今わたしは隊長たちと空を飛んでいる。
「しょうかい任務」という。
わたしは飛ぶのが大好きで、こんなに天気のいい日に空を飛べて、本当ならうれしいはずなのに。
今日は、あまりうれしくなかった。
みんな静かだ。いつもいろいろ話してくれる武哉も、舞太も、
みんな黙ってしまって。
昨日、司令の部屋であの人から言われたこと。
うまくは分からなかった。
でも、わたしたちは今まで「わざと」戦わされていたこと。
それだけは分かった。
そして、最後の戦いで、タイトが・・・・・・。
あのあと、ワラとヤミにタイトのことを話した。
(うそ・・・・・・でしょ?ねぇうそでしょ?!ねぇ!!)
(ごめんワラ・・・。本当なんだ。この目で、見た・・・。)
(うそ・・・・・・・・・いやぁ・・・・・・いゃぁ・・・・・・!)
(ワラ・・・。)
(タイトさぁあん・・・・・・!!!)
ワラは、最初は信じてくれなかった。
ワラにとって、タイトは大切な人だったのだ。
その場にしゃがみこんで、泣いた。
わたしには慰めることしかできなかった。
ヤミは、泣かなかった。
だけど、わたしに涙を見せたくなかっただけかもしれない。
あとで気付いた。
シーツが、ぬれていた。
ひろきは、キクに本当のことを言ったのだろうか。
でも、言えるわけがない。あんなキクを見ていたら、わたしまで泣いてしまいそう。
わたしはあと二日で、家に帰る。ひろきと一緒に。
わたしとひろきが帰ったら、キクはこれからどうしていくのだろうか。
もう、ワラとヤミに任せるしかない。
でも本当は、みんな、みんな辛いんだ。
わたしも・・・・・・。
今日の哨戒任務、条件、状況としては最高だ。
風は弱。天候は快晴。機体に異常はなし。
しかし、誰も、一言も喋らなかった。
あの私語の多い麻田、朝美さえも。
昨日の社長の話以上に、今朝の少佐の話で脱力感を感じているようだった。
今朝、ブリーフィングルームで少佐から皆に伝えられた事。
「興国が、解体された。」
それを聞いた瞬間、衝撃のあまり思わず声を上げるものが続出した。
当然ながら、俺達は眉一つ動かさなかった。
俺達が興国核強制撤去作戦を実行した以前の話だ。
軍備がほぼ全て消滅した上に、ストラトスフィアは民間人への無差別攻撃まで行っていたらしく、住宅密集地、都市など人口密度が高い場所からミサイル、そしてレーザー爆撃を遊行していたらしい。
それによって出た犠牲者の数は、今確認できる範囲でも三千万人以上。
政府の重要機関、施設、さらに首相官邸も容赦なく吹き飛ばされ、
もはや国家とは言えない状態だった。
残ったのは膨大な数の難民。
住む場所をなくし、家族を亡くし、どこへとも行く当てもない興国国民達が周辺の国々に亡命を求めた。
だが、難民を受け入れようとする国は一つも無く、
国境付近で国境警備隊に弾圧され、死亡した難民の数は千をくだらない。
さらに、先陣を切って興国領だった土地を植民地化しようとカラビアが進軍を開始した。後で少佐から聞いたが、どうやらカラビアもクリプトンとの繋がりがあったらしく、崩壊した後の興国国民の後始末を任されていたらしい。
軍部では難民に対する発砲も許可されていた・・・・・・。
もう、こんな哨戒任務も意味は無い。
日本を襲う者はもういないのだ。
日本に敵対する国はなく、
ストラトスフィアが、日本の本当の恐ろしさを見せ付けた。
日本はこの先最低十年は平和になるだろう。
平和なら、俺達はいらない。
水面基地も。
そういえば、少佐がもう一つだけ気休めになることを話した。
二日後、ミクと網走博士が水面基地から出て行ってしまう。
だから、皆で帰る時に送別会をやろうという話を持ち出した。ミクに内緒で。
勿論、皆賛成だった。
格納庫で機体をどかして会を開き、その直後に見送る。というものだ。
今日の哨戒任務は、ミクとの最後の任務。
ほんの数週間程度だったが、ミクとは任務、時には戦闘を通して様々な思い出ができた。
哨戒任務から帰ったら、企画係である俺は早速何か考えないとな。
「ソード隊へ、こちらゴッドアイ。哨戒任務を終了せよ。」
時間だ。
「了解。ソード1、帰投する。」
レバーを倒し、基地の方向へ旋回した。
「・・・・・・ソード1、こちらでレーダーに機影の反応をキャッチした。Dエリア外から接近している。数は一機だ。そちらのレーダーで確認出来るか。」
「こちらソード1。こちらではまだ確認できない。」
こんなときに何だというのだろうか。
Dエリアより向こう側というと、もう元興国領空ぐらいだが。
「・・・・・・こちらゴッドアイ。今、不明機側からIFFの応答が来た。
日本防衛空軍の機体だ。無線では、いくら呼びかけても応答がない。」
味方?
何故、あんなところから、味方の航空機が・・・・・・。
そのとき、レーダーに機影が映った。
「ソード隊、例の機体を確認せよ。」
「了解。各機、聞いたとおりだ。行くぞ。」
俺達はレーダーの光点に向かって方向転換した。
数分後、機体らしきものの形が空に見えてきた。正面を向いている。
進行方向を合わせるために距離を離し、一度すれ違う。
「!」
そのとき、俺はその機体が何なのか、そして誰が乗っているのかが分かった。
例の機体と再び距離をつめる。
やっぱりだ。
「隊長、あれ・・・・・・!」
ミクがやっと口を開いた。驚きの口調で。
あのF-3に似た形状、そして、キャノピーの変わりにセンサー類の埋め込まれた装甲がコックピットを覆っている。コフィンシステムだ。
「ああ。間違いない。GP-1だ。」
しかし、何故こんなところに?
ストラトスフィアに所属していたのではなかったのか。
「GP-1!どうしたんだ。」
ミクが必死に呼びかける。だが応答はない。
かなりの高速で、一直線に飛行している。進路の先には・・・・・・水面基地が。
「ゴッドアイへこちらソード1。機体が判明した。X/F-50。ゲノムパイロット用の機体だ。」
「何?それはストラトスフィアに配属されたはずだ。」
「間違いない。進路は、水面基地へ向かっている。」
「先ずは、強制着陸をさせろ。」
「了解。」
GP-1を取り囲み、飛行した。
水面基地に最も近いAエリアに到達すると、GP-1がギアダウンした。
やはり着陸するつもりなのだ。
徐々に基地の滑走路が近くなる。
そのとき、GP-1の機体は、ふらついた不安定な挙動で滑走路に向かって降下した。
「危ない!!!」
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