ焼きになった。

「なっ……! ルカが作ったものなんか食えるかよ!」
 レン君が全力で拒否してその場を離れようとしたけど、僕が腕を押さえる。
「ネギ! 放せよ!」
「いいから食べてみてよ」
「ぜ、絶対やだ!!」

 だがミクがニヤリと笑い言った。
「ネギ、レンを押さえつけておけ」
「任せておけ!」
「こ、このやろぉ……! お前らグルかよ!!」

 嫌がるレン君に、ミクが無理矢理ルカさんのたこ焼きを食べさせる。

「や、やめ――!!」

 口に入れられ、泣きそうなレン君だったが急に大人しくなった。

「レン……?」

 ルカさんも心配そうにレン君を見てる。

 レン君は嫌な顔ひとつ見せずに口の中のものを食べた。

「……美味い」
「ほんと!?」
「ああ、これ本当にルカが作ったのか?」
「そうよ! わたくしが作ったのよ! 材料集めるのはミク達にも手伝ってもらったけど……焼いたのはわたくしよ!」

 レン君がびっくりした顔でルカさんを見てる。

「……見なおした。何だよ、やれば出来んじゃん」
「ありがとうレン!!」


 一時はどうなることかと思ったけど、ルカさんもたこ焼きだけはまともに作れるようになった。
 あー、ホント良かったよ……。

 でもやっぱりルカさんの料理が問題なのって、材料とか分量とかその辺に問題があったんだな。
 これからはその辺をしっかり守ってもらえば他のものも作れ……いや、たこ焼き以外のものに挑戦するのは当分先でもいいか。


 そんな訳で、この日はミク達と、僕の両親も一緒にみんなでたこ焼きを食べた。
 焦げてたり、形が悪いのも沢山あったけど、それでもルカさんが頑張って作ったものだし美味しかった。

 ルカさんには是非たこ焼き屋さんになる夢叶えて欲しいな。
 ……って、あれ? 魔法の修行はいいんだろうか?

 まあ、いっか。




 そしてこの一ヶ月後にルカさんが近所のたこ焼き屋でバイトを始めることになった時は心底驚いた。
 確かにあんな美人がお店にいたら看板娘になるもんね。
 でもゴスロリファッションでたこ焼きを焼く姿はちょっとシュールというか……。
 服、油まみれにならないのかな。
 お店の人もよく何も言わないよなぁ。
 でも「技を盗んできます!」と張り切って仕事に向かうルカさんは、誰よりも輝いていた。


 それに僕の知らないところで、結構みんな家の事を手伝ったりしてるみたいだ。
 メイコさんはスーパーのレジ打ちのパートを始めて、ルカさん共々家計を助けてくれる。
 家事全般は相変わらずリンちゃんがやってくれてる。

 レン君が父さんの将棋の相手をしてるのを見た時もびっくりしたな。
 本当にレン君は勉強熱心と言うか何というか。
 さすがにまだまだ弱いみたいだけどね。父さん強いからなぁ。

 皆だんだん変わっていく、変わらないのは僕だけだな……。
 僕も変わらなきゃいけないな。
 でも何からすればいいんだろう。

 今の僕にはもう少し考える時間が必要だ。


 外は雪が降ってる。もう冬なんだな。
 ミクが来てから半年以上が過ぎた。
 気が付かないうちに僕は、ミク達がいない生活が考えられなくなっていた。

 ……慣れって怖いよね。


つづくのです。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第11話 「ルカの夢」

久しぶりの投稿になってしまいました。
書いたのは半年以上前なのに……;
おかげで季節がおかしなことにw

絵ばっかり描いてて、こっちの投稿がおろそかになってました><

あと2話分書いてますので、今度こそ近いうちに投稿できればいいな;

見づらいので、今回から話数の数字は漢字はやめましたw
まさかこんなに続くと思わなかったんですよ……;


あと、たこ焼きは奥が深いですよね!
私なんかまだ数回しか作ったことがないので全然上手に出来ないですw

閲覧数:720

投稿日:2012/03/12 02:25:49

文字数:3,852文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • enarin

    enarin

    ご意見・ご感想

    ぎんこ様、今晩は! コメント遅くなりましてすみませんです。

    さて、今回はルカさんキッチンでお題は”タコ焼き”ですね。たこルカさんの事は横に置いておいて、なんかあのルカさんが作ったのに、美味しい、ということで、ルカさんの本領発揮ですね!

    さて、たこ焼きですが、TVの某番組でやっていたのですが、大阪の人は幼稚園の子供でも綺麗にクルッっと丸めて美味しいたこ焼きを作れてました。凄かったです。

    小説は私もここ2ヶ月書いてなかったりします。そろそろ続きを書かないと…。

    まだまだ寒の戻りとかあって寒いです。ご自愛くださいませ。

    ではでは~♪

    2012/03/13 19:24:53

    • ぎんこ

      ぎんこ

      >enarinさん
      こんばんは!
      いえいえ、いつもありがとうございます!

      今回はたこ焼きネタにしてみました(*´▽`*)
      ちびっこたちも久しぶりに出せて嬉しかったのです。

      ルカさんの作ったたこ焼きならたとえどんな状態でも食べてみたいですw

      そうそう、大阪の人はすごいですよね!
      子供の頃からたこ焼き作れて当たり前みたいな……。

      私達がカレーを食べるのと同じくらいの頻度でたこ焼き食べてるのかしらとか思ってしまいましたw

      小説って一度手が止まっちゃうとなかなか続きが書けないですよね;
      なので、書ける時は一気に書くようにしてます?

      今日はすごく暖かかったです。
      でもまだまだ油断は出来ないのでお互い体調管理には気を付けたいですね!

      ではでは♪

      2012/03/14 17:27:11

  • 是久楽 旧HidetoCMk2

    是久楽 旧HidetoCMk2

    ご意見・ご感想

    みんな、すっかり馴染んでますね~(  ´ー`)

    ルカさんには、立派なたこ焼き屋さんになってほしいです←(え?

    2012/03/12 12:59:41

    • ぎんこ

      ぎんこ

      >HidetoCMk2さん
      いつも読んで下さりありがとうございますm(_ _)m

      すっかり皆さん馴染んで家族のようになってますww
      ルカさんはゴスロリなたこ焼きやさんとして立派になってくれることでしょうw

      2012/03/12 20:29:20

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