「……いっちゃうんだねぇ」
大きな桜の樹を見上げて、ポツリと零した。
落ちた先には、小さな墓。
「私のこと、結局おいてっちゃうね」
大きな樹から、小さな花びらが舞う。
ひらひら、自由に飛び回って、手を伸ばしても掴めはしなかった。
つかみたくても、つかめなくて、少し苦い顔で笑う。
「…そういえば、あなたは言ってたっけ」
――――― 『命が絶えるのには、必ず意味があるんだよ』
あなたは、広がる夜空を両手いっぱいに抱えながら、ぽそりといった
『花は種を残すために』
私の手の中で、一輪のコスモスが揺れる
『動物はやさしさを教えるために』
すり寄ってくる三毛猫は、みゃあと可愛らしく鳴いて
『すべては命の尊さを教えるために』
……とうとさ?
私は首をかしげたのを憶えてる。
「……それなら、あなたは何のために」
どんな意味を持って、私をのこしていくの?
あふれた言葉を掻き消すように、春風が髪をなびいた。
瞬間、頬がひやりとした。
そっと頬に触れると、はなびらが舞うのが見えた。
しだいに桃色がなくなっていく大樹。閑散とした光景に、身体中があつくなった。
「っばかやろぉ!」
あなたがいなくなって私は
悲しみを知った 寂しさを知った
やさしい気持ちなんて、これっぽっちも、
「なんで……なんで勝手に、」
こんなときに贈る言葉も
こんなときにする表情も、まだ、教えてもらってないのに
なのに、どうしてこんなときに限って
あったかくて穏やかなウタが、反響するの?
あなたの声で あなたの言葉で 身体中に響きわたる、
「たよりなんか……、たよりなんか書いてる暇があるなら、」
歌わない。私は絶対うたわないよ。
「かえってきてよ……」
だってこんなの、かなしすぎるよ
春風が、また言葉を攫っていった。
それと一緒に、はなびらが誘われて
『 だいすき 』
…それは、散りゆく桜が魅せた、さいごのおくりもの。
「……ばか、」
何も変わらない。
何も変わってない。
これからも、これまでも、お調子者のあなたと、泣き虫の私。
こつんと、小さな墓を小突いた。
それから笑顔で手を振って
『ばいばい』
桜の樹に別れを告げた。
…会えなくなるわけじゃない。
決別のときじゃない。
あいたくなれば、泣きたくなれば、また、ここに来ればいい。
いくつ春を過ぎたって、あなたを忘れることはできない。
だってあなたは
何も知らない私に、愛しさを教えてくれた人だから。
……そうだ、今度来るときはしっかり憶えておこう。
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―――――……さよなら。
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