終電後の街は静かで、ビルの窓明かりだけが遠い恒星みたいに浮かんでいた。
風はぬるくて、アスファルトには昼間の熱がまだ残っている。
カメラバッグを肩にかけながら、僕は誰もいない交差点をゆっくり歩いていた。
その日の被写体は、夢を追いかけている途中の人だった。
上手くいかないことも多いらしく、「自分には何もない気がする」と小さく笑っていた。
でも、不思議とその横顔は綺麗だった。きっと、本気で何かを信じている人だけが持つ光だったのだと思う。
撮影が始まってもしばらくは、お互いに言葉が少なかった。
シャッター音だけが夜空に吸い込まれていく。
けれど、何枚か撮るうちに、その人がふと遠くを見ながら笑った瞬間があった。
ほんの一瞬だった。でも、その表情はまるで暗闇の中で急に見つけた星みたいだった。
誰にも気づかれていないだけで、人はみんな自分だけの光を持っているのかもしれない。
僕はそれを探したくて、写真を撮っている気がする。
派手じゃなくてもいい。
強くなくてもいい。
夜空の隅にある小さな星みたいに、静かに誰かを照らしている光がこの世界にはたくさんある。
撮影後、コンビニで買った缶コーヒーを飲みながら、被写体の人がぽつりと言った。
「今日、自分が少し好きになれました」
その言葉を聞いた時、カメラは記録するためだけの道具じゃないんだと思った。
誰かの中に眠っていた光を、ほんの少しだけ見つけやすくするもの。
帰り道、見上げた夜空には星はほとんど見えなかった。
でも街のどこかで今日も、誰かが静かに光っている気がした。
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