ハツネの代わりに、何の穢れも知らない世界にミクを置こうと考えていた。実際、カイトは閉じた世界でミクを汚さず美しく育ててきた。
 結果、ミクはハツネとは違う、カイトの思惑通りの無邪気な娘に成長してくれた。面立ちはハツネとそっくりなのに、ハツネとは違う。ミクはハツネのように儚げではなく、光が良く似合う美しい娘へ成長してくれた。
これは喜ぶべきことなのだ。だがしかし、とカイトは思う。
 ハツネと同じ顔をしているからだろうか。それとも、あの匂い立つような美しさに酔ってしまっているのか。
 穢したくない存在なのに、カイトの心の中でミクは汚してしまいたい存在になっていた。

「カイト、、、」
深夜に近い時刻。カイトが寝室で寝る準備をしていると、不意に部屋の扉が開き、か細い声で彼を呼ぶ声が響いた。
 白い寝巻きを着た、ミクの姿がそこにはあった。闇に浮かぶその白い姿は小さく、頼りなげだった。
「眠れないの。」
そう言って、カイトの返事を待たずにミクは部屋の中へ入り込み、ベッドに腰掛けた。
 解いた長い髪がさらさらとミクの肩や胸にかかる。そのあどけない様子に、カイトは苦笑しながらその横に座った。
まるでミクが幼い頃に戻ったようだ。とカイトは思った。幼いミクはよく寂しがってはカイトの寝床に忍び込んできた。朝、気が付くと感じた子供の重みが体温が、まどろんだ意識に心地よかった。
「こんな夜中に。怖い夢でも見たのか?」
そう問うと、ミクは、そんなところ。と頷いた。
「いろいろ考えていたら、眠れなくなってしまって。」
そう言って、ミクはカイトを見上げた。いつもなら強い光を湛えているその瞳が心細げに揺らいでいた。
「最近、不安なの。」
「何が?」
そう優しく問いかけ、髪をなでてやる。さらさらと艶やかなミクの長い髪はカイトの指先から零れ落ちる。その感触に少し落ち着いたのか、微かに目を伏せてミクは呟くように言った。
「カイトが、私を避けている気がする。」
「、、、」
「カイトは、私に触れなくなった気がする。」
何も言わないカイトに、ミクはそう続けてカイトに再び視線を寄越した。その瞳に、興奮してきたのか熱が篭る。
「小さい頃のように抱きしめてくれなくなったわ。キスもしてくれなくなった。何故?」
熱の篭った瞳でミクはそう言い募る。
 すう、とカイトは微かに目を細めた。
ミクは無邪気なまま幼い頃から何も変わらない。ミクが求めるものは、よく解っていた。その幼い欲望は、しかしカイトの持つそれとは異なり、純粋で、無垢で穢れがない。
 そのことが、カイトを苦しめた。
手を伸ばし、ミクの柔らかな頬に触れる。
「ミク。」
カイトが名を呼ぶと、ミクははっとした表情でカイトを見つめてきた。
 なんの警戒心もないミクの表情に、カイトはふと微笑んだ。
 ミクを汚したくて、穢したくなかった。
 カイトはミクの長い髪をひと房つかむと、それに口付けを落とした。
「、、、ミク。君はもう小さな子供じゃない。大人になったら容易く触れることは出来ないんだよ。」
そう、顔をあげてカイトが言うと、ミクは泣きそうな表情で、じゃあ子供のままで良い。と言った。
「子供のままなら、カイトの傍にいられる?」
そう言うミクにカイトは返事をせず、もう眠りなさい。と言った。

 ハツネの代わりをミクに求めた、これは罰なのだろうか。

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鳥篭と蔦4~カンタレラ~

閲覧数:544

投稿日:2009/06/15 19:53:23

文字数:1,396文字

カテゴリ:小説

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