「おーほっほっほ。さぁ、ひざまずきなさい」

昔々、一人の少女と一人の少年がいました
無知であるが故に、自分の想いを伝えられなかった不器用な少女
利口であるが故に、運命を変えられなかったことを悔やむ少年
これは、そんな少女の物語…―


オリジナル変換小説No.4
『悪ノ娘』 作詞・作曲:悪ノP 唄:鏡音リン・鏡音レン



トントン、と扉を叩く音がして目が覚める
開かれた窓からは小鳥のさえずり
周りを見渡せば見慣れた煌びやかなお部屋の調度品
そして顔のよく似た召使

『おはようございます、王女』
『………』
『今日はこちらのお洋服をお召しになってみてはいかがでしょうか』

返事がないとわかっているのか、黒のラインが入った黄色を主としたドレスを見せてきた
私の好きな色を使っていてデザインもとても可愛い
嬉しさで微笑みながらドレスを受け取ると、つられて召使も微笑み部屋から出ていった
すると、入れ違いに扉を叩く音がする

『入っていいよ』

そう言えば、ぞろぞろとお付きの者たちが入ってきて、私の髪やら顔を整えていく
その間、私の機嫌を取ろうとする者もいれば、ただ黙々と仕事をこなす者もいた
毎日毎日繰り返されるこの行為。正直そんなお喋りなんかより早く紅茶を飲みたい
そんな気持ちも露知らず、髪を丁寧に上で縛り、薄く化粧をしてドレスを着せられた

一通り仕上がると専属の者達と入れ違いに召使がノックをし、紅茶を持ってきた
朝はどうしても紅茶。それを覚えてるのは流石私の召使だと思う
少々疲れ切ってしまっている私を見て困ったように笑いながらカップを渡される

あ、今日はアールグレイだ…そう思って嬉しくなっても素直になれないから

『……温い…』
『申し訳ございませんでした。ただ今すぐに取り替えて参ります』

そう言ってカップを持って一礼をして出ていった

本当はちょうど良い熱さだった
だけど‘ありがとう’なんて言えないからどうしても違う言葉を言ってしまう

そんなことを考えていたら入れ直した紅茶を持ってきた
さっきと同じ熱さ。今度はもう何も言わない
私を見て微笑んだのはきっと気のせいね
ゆっくりと紅茶を飲み終えてから執務室へと向かった。もちろん召使を付き添えて

扉を開けると机の上に書類が置いてある。読めばそれほど大きな問題ではなかった
むしろ何故こんなことに手間取っているのか疑問さえ抱く
さっさと民衆から徴収しまえばいいものを
そうしなければ私達が生きていけなくなるじゃない
民衆のことなんて知るわけないわ。だって私は王女だもの
欲しいものを欲して何が悪いの

そう考えれば考えるほどこの書類がばからしくなって大臣を呼びだした

『ねぇ、この書類はなんなの?』
「は、はい!先日、民衆から税の取り立てが厳しすぎるとのことで」
『そんなの知らないわ。民衆は王国に逆らうの?』
「し、しかし…」
『そう、あなたも逆らうのね』
「滅相もございません!!」
『なら、取り立ててきてちょうだい。欲しい服が見つかったけれどお金が足りないのよ。あぁ、逆らう者には粛正を』
「………かしこまりました」

渋々下がる大臣を見て疑問しか浮かばない
けれど召使が悲しそうにこちらを見てるのが毎回気になってしまう

『どうしたの?』

そう問いかけても曖昧な返事しか返してこないし
そしてその後は買い物へと出かけて行ってしまうことも知ってる
何処へ行くかなんて聞かなくたってわかってる
だって美味しい紅茶が売っているのは緑の国だもの
私が紅茶を好きなのを知っているから召使がわざわざ買いに言ってるらしい
当たり前よね、紅茶の味が気に入らなかったら刑罰ですもの
召使が淹れてくれるようになって他の者たちは安堵してるに違いないわ


そんな毎日を過ごしていたある日
いつものように召使が紅茶を差し出してきたときに告げた言葉
それが私達の運命を変えるなんて知るよしもしなかった

『王女様、青の国の王子からお手紙が届きました』
『本当!?早く貸して頂戴!!』

小さい頃、私がまだ王女になる前に召使と一緒に綺麗な海が有名な青の国へと出向いていた時、お忍びで海に来ていた青の王子様に出会い、恋に落ちた
あぁ、その頃はまだ召使、なんて呼ばずに名前で呼んでいたっけ…
……あれ?召使の名前は…?それに何か約束した気がしたんだけれど……まぁいいわ

青の国の王子様、私が王女になってからも交流という名でよくお話しているけれど…手紙なんて珍しい。どうしたのかしら?もしかしてお誘い…?
そう胸を躍らせて開いたそこに書かれていたのは…


【拝啓 黄の国の王女様へ 緑の国の街娘と婚約が決まりましたのでお知らせ致します。近々パーティーを開きますので、是非その際はご出席を願いたいと存じます。】


それはあまりにも残酷で、王女を壊すのは簡単だった

『王女…?どうなされましたか?』
『…少し休むから席を外してちょうだい』
『…かしこまりました。御用がございましたらお呼びください』

そう言って心配そうにこっちを見つつも部屋から出ていく召使
そうよね、いつもなら笑顔で手紙の内容を話しているもの
心配するのも無理ないわ
でも、どうしたらいいのかわからないのよ
婚約だなんて…


あの日から数日…
私の頭は整理しきれなくてずっとベッドの上
召使が私の大好きなブリオッシュを置いてくれるけれど食べる気力さえないわ
ねぇ王子様、どうしてそんな娘を選んだの?どうして私じゃないの?
王子を取った緑の娘が憎い…っ

『…ねぇ……』

傍にいる召使に声をかける
あぁ、何日も話さなかっただけでこんなにも声が掠れてしまうのね

久しぶりに声をかけられたのが嬉しかったのか微笑みながら返事をしてくれる
けれど、私でも思うほどの残酷な一言で、一瞬にして表情を変えた

『‘      ’』
『……それが王女の願いなら』

微笑みながら私の頭を撫で、部屋を去っていった
外はあんなにも綺麗な夕焼けだったのに、今じゃ真っ暗で振り止まない雨
どうしてあの時私はあんな残酷な言葉を呟いてしまったんだろう
あの雨は、誰の涙…?民の者?緑の娘?青の王子?それとも…あぁ、瞼が重い…


真っ暗な夜とは変わって綺麗な青空
小鳥はいつものようにさえずり
いつものように周りを見渡せばいつもの煌びやかな調度品
けれど、そのいつもの朝に召使はいない
きっと私がまだ寝てるんだと思って休んでるのね、後で叱らなくちゃ

…何故か周りが騒がしい。どうしたのかしら?
久しぶりにお部屋から出てみれば、とても落ち着いた様子で声をかけてきた
それはそれはとても笑顔が零れそうな程の顔で

「おはようございます王女様。これでこの国の領土が広がりましたな」
『…えっ…?』

何を言っているのかわからない
領土…?何のこと?私は何もしてない
それに部屋から出ていないのに…
ただ昨日、召使に


‘緑の国を滅ぼして’


『……っ…』
「またまた、王女様は意地悪な方だ。これで緑の国は王女のモノになったではないですか」

まぁ…後は民共の暴動を抑えてしまえば…
そう言って私に一礼して、笑いながら廊下を去っていく

いつもなら粛清という名で大臣だろうが民だろうが刑罰を与えているのに
どうしてか、力が抜けたかのように床に座り込む

だって、私は…私は…そんなつもりじゃなかった
ただ、王子が私のことを見てくれなくなったから、だから緑の娘が
私が悪いんじゃない、緑の娘が…

『リ…王女っ!?』

慌てたように召使が私の元へと駆け寄り、立つよう促す
どうしてか鉄のような匂いがする
召使に抱きつくよう立ち上がり、目の前を見ると



 赤



『レ、レン!?その服…っ』

…レ、ン…?…そう、この召使の名前…
どうして忘れていたんだろう。この世に一人しかいない愛しい半身を
でもあの約束が思い出せない、後少しでわかりそうなのに…

そう叫べば驚いたように目を見開き、嬉しそうに、そして悲しそうに私から離れていく

『レ、ン…?』
『…王女、私の名前はレンではありません。ただの召使です』

じゃあなんでそんなに驚いたの?
どうしてそんなに悲しそうなの?

どう対応したらいいのかわからない私はそのままレンを見つめる

『驚かせてしまってすみません、先ほどペンキ塗りをしておりました。私は着替えてきますので王女はお部屋へとお戻りください。ご心配かけてしまい申し訳ありませんでした』

一礼をしてから背を向けて去っていくレン
ペンキ…?けれどあの匂いは…
いいえ、今はレンを待ちましょう
そろそろ午後三時、鐘がなる…私はこの時間がとても待ち遠しい
心配掛けた分、とっても美味しい紅茶とブリオッシュを作ってもらわなくちゃ

けれどその時には遅すぎたんだと思う
私が振り返る暇もないぐらい、時間は過ぎていったから…

それから何度となく変わらない毎日を過ごしていき
幾度となく執務をこなして、ひと時の休息を楽しみながら一日を終える
そんな毎日をつまらなく思いながらも、傍に私の半身がいるから
レンがいてくれたから頑張ってこれた
そう、気づいても遅い。けれど私は気付かなかった
レンがとても苦しそうな顔をしていたなんて…


やけに物静かな朝
部屋はいつもと同じなのに空はまだ朝を迎えていないかのように暗い
足音が廊下に響いているのか、扉の前でその足音が止まったときとても怖かった
そんな不安を煽るようにレンが勢いよく扉を開けた

『王女!!逃げてください、赤の剣士と青の王子が民衆を引き連れてクーデターを起こしました!!!』

…何を言っているの…?
民が…クーデター…?
私は 殺 さ れ る …―?

『な、なんで…どうし…』
『王女、早くこちらへいらしてください、早く!!』

混乱してる私を引き連れてレンは廊下へと飛び出た
その間にも民の声は大きくなっていって恐怖が募っていく
走っている最中、レンは私の手を強く、けれど優しく握りしめて階段を駆け上がってゆく

『レン…』
『…大丈夫、大丈夫だよ、リン』

あぁ、やっと名前を呼んでくれた
こんな雰囲気にも関わらず私は嬉しくて、レンが儚く笑っていることに気付かなかった
否、この手を離してレンを助けようとした
けれど突然一つの扉の前で止まるから、私は慌てて一緒に立ち止まる

『こちらへどうぞ』
『ここは…』

着いた先は、代々守ってきた王室の間
何故レンはここへ…?
でもいいの。こんな形になってしまったけれどこれでレンに伝えられるから
本当に大切だったのはきっと…――










『この無礼者!!!』


ついに青の王子と赤の剣士が王女を捕え、この一言により、城は静寂を取り戻した

齢十四にして王女となった一人の少女
その傍らにいつもいた召使はもういない
青の王子と赤の剣士が事の始まりは王女
そのため罪もない召使を捕らえる必要はないと言ったからだ

事の騒動から数日後
広場には大勢の民衆が集まり、高台の上を食い入るように見つめている
その上には赤の剣士と青の王子、そして

「黄の王女、最後にいい残す言葉はあるか?」

そう、処刑台に括りつけられた王女

少しの静寂が続く
そして、教会の鐘が鳴り響いた

先ほどまで下を向いていた王女は真っすぐ見つめ、微笑み呟く



『あら、おやつの時間だわ』








昔々、一人の少女と一人の少年がいました
無知であるが故に、自分の想いを伝えられなかった不器用な少女
利口であるが故に、運命を変えられなかったことを悔やむ少年
そんなことを知らない民衆は、少女がいなくなったことで喜び合い、抱き合いました
そして口々に言うのです

‘悪の娘はいなくなった’と

果たして、一番の愚か者は誰なのでしょうか
王女、召使、緑の娘、青の王子、赤の剣士
それとも…―――


fin...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

"悪の娘"歌詞小説No.4(悪1)

愚かにも悪シリーズに手を出してしまいました…←

悪シリーズは
悪娘→召使→緑娘→復讐娘→復讐者→リグレット→白娘→RE:→ココロ→キセキ

の個人解釈で連載していきたいと思います*
それにしても…リクエストしてくれた友人…怨みますよ…?笑

閲覧数:1,559

投稿日:2010/02/07 10:19:00

文字数:5,021文字

カテゴリ:小説

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