「リンの奴、遅いなぁ。俺、ちょっと見てくる」
 少し心配するようにレンがそういうと、ルカが不満そうにレンをにらみつけた。実際、レンはリンが心配でこの発言をしたわけではなく、ルカの対応に困って逃げる方法を考えて、言ったのだった。
 包丁をまな板の上におき、手を軽く水道水に通すと、エプロンで拭きながら廊下を走って玄関まで行った。
「リン、何してんだよ?早くもどれ…んっ?」
 いきなり、レンが素っ頓狂な声を上げた。
「み、ミク…?」
「知り合い?レン」
 振り向いたリンは、レンに問いかけた。しかし、レンは驚いたような表情のまま、ミクと呼ばれたいきなりの客人を凝視していた
「レン君、久しぶりっ!」
「え、あ、ああ…」
「私のこと、覚えてる?」
「もしかして、『MH―2号機』か?」
「そうっ!よかった、間違えられたらどうしようかと思った」
 実はほぼあてずっぽうだったことはあえて触れないことにして、レンは少しだけ嫌な顔をして、『MH―2号機』に問いかけた。
「いきなり、どうした?…まあ、立ち話もなんだし、入れ。リンも、冷えるとウイルスはいるかもしれないぞ」
「うん、わかった」
「久しぶりに我が家に帰ってきたよ!」
 玄関から上がってきたミクの髪の毛は全く乱れていなかったが、外は随分と風が酷いらしく、木々がうねるように揺れていた。それでも乱れることのない髪の毛は、やはりVOCALOIDだからだろうか。
 ちらり、と『MH―2号機』をみて、リンはふと思う。製造番号で呼ばれている辺り、彼女もまた、VOCALOIDなのだろうか。この研究所を我が家といっているところを見ると、おそらく、彼女はリンが出来る以前にこの研究所にいたVOCALOIDだろう。そして、何らかの理由でこの研究所を離れていた。しかも、『2号機』ということは、すでに量産されているということ。まだ、VOCALOIDは商品化されておらず、まだ試作段階なのだから、すでに別のマスターのところにいたということはあるまい。ならば、何故、彼女は今までこの研究所にいなかったのか、何故、今このタイミングで帰ってきたのか。
 小さな精密機械の脳がこの瞬間、フル回転していた。
 キッチンのほうに戻ると、全員が待ちわびたというようにリンとレン、『MH―2号機』に目をやった。途端、メイコとカイトが驚きのような喜びのような、不思議な表情を浮かべた。
「二号?久しぶりね!」
「やあ、元気にしてたかい?」
「はいっ!おかげさまで!とっても元気ですよ!」
 にこにこと答える『MH―2号機』をみながら、リンはレンに耳打ちをした。
「レン、あの子、だれ?」
「え?ああ、そうか、リンは知らないんだったな。あいつはこの研究所の『VOCALOID初音ミク』の試作型の2号機。今は、全部で五体が作られたけど、要望とか問題点とかの意見を聞くために、その道のエキスパートたちに預けてある。勿論、初期型(オリジナル)は研究所内にいるけど、他のミクからのメールや情報を整理するためにスリープ状態だ」
「へぇ…」
 感心していたリンも、彼女が自分の先輩であるということにかがつき、少し申し訳ない対応をしたのだろうか、と考えていた。
「どうしたのよ、いきなりたずねてきて?」
「妹分のオリジナルが出来たと聞いたので、一目見てやろうとおもいまして。それで、その子はどちらに?」
「あの子よ、金髪の子」
「アレはレン君です」
「その隣りのリボンの子。レンがモデルなんですって」
「本当デスかっ?やった、妹が出来た!」
 そういって、ミクは飛び跳ねてまで喜んだ。
 そこまで喜ばれると、リンも少し嬉しくなって、一緒になって喜んだ。
 しかし、ちょっと複雑な気分でもあった。いきなり出てきた姉貴分、全員が彼女を待ちわびたというように喜んで、彼女はリンを見てこんなにも喜んでいる――。
「よかった、二号のところのマスター気難しいって言うから心配だったのよ」
「二号、ゆっくりして行っていいんだからね。自分の家だから」
「始めまして、二号さん。仲良くしてくださいね(可愛い、超可愛い!食べちゃいたい!)」
「まあ、座るといい。何か作るから。カイト、二号機に場所空けろ」
 皆が彼女に期待を寄せる。
 皆が彼女を中心に笑っている。
 皆が彼女を、

 製造番号で呼ぶ。

 誰も名前で呼んでくれない。
「二号」
「二号さん」
「2号機」
「二号」
「二号」
「2号機」
「二号さん」
 
 貴方も、いつかは、私を製造番号でしか呼ばなくなるのですか。
「ピ――――――…。有害なプログラムを感知しました。鏡音リンプログラムを終了します」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

君にささげる機械音 10

こんばんは、リオンです。
ついに二桁ですね。これからちょっとだけ山場が来ます。
今日、コラボを立ち上げようとしたんですが、携帯登録していないとダメなのですね。
初めて知りました。馬鹿ですか。そうですか。
誰か立ち上げて運営してくだせぇー。ちょくちょく見に行って小躍りします。
あれですかね、コラボに入るのも携帯登録が必要なのでしょうか。
ちぃとばかり面倒ですな。
では、また明日!

閲覧数:239

投稿日:2009/11/29 22:20:38

文字数:1,925文字

カテゴリ:小説

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  • リオン

    リオン

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    返事が遅れてしまいました!
    さあ、どんな有害なプログラムでしょうか。
    欲求不満じゃないですか。レン君、もっと構ってあげなくちゃダメだよ。

    立ち上げてみようとしていたんですけどねぇ…。
    携帯登録さえ出来れば…くそぅ!!
    私も未熟者だったので…がんばりますね…。
    ごめんだなんて、いいんですよ!!
    では!

    2009/12/01 20:24:39

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