「十二時方向、速度五百キロ、高度は一万フィート。同高度だな。もうすぐ目視で確認できる。各機減速。不明機を取り囲むぞ。」
<<了解>>
ただ青いだけの空に一粒の小さな点が見え始めていた。おそらくあれが例の不明機だ。
「見えてきた。」
俺達はさらに距離をつめていく。次第に機体のカラーや形が明確に見えてくる。俺達は不明機の後ろに張り付き、距離を詰めていく。
『おい、ちょっと待てよ。ありゃあ……。』
麻田が怪訝そうに声を上げた。その機体は明らかに日本防衛空軍のものだったからだ。
「RF-15だ。なんでこんな場所に……?!」
日本防衛空軍が自衛隊時代から運用していたF-15戦闘機を偵察用に改造を加えたものだ。グレーではなくグリーン迷彩の塗装がされている。
「ここの空域は我々の管轄のはず。ほかの基地からこの空域に航空機を差し向けることはありえない。」
流石に気野も不審に思っているようだ。確かにその通りだ。それに、そんな通達も聞いていない。
「とにかく、無線を。」
俺は無線装置を操作した。相手の所属が分からないので、とりあえず防衛空軍公用の緊急用周波数を使用した。
「こちらは日本防衛空軍水面基地所属の第302戦術戦闘飛行隊だ。貴機は我々の管轄空域内にいる。速やかに進路を変更されたし。」
だが向こう側から応答はなかった。
次に俺はIFF(敵味方識別装置)を操作し、あの機体に識別電波を送信した。しかし、応答はない。
「不明? なぜだ……IFFも応答なし。」
<<わたしが見てきてみる>>
ミクが編隊を抜けRF-15のすぐ隣に付いた。
「待てソード5! 勝手な行動を……。」
<<いいや、ソード1。彼女に機体の詳細な情報を伝えてもらおう>>
気野の言葉に納得し、俺は彼女にその役を与えることにした。キャノピーの横に直接張り付いてパイロットに呼びかけるなどという芸当ができるのは、彼女だけだ。
「…・・いいだろう。ソード5。機体に表記されているシリアルナンバーとノーズナンバー、および部隊マークを伝えよ。」
<<……ないぞ>>
「何?」
ミクの呆然としたような呟きに俺は思わず疑問の声を挙げた。
<<機体には何も書いてない。ただ模様があるだけだ>>
「なにも? 国籍マークもか。」
<<ああ>>
「パイロットは。」
<<一応一人いる……でも前を見たまま動かない。>>
「分かった。ソード1からゴッドアイへ。不明機の正体が判明した。RF-15だ。しかし公用無線の緊急周波数が通用せず、IFFにも反応しない。しかも機体にはシリアルナンバー等の表記が一切ない。国籍マークすらない。空軍内にこのような機体はあるか。」
<<ゴッドアイからソード1へ。そのような機体は存在しない。必ず各種マーキングがあるはずだ。ソード1、その機体を基地に強制着陸させよ>>
「了解……あっ!」
<<なっ、何だってんだ?!>>
突然の出来事に、俺は目を疑った。目前のRF-15から黒い煙が噴出し、それと同時に高度が急降下していく。
<<どうしたソード1>>
「例の機体にトラブルが発生した模様!高度が下がっていく。」
<<おーーーい!>>
ミクはRF-15のキャノピーにくっついて必死に呼びかけた。それでも中のパイロットが反応する気配はなかった。
やがて黒い煙と共に今度は機体の所々から炎が噴出した
「おい聞こえるか! 機を捨てて脱出せよ!!」
俺も必死に呼びかけた。しかしRF-15はバランスを崩し、そして、炎に包まれた。
「ソード5! 退避せよ!」
<<分かった!>>
ミクがすばやく離れた瞬間、RF-15は空中で爆発四散した。
<<うわっと!>>
真後ろにいた俺達は機体を急速旋回させ破片を回避した。絶対に機体を傷つけてはならない。ただの上空警戒で機体を傷つけようものなら、機体に愛着を持って整備する整備員達の頭の血管は音を立てて切れ、激怒の形相で俺達パイロットに殺到するだろう。
「一体なんだというんだ…ソード1からゴッドアイへ、例の機体が墜落、いや、突如爆発した。パイロットは脱出しなかった……。」
<<こちらでもレーダーから機影の消滅を確認した。あとで回収部隊を機体の破片の回収に向かわせる。ソード隊はそのまま警戒を続行せよ>>
「了解。」
それから俺達は哨戒を続けたが、それからは何も起こらず俺達は基地に帰投した。
◆◇◆◇◆◇
「はい。水面基地司令の世刻ですが……おや、これはこれは……ふむ……データ?あなた方も彼女のデータが欲しいのですね。確かに、あなた方は表向きにはただの科学企業でもれっきとした軍需企業ですからね。しかも元をたどればあなた達のものですし……なんと、そちらのほうまでご希望なさるとは。確かにただの空中戦闘用ではありませんからね。無限の可能性を秘めていますよ。彼女は……そのようなデータをご用意していただけるとは恐縮です……ええ。ではまずそのデータを彼女にインストールさせましょう。送信をお願いします……そうなのです。網走博士もこちらに。でもその作業は別の者にやらせますよ……近々役に立つ日が来るようですね……はい。それでは失礼します。クリプトン社長。」
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