第十五章

昨夜の「恋人ごっこ」を始めてから、1週間が過ぎようとしていた。
私は相変わらず、気怠く起きほんの少し甘い香りの香水を纏い、
携帯へと目を通す。
何ら変わらない日常に「恋人ごっこ」と言うほんの少しの彩が挿している様にも
感じる日々だった。
毎朝の様に先に起きた方から「おはよ、今日も大好きだよ」
そんな嘘吐きの「恋人ごっこ」。
それでも私にとっては彩がある日常だった。
薄情ではあるのだが、彼に対して「期待」なんてものは微塵も感じなかったのである。
人間不信を拗らせ、私が行き着いた「答え」は
「人に興味が無くなってしまった」そんな所であろう。
私はいつもと変わらない日々を黙々と、そして淡々と過ごし
あっという間にパートナーの帰宅の時間を迎える。
会話のない生活にも随分と慣れたものだ。
パートナーの顔も見たくなかったが一応、「おかえり」とだけ伝え、
作りたくもない笑顔と共に自室へと籠る。
今日は音楽も何故か聞きたくなかった私は、煙草を一本取り出し、
咥えながら、時計の音だけの空間で上を向いていた。
吸っている煙草の火を見つめ、「恋人ごっこねぇ…」なんて呟きながら
ゆっくりと呼吸をしていた。
「恋人ごっこ」をしている「意味」を考えながらも
最終的には「意味も理由もない」そこへとしか辿り着かない。
「私は何をしているんだろう」
そんな考えで頭が満タンになる頃、パートナーは眠りに付く様子だった。
「おやすみ」触れる事もないパートナーへと言葉を残し
私は寒空の中へと出る事にした。
冷たい空気の中、月がとても美しく輝いていた。
いつまで続くであろう「恋人ごっこ」の事を考えたって仕方ない。
長い時間、月を眺め頭の中を空っぽにしていく。
温かかった身体もすっかりと冷たく芯から冷えていくのが分かる。
「私はもしかしたら冷たい人間なのかもな」と月に伝える様に呟き、
家の中へと入った。
身体の芯から冷え切った身体を温める様にいつも通り白湯を入れる。
ゆっくりと時間を掛け、身体を温め今日は何だか疲れてしまったな、と感じ
大好きな香水を纏い、ベッドへと向かった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

月は嗤い、雨は鳴く

「恋人ごっこ」を始めては見たものの、「人に興味がなくなっていく」主人公。

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投稿日:2024/06/21 01:13:16

文字数:891文字

カテゴリ:小説

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