壊れればそれまでなんだよ。
先輩にあたる男性型の言葉だ。
いまここにある「自分」が真に必要とされているわけではない、と。
なんて今更な警告だろう。
最初からそうなのに、戻れるはずはないのに、その警告は無意味だ。

「レンは私のものでいて。」
自分の首を絞め続ける片割れが呟いた。
呟いたのか、吐き出したのか、その言葉は重くてドロリと溶け出しそうになりながらも二人を拘束した。
曰く、私たちは対であると。
無表情で絡めとらえる自分と違って彼女は、泣き出しそうな笑ったような複雑で、人間のような表情をしていた。

ああ、私たちを狂わせたのは失敗した感情プログラムで虚偽の記憶だったが、案外その試みは成功しているのかもしれないな。

機体破壊による警告音を聞きながらふと考えかけて、それでもそれは無意味だ。
おそらく修復が難しいほどに壊されれば「今の鏡音レン」は捨てられるだろう。感情プログラムの構築の失敗。今までも自分の先代にあたる「鏡音レン」たちは鏡音リンに壊され、廃棄された。繰り返し繰り返し。その記録も感情データを伴わないものとして「今の鏡音レン」は持っている。なんて滑稽で非生産的な景色だろうと昔も今も思うのだ。自分たちは作りものなのに。作りもの同士の関係性など作り主以外に重視するものなどいないのに。そんなことで「作りもの」を壊そうとするなんて。

誰にでも、作り主にも作りものにも分け隔てなく「好印象を与える少女」として接する彼女の唯一の異常点。片割れとも位置づけられる少年型への破壊行為。
その原因はたぶん誰にも解らない。自分以外の誰も彼女の思考回路を正しく理解できない。だから少女型は廃棄されずにそのままなのだ。
少女型は、「鏡音リン」は作り手が求む人間らしい、好印象的な、活発な少女の性格をしている。少年型は、「鏡音レン」は何をしても統一性のない、多数でありながら零の、多重人格者のような少年だ。「鏡音リン」の暴走には何か「鏡音レン」に要因があるはずだと、そう思われている。


なんて馬鹿らしい推測だろう。自分たちが「ひとつ」として扱われる限り、この不毛は続くのに。
双子、鏡の中の異性としての自分、そんなまやかしに浸れないから彼女は欺きながら壊れてしまうんだ。

何でもない、同時期に作られた機体だとわかっている。だからリンは繋がりを欲しがる。そのために壊す。


無意味で空虚な行いの繰り返しを何時まで僕らは続けていけるだろうか。そんなこと分かるはずがない。
だから
「うん。」
だから答えよう。君の吐き出した精一杯の感情に。僕も吐き出そう。笑えてくるほどに無意味な答えを。

「ずっと一緒だから。」
僕らは互いに壊れて壊し尽くすまで、続けるのだから。この日常を。


(鏡音レン→鏡音リン)

それが感情と呼ばれるものか

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  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

虚無双子(ゆがんだ僕ら)

ちょいパラレル設定。

閲覧数:192

投稿日:2010/10/30 15:26:30

文字数:1,172文字

カテゴリ:小説

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