美しく着飾った貴婦人と紳士達。弦が奏でる音楽。まるで昼間のように眩く輝くシャンデリア。人々のざわめきと香水の香りが入り混じりどこか退廃した空気を醸し出していた。その中を、カイトがミクの手を引き、進む。美しいドレスに身を包んだミクは初めての場所に瞳をきらきらと輝かせた。
ミクを、舞踏会へ連れて来たのは初めての事だった。このままカイトだけの世界に閉じ込めていてはいけないと、思ったのだ。
ミクと距離を置かなければならない。そう思った。
「今までこんな楽しいところに連れて来てくれなかったなんて、カイトったら意地悪ね。」
そうミクが無邪気に笑いかけてくる。その笑顔にカイトが微笑を返していると、二人に近づくものがいた。
長身に紫の長い髪をたなびかせ、タキシードを着崩したその姿は周囲の目を引く。相変わらず派手な男だ。とカイトは笑った。
「やあカイト。」
そう言って親しげに笑いかけてくるカムイにカイトはやあ、と軽く手を上げた。
「久しぶりじゃないか。」
「ああ。君がお姫様を連れて来ると聞いたから。」
そうカムイは言うとミクに向き直り、覚えていますか?と微笑んだ。
「小さい頃、何度か会ったきりでしたが、私のことを覚えていますか?ミク様。」
「ええ。カイトのお友達の、カムイ様。」
そうミクが答えると、カムイは微笑を浮かべてミクの小さな手のひらに口付けた。
「今日は、貴女の噂で持ちきりですよ?」
そう悪戯っぽくカムイは言う。
「あの伯爵カイトが、女性をエスコートしてくるってね。しかもとても美しい。」
「まあ。」
カムイの発言を冗談と受取ったのか、ミクはくすくすと笑う。
「冗談ではなく。さっきから若い男達が、貴女にちらちらと視線を送るのに気が付きませんか?」
「さあ。気が付かなかったわ。」
笑いながらミクは首をかしげた。
「私はカイトにエスコートされているのだもの。」
そう言ってミクは無邪気に、カイトの腕に自分の腕を絡ませる。その様子にカムイは楽しげに首をすくめてカイトを見てきた。
「ミク。」
と、カイトが穏やかな口調で名を呼んだ。
「なに?」
「私はちょっとカムイと話がある。暫く誰かと踊ってきなさい。」
そう穏やかな口調で、しかし有無を言わせない調子でカイトは言う。ミクが反論を口にする前に、カイトは近くにいた若者に声をかけた。
「君。彼女を頼む。」
そう言ってミクの手をその若者に託す。若者に手をとられながらミクは不満そうに口を尖らせた。
「カイトは一緒に踊ってくれないの?」
「、、、後でね。」
そう言ってカイトは微かに笑みを浮かべる。若者に手を引かれ、ダンスフロアへ向かうミクをカイトが見送っていると、カムイが訝しげな視線を送ってきた。
「お前が俺に、早急な話があるとは知らなかったな。」
「、、、悪い。ミクから離れる口実を作りたかっただけだ。」
「だろうな。お前、目が笑ってない。」
何がしたいんだ?とカムイが首をかしげていると、とん、とその肩を叩くものがいた。
「貴方達、何も飲まずに何を話し込んでいるのかしら?」
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空っぽのココロは水を求めてる 息もできない程に…水中歌
衣泉
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