大晦日から降り続ける雨は、新年を迎えて三日になるが、その間止むことはなかった。

 針のような雨に霞む九十九里浜は、青みがかった灰色に染まっていた。
 わたしは雨の降り続けるなか、海岸線を歩いて行く。
 降り止まぬ雨は服を濡らし、わたしの肌を侵す。
 色の変わった砂浜に残された足跡を雨と波の混じり合ったものが消していく。
 わたしは、わたし自身までもが消されてしまわぬように、手首の傷に爪を押し当てる。


         その死体は海に溶け込むように波に浸っていた。


 手首から流れた血は雨に溶け、わたしの足下に眠る少女の頬に現実味のない淡い色を落としていく。
 それは昔ビデオで見た、爆弾を背負わされたイルカの、あの鮮やかな肉片を思わせた。
 わたしは手首の傷を丹念に爪でなぞりながら、青い衣装に包まれた少女の顔をそっと窺う。
 その顔はどこかで見たことがあったけれど、やはりわたしには思い出すことが出来なかった。
 その記憶は痺れるように甘くわたしの脳髄を刺激する。

<何故、わたしを殺したの?>

 少女の瞳がわたしの瞳を映す。
 脳髄が震える。
 少女の冷たい指がわたしの腕を掴む。
 ――何故?……何故――
 少女の指が徐々に徐々にわたしの腕に這い上がってくる。
 その冷たい指の感触がわたしの理性をゆっくりと崩していく。
 少女の指は終にわたしの頬に至る。
 冷たいその手は――少女の微笑み……少女?――わたしの左目に触れ、眼球をその冷たさで侵していく。
 わたしはもう一度、濡れた左目で少女の顔を窺い見る。
 よく見た事のあるその顔は蒼い唇を動かしてわたしに語りかける。
 その言葉は雨の音に掻き消されてわたしには届かない。
 彼女の蒼い唇がゆっくりと――やめて――言葉を紡ぐ。
 わたしは――やめて。やめてっ!――彼女の体の上に跨ると、全体重をかけてその細い首を絞めつける。
 彼女はその虚ろな瞳でわたしを見つめたまま、そっとわたしの頬に触れる。
 僅かに微笑みながら。

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浮遊生物(内容暗め)

ただ愛していただけなの・・・・

かなりダークな内容になっています。
ミクとルカを元に書いてみました。
久しぶりに小説を書いたら、純文っぽくなってしまった。
次はもっとライトな感じで書きたいと思います。

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閲覧数:204

投稿日:2010/05/04 23:46:32

文字数:850文字

カテゴリ:小説

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