紫陽花の記憶 ~第三話~
グミはスタスタと病院のガランとした廊下を歩いた。
白いレースに黒いドレスのようなゴスロリの服は、
病室の廊下にはひどく不似合いで、グミの心情の可笑しさを物語っていた。
そもそもどうしてゴスロリを着てきたのかもわからない。
人に会いにいくのに変装などする必要はなかったはずだ。
グミは今更ながら恥ずかしさを覚える。
(あたしったら・・・!焦りすぎよ!)
そうこうしている間に目的の部屋についてしまった。
その部屋のドアには「鏡音リン様」という札がかかっている。
リンとも知り合いなので、お見舞いに来てもおかしくはないのだが、
他人のお見舞いなんて滅多にしないグミがリンの病室に、
しかもゴスロリで入っていくなんて驚かれるにちがいない。
もし嫌な顔でもされたら・・・。
グミはドアノブに手をかけたまま、そこで立ち止まってしまう。
その時だ。
「喉渇いたから飲み物買ってくるね。確か下に自動販売機あったようなきがするから。
待っててね。」
ドアの向こうから声がした。
それを聞いたとたんグミの心拍数はいっきに上昇する。
顔が熱くなるのを感じたグミはドアノブを離し、今来た方向へ戻ろうとする。
だが、遅かった。
手を離したとたんドアが開く。
「あれ?グミちゃんだよね?」
レンの視線がグミを捉える。
グミは固まったように動けなくなってしまった。
「え?グミちゃんで合ってるよね??」
レンの問いにグミはロボットのような動きでコクコクと頷く。
「リンのお見舞いに来てくれたの?ありがとね。」
レンの言葉にグミはまた顔が赤くなる。
「や・・・別に・・・。」
グミは可愛くないとわかっていながら、あえて無愛想な返事をする。
「俺、下に行って今飲み物買ってこようと思ったんだけど、グミちゃんもなんか飲む?
今一緒に買ってきてあげるよ!」
グミは思い切って顔を上げる。
「じゃあアタシも一緒に行っていい?なにがあるか分かんないから・・・」
レンはニコッと笑った。
「じゃ、一緒にいこうか!」
グミとレンは廊下を歩き出す。
「レ、レンくんは・・・毎日ここに来てるの?」
グミが聞くとレンが驚いたようにグミの目を見る。
レンの綺麗な青い瞳に覗き込まれたグミは思わず視線をずらす。
「まさか!それにもし俺が毎日来たくてもリンに追い返されちゃうよ。『毎日こなくていい!』って顔して。」
「そうなの?」
グミはレンがリンに押し返される場面を想像して、思わず微笑む。
普段のひん曲がった性格のグミとは思えない、
その可愛らしい笑顔に今度はレンが思わず視線をそらす。
二人はエレベータに乗って、一階へ向かった。
そのころミクは病院から3分ぐらいのところの信号で信号待ちをしていた。
そして、ミクは気づいた。
来る時にもこの信号に捕まった。
その時には持っていて、今持っていないもの。
自分のカバンをリンの部屋に置いてきてしまった。
気づいた瞬間、ミクは駆け出す。
あの中には・・・あのカバンの中には・・・。
とにかくリンのベットの下に置いたから、誰も開けてはいないだろう。
ミクは全速力で病院へかけ戻った。
グミはエレベーターの中で心臓が破裂しそうな思いだった。
しかし、気づかれないように平然を保つ。
「リンちゃん、早く治るといいね」
グミが一言つぶやくと、レンは少し表情を和らげる。
「うん・・・。そうだね」
グミはそれっきり黙ってしまう。
レンが心からリンの事を心配しているのがわかったからだ。
軽い気持ちでリンの事を話題に出した自分が少し恥ずかしかった。
「グミちゃんは・・・リンの病気をどう思う?」
唐突に聞かれ、グミは瞳を丸くする。
「・・・俺は、ちょっと変だと思うんだ。」
「え?」
エレベーターのドアが開いた。
ミクはやっと病院の前まで走ってきた。
疲れきったミクはゆっくりと自動ドアをくぐり抜ける。
向いのエレベーターが同時に開いたのをなんとなく目で追う。
降りてきた人を見てから視線をはずし、外を見た。
・・・そしてすぐに視線を戻した。
見覚えのある、というか衝撃的だったので記憶に残っているゴスロリ。
変装といっていたけど、逆に目立つ。
ゴスロリで病院に来る人なんて、他にいないだろう。
・・・あれは間違いなくグミちゃんだ。
しかも一緒に降りてきたのは・・・レン!?
「ふえっ!?」
ミクは混乱して変な声をあげてしまった。
周りには気づかれていないようだ。
大丈夫、大丈夫。
(グミちゃん・・・なんでレンと一緒にいるのよぉっ)
自分の中に生まれた感情は嫉妬ではないということをミクは知っていた。
ミクには、他に気になる男の子がいるのだから。
とりあえず、ミクは様子を見る事にした・・・
グミはさっきの言葉が気になったが聞き返す勇気が出ず、ただうつむいていた。
そんなグミの様子を見て、レンは微笑む。
「ごめん、変なこといっちゃって・・・気にしないで?」
「大丈夫、気にしてはないけど・・・でも、どうして変だと思うの?」
グミが聞くと、レンは立ち止まった。
「ただ・・・ただ声が出ないだけなら・・・退院しても大丈夫なんじゃないか・・・なんてね。」
「あ・・・」
グミには病気の加減はわからなかったが、
なんとなく、レンに言われるとそうかもしれないという気になった。
「ルカ先生がまだダメっていうからまだ退院できないけど、
リンは声が出ないだけなんだ。
熱があるとか、吐くとか、そういうことは一切ない。」
レンはそういうと、ニコッと笑った。
「ま、俺は素人だから、わかんないけどさ!」
グミは少し困ったように微笑んだ。
その時、レンの肩越しに緑のツインテールが見えたような気がした。
まさか、ミクちゃんが戻ってきた?
でもさっき帰ったばかりだし・・・。
自動販売機の前までくると、レンはお金を入れて、コーラを買った。
「グミちゃん、どれにする?」
レンに聞かれ、グミは我にかえる。
「あ、あたしは・・・」
言いかけてから、自分はレンに飲み物を買わせようとしているということに、
今更ながら気がついた。
「あ、いいよ!自分で買う!」
そういって、カバンから財布をとりだした。
するとレンは笑って
「せっかくお見舞いに来てくれたんだから、俺がおごります!」
と、宣言した。
そこまではっきり言われると、グミも否定できない。
「じゃあ・・・サイダーを、お願いします・・・」
ミクはそんな二人を待合室のソファに座って見ていた。
(なにレンったら飲み物おごってんのよ~)
さっきは一瞬グミに気づかれたかと思ったが、大丈夫だったようだ。
そろそろ声をかけてみよう、とミクはソファから立ち上がって二人のほうへと歩き出した。
ガコンッっと金属がぶつかる音がしてサイダーの缶が転がりでてくる。
レンはそれを取ると、グミに笑顔で手渡した。
「はいどーそっ!」
無邪気に笑うレンの目を、グミは直視することができすに目をそらしたまま缶を受け取った。
(照れるような事じゃ・・・ないのに・・・)
自分がレンの事を好きだというのは、グミは分かっているつもりだった。
グミは自分の感情をコントロールするのは得意としていたので、
感情がこんなにも顔に出てしまうのは、グミにとって恥ずかしいだけだった。
レンは自分のコーラを買う。
その横顔をずっと眺めていたかったが、
グミは遠くからこちらへ向かってくる緑の髪の少女を見つけてしまった。
ミクちゃんに・・・今は絶対会いたくないっ!
自分の顔が赤くなっているということは、分かっている。
それを見られたくないのだ。
「レ、レンくん!あたし、先に戻ってるね!」
「え・・・?どうしたの?」
レンの問いかけは聞こえていたが、グミは逃げるようにエレベーターのボタンを押した。
幸い、扉はすぐに開き、グミはその中に飛び込んだ。
走り去っていく黄緑の髪を、ミクは見逃さなかった。
やっぱり・・・グミちゃん!
レンはミクを見つけ声をかける。
「ミク?どうしたの?」
「あ、レン・・・。ちょっと忘れ物しちゃって・・・えへへ」
「ミクは忘れ物が多いなぁ。昔からだよねぇ」
「そ、そんなことないでしょう!?」
ミクは慌てて否定するが、レンは笑ってばかりだ。
「何を忘れたの?」
「カバンをまるごと忘れちゃったの!アタシのカバン、どこに置いてある?」
レンは少し考えるようにして、
「えぇっと・・・」
と下を向く。
ミクは心の中で強く祈った。
どうか、リンの近くじゃありませんように、と。
そんなミクの想いも虚しく、レンは笑顔で言った。
「そうだ!リンのベットの上だよ!」
冷や汗がミクの背中を伝う。
声の出ないリンは、助けも呼べないだろうに・・・!
やっとのことで廊下に飛び出たグミはリンの病室まで走る。
来た時と同じように、
ドキドキしながらドアノブに手をかける。
・・・その時、昔どこかで聞いたことのある、懐かしい声が聴こえた。
ただし・・・・・その声は、悲鳴だった。
「き、きゃあぁぁぁぁぁあぁあぁあああぁッ!!!!!」
「・・・・・っ!?」
・・・今、どこから聴こえた?
グミは自分が開けようとしていたドアの向こうを見つめる。
このドアの向こうの部屋には、リンがいるはずだ。
声の出ないリンが。
「い、いやぁッ・・・!気持ち悪い・・・っ!!!」
もう一度、声が聞こえる。
「ひぃ・・・っ」
声が掠れてくる。なにかに怯えているようだ。
グミは少し考えたが、思い切ってドアを開けてみた。
来る時もドキドキしたが、今は違う意味でのドキドキがとまらない。
心臓が高鳴るなか、グミはゆっくりとドアを開けた・・・。
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