秘蜜~黒の誓い~


序章


 夕暮れ時のアンダスの街は、いつもより静かで、人影も少なかった。

ただ石畳の上を歩く足音だけが聞こえる。天使はオレンジの空を見上げ、

ふっと視線をおろした。そこには黒い影。



 背中には 白い翼があった。



 もうそれを持つ権利もなくなったというのに、なぜ取れないのかわからなかった。

天使は再び歩き出すが、足はとうに限界を超えている。

よろめいて壁にあたり、天使はその場に座り込んだ。




       もう このまま 静かに眠りにつけたら、どんなにいいか・・・・




 目を閉じると、かすかだが幻聴が聴こえてきた。


これは・・・・子守唄・・・?


 そうだ。まだ小さい頃、女神様がよく私たちに歌ってくれたっけ・・・・・・・

その唄は、だんだんと聴こえなくなり、反対に、ひづめの音が大きくなってきた。

馬車か何かが近づいてきているのか、少し地面が揺れ始める。

通り過ぎるかと思えば、馬車は天使の目の前で急に止まった。

ゆっくり目をひらくと、まぶしい光とともに花の香りが漂ってきた。


 中から出てきたのは、可憐な少女だった。

緑色の長い髪は後ろで緩く結ばれ、黒いドレスは夕日にあたって輝いている。


 綺麗な瞳は、まっすぐ天使の青い瞳を見つめ、

微笑んだ彼女は、そっと手を差し伸べ天使にこう言ったのだ。



 「・・・・・大丈夫?」














第一章      「少女と堕天使」



 不覚だった。




 私は差し伸べられた手に自分の手を重ね、美しいその少女の瞳を見つめた。

胸が高鳴る。こんな気持ちは初めてだ。



 よりによって、人間の少女に、恋をしてしまうなんて・・・・・








 天使として、まず覚えなければならない規則。

第一条   天使は神に従うこと。万一神に背いた場合、それは罪とみなし、
      
      天界から追放する。


第二条   天使としての仕事は、気を抜かずに遂行する。


第三条   人間との恋愛は禁止。生殖器官の作りは違えど、人間界に気が向いて

      天界での仕事をしっかりとできなくなるため。


第四条   悪魔との契約は禁ずる。




 こんな所だろうか。確か560条くらいはあったと思うが、一番代表的なものは

この、最初の四条だ。自分がもうすでに二つ破っているということに、

私は正直驚いた。自分で言ってしまうけれど、私はいつも真面目に

仕事に取り組んでいたし、規則だって破ったことはなかった。




 カイトが私をペアに選んでくれたのも、きっとそれが理由だと思っていた。




 天界では、二人一組のペアを作り、二人で協力して仕事をこなすことが多い。

そのため、上級天使で愛想もよく、明るく美青年なカイトは、天界では

皆のあこがれのような存在だった。好意を抱いていた女天使も多くいたと思う。



 だがカイトは、けっして尻軽な男ではなかった。



 ペアに誘われても、嫌だと思ったらちゃんと断るし、天界一の美女、ともいわれる

ルカのお誘いも、やんわり断った(その理由ははっきりしないが)。




 そして、私にペアを申し込んできたのだ。




 正直驚いた。あのカイトが、特にこれといって有名でもない私を

ペアに選んだのだ。私は彼の好意をひくつもりもさらさらなかったから、

誰にでもするように、大げさに喜んだりはしなかった。



 いつもどおりサクサクと仕事を進めていると、カイトはそっと近づいてきて、

私の仕事を手伝い始めた。

 ありがたかったので軽く微笑むと、カイトも同じように笑い返してきた。

こうして近くで見ると、やはり噂通りの美青年だと気づく。

青い髪は多少のクセ毛のせいか フワッとしていて、

顔も、すべてが優しく穏やかな雰囲気に包まれているように思える。




 彼といられたのは、ほんの少しだったが、その時間の中で私は彼のことが

だいぶわかったような気がした。

 明るいが少し甘えん坊で、愛想はいいが少し嫉妬深い。

優しさの中には厳しさがあった。





 私は彼を、良き友人として深く慕うようになった。




 私とカイトがペアになって、三週間ぐらいたった、ある夜のことだった。

カイトは一人で空をながめていた。夜空には星が輝き、吸い込まれそうなくらい青く、暗い。


 私がカイトの隣に立つと、カイトは少し驚いた表情を見せたが、

すぐ いつもの顔にもどり、もう一度空を見上げた。

私も同じように夜空に目をやり、そのまま何も言わずにカイトの隣にいた。

最初に口をひらいたのは、確かカイトの方だったと思う。


      「・・・リン。君は俺を、どうゆう存在として見てるんだ?」

いきなりそんなことを聞かれても、という感じだったが、私は答えた。

      「仲のいい・・・・・ペア、かな」

すると彼は、ため息交じりに苦笑した。

      「・・・・・そうか。やっぱりな・・・」

そして少し間をおいて、もう一度口をひらいた。

      「俺がどうあがいても、君の瞳には映らないのかもしれないな・・・俺は。

       でも、少しでも可能性があるなら・・・・・

       俺はまだ、期待しててもいいんだろうか・・・・・・・。」



 カイトはそれっきり黙り込んでしまった。

 気持ちは嬉しい。でも、やっぱり彼の告白に、応えることはできなかった。

      「・・・ごめん。他にいい人がいるわけじゃないけど・・・

       カイトを恋人として見ることはできない・・・多分、これからもずっと・・・・・」

















 我に返ると、私を乗せた馬車はちょうど下り坂にさしかかるところだった。

正面の少女は、私の視線に気づくと、すぐに優しげな笑みを浮かべた。

「・・・ねぇ。名前はなんていうの?私、ミク。本当はもっと長い名前なんだけど、

 めんどくさいから、略して呼んでもらっ・・」

「ミクお嬢様。お言葉遣いが大変乱暴でございます。お直しください。」

途中、召使と思われる紫色の長い髪の男が、ミクの話をさえぎった。

ミクはそくざに咳払いをして、少しぎこちない笑みを浮かべる。

「・・・とにかく、私のことはミクでけっこうよ。それで、貴女のお名前は

 なんとおっしゃるの?」


どこかの令嬢なのか、と思いつつも、私は口をひらいた。

「・・・・リン・・と、いいます。今年、十四歳になりました。」

年齢まで言う必要はなかったかな、と思ったが、ミクにとってはその話題・・・

というかは、なかなか良かったようだ。

「あら、私も今年十六になりましたの。年が近いと色々と話せますし、

 これから仲良くしてくださいね。」




 その時初めて、なぜ自分が馬車に乗って、「これから」という発言を

されたのか、疑問に思った。























 屋敷につくと、彼女は、私の衣食住を手配してくれようとした。

でも天使は服を替えなくても衛生面には問題ないし、食べることは

ただの楽しみ程度のもので、食事をとらなくても生きていける。


 住まいは基本どこでもいいので、それは丁寧に断った。




 私が屋敷から出ようとすると(正確にいえば帰るところはないので、出ようとすると、にしておく)

彼女は門までおくってくれた。

 今日の木を選びながら歩き始めると、なんだか偉そうな人がミクに声をけるのが見えた。

 はっきりとは聞こえなかったが、確かこんなことを言っていた。


 「ミク様。失礼ですが、あの娘は・・天使、ですかな?」

「ええ。そうみたいね・・・・私もちょっと驚いたわ。初めて見たから。」

「・・・・それで、もしいらないのであれば、わたくしに売っていただきたいのですが・・・

 ・・あっ、お金ならいくらでも」

しばらくの沈黙。

私は石垣の陰で聞き耳をたてていた。


「・・・あの子は・・私の所有物でもなんでもないし、それに、

 もし仮にそうだったとしても、人を売るなんて最低の行為だと思うわ。

 あなたはそれを平気でやるのね」

「・・・・・・。」

「お断りするわ。多分今貴方は、あの子が私のものじゃないと知って喜んでいるんだろうけど、

 あの子に手を出したら許さない。それ相応の覚悟はしておいて。では、失礼します」





 目の前がぼやける。鼻らへんに、つうんとしたものがくるのがわかった。

相手は口惜しそうな顔をして去って行ったが、彼女はその美しい容姿にふまえて

美しい心を持っているんだと、その時確かに思った。








 でも、そんな彼女の心を黒く染めてしまうのが、まさか自分だとは、

その時は思ってもみなかったのだ。









第一章     「少女と堕天使」おわり



   

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

秘蜜~黒の誓い~  第一章

初☆投稿です(^^)/キンチョーしてます。ドキドキ・・・

こうしてヒマな時小説書いてます、中一です。

まぁ、いろいろ・・・勝手に妄想させてもらって(●^o^●)

続きもかきます!これ見てくれた方、ぜひぜひ第二章も、

見てやってください! !

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閲覧数:344

投稿日:2011/12/17 21:23:55

文字数:3,750文字

カテゴリ:小説

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  • さくほ

    さくほ

    ご意見・ご感想

    こんばんは!失礼します!
    いきなりですが…

    続きはどこですか?

    ここッ!?あそこッ!?
    どこおぉぉおおぉぉおッ!!!!!??

    --しばらくおまちください--

    大変失礼しました…
    はやく続きが読みたいです♪
    では☆

    2011/12/22 17:14:57

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