発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』



「スィ ヤーラ トゥファリ ティレヤ……」

 もう、サナファーラの視界はぼんやりと太陽に焼かれ、ほとんど見えなかった。

“謳え 創世の詩を”

「セティ ダルティア ロフィダ……」

“与えられた命”

「シェナ サドゥ パッセ ロサティ ヤ……」

“熱き想いと共に燃やして”

 しずかに、しずかに、パイオニアの言葉で、サナファーラは唄を紡いでいた。

 一度、歌ったことがあっただろうか。

 記憶もないような昔に、歌った歌。
 自分の名前の織り込まれた、パイオニアたちが、一番大切にしている唄を。

「とうさんとかあさんは、元気かな……」

 集落の光景が、浮かんでは消えていく。

 楽しい思い出ばかりではなかったが、今は、すべてが白くやわらかい光に包まれていた。
 まぶたの裏が、真っ白に染まり、手足の感覚がゆっくりじわりと溶けてゆく。

 ゆらゆらと波に揺られ、いよいよ、自分も、風となってこの星とひとつになるのだろうか。

 気持ちいい、とサナファーラは思った。
 
「ティル アッセ トゥ アレータ サティファン アモーレ、」

“我等を包む全てに愛を奏でよう”


 陸が近いのかな。


 サナファーラの耳に、小鳥の声が聞こえた気がした。

 ねぇ、


 『ミゼレィ……』
 “祈れよ”


 サナファーラが、わずかに残った力で、ミゼレィに体を寄せた。
 と、


 『……サナファーラ……』
 “光あれ”


 やさしい声が、サナファーラの名を、謳った。
 はっ、と、サナファーラの目から、しずくがあふれた。

 ミゼレィが、なんと、ゆっくりと手を伸ばし、サナファーラの体を、抱きしめた。

「ミゼレィ……」

 目を開けたサナファーラの視界に、ミゼレィの穏やかな笑顔が広がった。

 サナファーラの好きだった、きらめく海の蒼の瞳が、まっすぐにサナファーラを覗き込んで微笑んだ。

「サナファーラ……」

 ミゼレィが、サナファーラの頬に、そっと唇を寄せた。
 新しく美しい神の歌を謳ったサナファーラを、祝福するように。


「綺麗ね。とっても綺麗。サナの、歌。

 こんなにきれいな光、初めてよ……」


 そのミゼレィのやわらかい声と笑顔が、光の中で、白くかすんでいく。
 サナファーラは、ふわりと微笑み返した。
 そして、瞳を閉じた。


「……ありがとう。ミゼレィ。
 あなたは、あたしに、希望を『祈り』『願う』ことを教えてくれた」


 サナファーラの閉じたまぶたから、涙がひとつ、押し出された。


 ミゼレィが最期に感じたものは、唇に広がるやさしい海の味だった。


 サナファーラは、やさしいぬくもりにつつまれながら、ゆっくりと最後の音を謳い上げた。


 サナファーラの声が、天に昇って風に響き、やがて空気と光に溶けた。


 そして二人の体は、この惑星をめぐる潮流に乗った。



        *              *



 『サナファーラ』と、古くから呼ばれる浜がある。

 優しく寄せる波は、『ミゼレィ』と、親しみをこめて呼ばれている。

 ひとつの木が、その浜辺に立っていた。
 潮が寄せる砂地に立つその木は『導きの木』である。
 その木は成長こそ遅いものの、年々ゆっくりと枝葉を伸ばし、今は年に一度か二度、細長い緑色の実をつける。

 その実は、海を渡って、この惑星をめぐってゆく。

 そして、この星に住む人々は、

……その実と同じくらいの背丈の、小さなパイオニアと呼ばれる人々は、かれらの移り住んだ、この惑星中の大地で語り継いだ。

 神が見捨てたこの星で。

 太陽が時折生命に牙を向くこの星で。


 『開拓者』の名をもつかれらが、あたらしい、かれら自身の神をみつけるきっかけとなった、ちいさなちいさな、ふたつの命をめぐる物語を。

 その小さな二つの命を育んだ、このすばらしき世界の物語を。



si! yara tufary tereya
“謳え 創世の詩を”

cety durtia lofida
“与えられた命”

shenna sado passe rosaty ya!
“熱き想いと共に燃やして”

tir asce tu arreta sutyfan amole
“我等を包む全てに愛を奏でよう”

aa- miseley oh- san affara
“嗚呼 祈れよ 光あれ”


ha-

――――…………







ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説 『創世記』 17 最終章

発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』
 音楽 http://piapro.jp/content/mmzgcv7qti6yupue
 歌詞 http://piapro.jp/content/58ik6xlzzaj07euj


☆この小説のつかいかた

サナファーラになった気分で、朝の窓を見て、ゆっくりと、U-ta/ウタP様の創世記の冒頭を、できるかぎりやわらかい声でつぶやいてみる。

どんな天気でも!^^)


なんて。


この曲に出会えてよかったです。
いい明日になりますように!

閲覧数:278

投稿日:2010/04/10 02:01:32

文字数:1,893文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • レイジ

    レイジ

    ご意見・ご感想

    執筆お疲れ様でした☆

    さりげなくスペースオペラにしてしまう辺りがまた・・。
    どうしてこの発想が出来るんでしょうか?
    相変わらず凄い・・。
    wanita様の世界がまた一つ創られたのだなと感じました。

    ところで導きの樹とは椰子の事でしょうか?
    どこかで椰子の実は海を漂って新しい土地でその樹を残すという話を聞いたことがある様な・・?
    (自己解釈すみません^^;)

    それでは次回もお待ちしております☆

    2010/04/10 11:55:11

    • wanita

      wanita

      いつもありがとうございます!
      どこの地域でも「神は世界をつくった」はよくある話ですが、人の住める世界をつくるって、大変だよ!というあたりから思考がスタートしました。

      まず、適切な成分の空気、それを引き止める適度な重力、あと、液体の水!
      毎日異常気象だと困る、人が生きるには人を支える植物や動物が必要、でも生活の場となる環境と、惑星自体を維持する自然って、だいぶ違うよね、誰かが「人の住めるところ」も確保しなきゃ、でも、誰が……?

      というあたりから、創世とは宇宙でテラフォーミングだ、環境整備には小型のヒトを創って播いてしまえ(あとで全除去=悲劇の可能性=それを乗り越える物語の山の可能性!)、という発想が生まれました^^)紙の上の神の所業です☆

      導きの木に、言及ありがとうございます!
      実は。マングローブです。
      さらに特定するなら、ヤエヤマヒルギ(Rhizophora stylosa)という種類です。
      その理由は、次回のシートで、解説しますね!
      ふふふ……これを楽しみに創世記をかいたというのもあって。

      植物、好きなので、これについて語りだしたら止まりません^^☆
      レイジさんにおける歴史のようなものかもしれません。

      では、今後もどうぞよろしくお願いいたします☆

      2010/04/10 13:07:32

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