「それは、大昔の話でしょう?」
「今! 訴えを起こされたり、ネームドの活動が増えているんです! ほら見て、この、訴状! 昭和だか平成に見えますか? 新しい紙ですよ!?」



――数分後。
込神町役場にて、窓口で口論になるナナカマド氏の姿があった。


「ですから、先ほど申し上げましたように、制限装置のブルーアーカイブにも、魔法の改ざん等履歴は記録されていませんし」

彼と対峙しているのは、受付の女性……『軒栞 くれお(のきしお くれお)』という名札を付けている、市の職員だ。
まだ若く、30代だろうか。
猫目と八重歯を持つ人型……猫の血が流れているのかもしれない。

 

彼女は、今先日、ナナカマド氏から依頼のあった
ブルーアーカイブの提示と、公的機関の調査依頼などの
書類申請を断わろうとしているところだ。

 この書類の申請は近年新たに法で定められ、市民に認められた権利の一つ。改造魔法による攻撃を受けている場合、多くが反抗勢力の戦略的理由を含む為、侵略対策を視野に公的機関による調査を依頼できる。
人間側にも、例え法人などでなくとも簡単な手続きで協力要請などが可能というものであったわけだが――――






「大体、申請理由にあったそういった工作は、50年以上前……大戦の行われた昔の話です。もう存在しませんよ」
の一点張りで話が一向に進まないのだった。


(……なにが、半日で終わるだ!)

ナナカマドは内心で毒づいた。
かつて、タワーに配属された際此処を紹介してくれた上司は、申請する際は簡単な手続きだから半日も掛からないなどと宣っていたのにこのまま進展が無いのでは一日経ちそうだ。

まぁ、これはまだわからなくもない。面倒事を避けたいだとか、なんとか。
しかし更に困った事もある。

「おそらくは貴方がたは過去の出来事から、リカ様を称えて、その実績を振り返る目的でこの報告を出してくれたのだと思いますが」

――――この、意味の不明過ぎる理屈だ。

「はぁ?何故そうなるんですか!?」

これには普段冷静であるナナカマドでさえも、驚きを隠せなかった。


「そんな50年も前のリカ様の事など、今の若い子が知ってる訳がないでしょう? なんでそんなものを今更提示すると? 誰が得をするんです?」
「えぇ、でも……」
誇らしげな軒栞くれおが目を細める。面倒だな、と言いたげだ。


(過去盲め! どいつもこいつも、自力で考えられないのか?)
少し前に、過去盲という言葉が一世を風靡した。
過去に拘るあまり目の前の状況に盲目、妄信的であるという意味で、もう少し古い年代で言えば老害とか若害とかに当たるだろうか。
明かに論理が破綻しても、状況証拠が揃っていても、「50年前にあったから」などと執拗な拘りを見せて無理矢理論破に持って行こうとする。
(ただし詳細を自分で調べはしない)


こちらが折れるのを待っているかのようだ。
それか……
『今も被害が出続けていると、そんなに隠さなくてはいけないんですか?』
と彼女に聞いても意味がない事くらいは判断しているけれど、此処までわざとらしい対応だと、そうも見えてしまい、聞きそうになる。

彼女達は戦後、もう「あのような」侵略はあり得ないのだと何を根拠に信じ切っているのだろう。手遅れになってもきっとそれすら後悔しないのではないか。


「駄目ですネ」
ふいに、声がした。
「?」
視界の隅に、パイプ椅子に座る奇妙な老人?が映る。
謎に黄色の中華風の服を着ている男で、つるつるした頭を持ち、腰が曲がっている。小柄で肌が綺麗なので、若いようにも見えなくもない。何歳……なのかは不明だ。

 彼はまだ奥の方の席で順番を待っているはずだが、視界がおかしくなったのか、今、彼の周りだけ遠近感が狂っているかのように、やけに近くに感じる。
注目してしまう。
「貴方は――――」

「駄目駄目。駄目ですよ。申請などして、困ります。
防衛機構に新たな概念をもたらすなど、せっかく提携受注している『めぐみバリアー』が売れなくなったら、困りますヨヨ」



彼は、怒っているようである。

此方が何かいうより早く、何処からか出した箱を振って見せた。


『めぐみバリア―』と書いてある市販されている魔法防御用の人工結界の箱。
外的環境から身を守るべく生体を使った戦前の結界――――と噂され、ずっと前に生産禁止になった……と思っていたが、まだ売られているらしい。


「まだまだ現役ですヨヨ」

この類の、『めぐみバリア―』のような人工の結界は、『当時の概念』『古いバージョンの呪文』でその範囲に適応するよう人工的に作られている。
そこに新たに外敵の知識が加わる事でアップデートも出来ず意味を為さなくなるのではないか?というのが販売人の都合のようだった。


「役場とも提携してるのネ。大量に仕入れて置かせてもらってるのに」


「そんなの、侵略が始まればどのみち役に立たなくなります」



「今死んだら意味ないですネ! ミライヨり、大事なのは今!」

「今だって、いつ崩れるかもわからないのに」
2025/09/2819:55

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ほら見て、この、訴状! 昭和だか平成に見えますか? 新しい紙ですよ!?

魔力を管理する会社で働いているナナカマドは、あまりに被害が増えすぎる事から公的機関に調査・対策を呼びかける事にした。
しかし窓口の女性は申請に疑問を感じて拒否しようとする。
なんと彼女は
「大昔あった事件の話を、リカ様を讃える為にもう一度話してくれているんですよね?」
というとんでもない異常な思考に染まっていた。

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投稿日:2025/10/01 15:39:04

文字数:2,135文字

カテゴリ:小説

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