格納庫内には頭上からの衝撃音とサイレンが響き渡っていた。
振動、爆発・・・・・・。今、俺達の頭上十数メートルのフライトデッキでミク達が戦っている。突然襲来した謎のアンドロイド部隊を相手に。
たが、俺達はこうして格納庫でじっとしている他無かった。
気野も朝美も、麻田すらも床に視線を落としているだけだった。そして、何も言わない。
「これは、一体どういうことなんだ・・・・・・。」
最初に口を開いたのは矢野大尉だった。
「少なくとも、これは興国軍によるものではないと思います。」
その呟きに答えたのは麻田綺羅だ。
「どうしてそう言い切れる。」
俺は綺羅に訊ねた。そう言った彼女の真意が知りたかったからだ。
「あのアンドロイドは間違いなく最新型です。私は戦闘用アンドロイドには詳しくありませんが水中潜航ができて、あれだけの跳躍力を持ったものなどこれまではありえません。しかも、上空の対潜哨戒機やイージス艦に察知されないほどのステルス性を持っているのです。それだけ高性能なら、興国が配備できるわけがありません。」
「ふむ・・・・・・。」
「・・・・・・。」
綺羅は俺と大尉が襲われている姿を見たらしい。
そして、俺と同じ考えを持っていた。
確かにあのような高性能機しかも最新型を興国が配備できるわけがない。
興国は長年の内戦、それに加えて災害などで財政、軍備、共に疲弊していく一方だった。
もう既に、その二つは日本を確実に下回っている。
新型兵器を配備するどころか、日本に戦争を仕掛ける余裕すらない。
「しかし、興国ではないとすると、他にはもう日本と戦う理由のある国はないな。」
大尉のその言葉は俺と綺羅に新たな疑問を投げかけた。
「大陸であの国以外は・・・日本との友好国、同盟国、軍事加盟国ばかりじゃないか。」
大尉の言うとおりだった。日本のすぐ隣にあるガルナ大陸では興国を除けばもう日本と対立関係にある国はない。むしろ逆の関係にある国ばかりだ。
太平洋を隔てたフリーヴィア大陸も同様だ。
「では、これは何の仕業なんですか?」
俺の一言で、また静まり返ってしまった。
他のパイロットやクルー達がたとえようのない表情で俺達を見つめていた。
◆◇◆◇◆◇
「いやっ!」
刀を引き抜くと目の前の敵が火花を上げて倒れる。これで何体目だろう?
いくら倒しても後からすぐに上がってきてしまう・・・・・・。これじゃきりが無い。タイト達はどうしているだろうか。
キクはさっきから無線に応えてくれない。上がってきた敵を両手の剣で簡単に引き裂いていく。敵の弾丸は素早い動きでかすらせもしない。
《こちらゴッドアイ! 空母艦隊および上空の味方航空機に緊急連絡! 座標C-98から多数の敵航空勢力、海上勢力が接近中!至急、迎撃態勢に入れ! 雪峰の艦載機は至急発進せよ!!》
ゴッドアイからだった・・・・・・まだ敵がくるのか!
◆◇◆◇◆◇
新たな敵勢力の襲来が、格納庫のスピーカーにより告げられた。
ゴッドアイからの入電だった。
すぐにでも出撃しないと艦隊が危ない。だが・・・・・・。
「て、敵航空機だって・・・・・・。」
「でも上は塞がれてるんじゃ・・・・・・。」
「敵はこれが目的だったのか?!」
「じゃあどうすりゃいいんだ!」
クルー達から悲観的な声が上がった。
本当に、これが目的だったのだろうか。
情報がどこかから漏洩し、この艦隊の座標と、今日の任務の情報が興国軍に知られ、そして強大な戦力である俺達が空母で補給を受けているタイミングで攻撃を仕掛けた。
あくまで俺の憶測だが、これなら辻褄が合う。だが今はそんなことよりこの状況をどうにかしなければならない。
どうすれば・・・・・・。
俺は自分の発想に従い、機体に飛び乗った。
「春瀬君?!」
「ミクに援護を頼んで、カタパルトを護ってもらいます。」
「・・・・・・分かった。みんな! 上にいる味方のアンドロイドが敵を抑えてくれる。出撃準備だ!」
大尉の呼びかけで、クルーやパイロット達が希望を取り戻したかのように慌しく動き始めた。俺はヘルメットを被り、キャノピーを閉め、エンジンを起動させながら無線をミクに繋いだ。
「ミク!聞こえるか。」
《隊長?!》
「今から艦載機が出撃する。俺達は構わないが、他の機体はカタパルトが必要だ。カタパルトを護ってくれ。」
《分かった! まかせてくれ!!》
ミクの了承を得ると、次にカタパルト作動のために管制塔へと無線を繋いだ。
「雪峰、聞こえるか。こちら水面基地所属、ソード1。これより艦載機が発進する。管制を頼む。」
《こちら雪峰コントロール。現在のフライトデッキは敵アンドロイド部隊の攻撃にさらされている。発進は許可できない!》
「フライトデッキにいる味方アンドロイドに援護を要請してある。発艦は可能だ。」
《しかし・・・・・・いや、了解した。ソード1へ。了解した発艦を許可する。発艦準備はフライトクルーの指示に従え。》
「了解。」
《こちらフライトクルー! 兵装搭載が完了した!!先ずは丁度エレベーターの上にある君達の機体を上げる!!》
「エレベーターは必要ない。ハッチだけあけて欲しい。」
《何だって?!》
「俺達のはVTOLだからな。」
「なるほど・・・・・・了解。今、ハッチを開ける!」
機体上のハッチが開き、太陽の光が差し込んできた。
俺は垂直離陸の準備をした。
メインエンジンと逆噴射装置のノズルが90度下を向く。
「ソード1発進準備完了。ソード2、ソード3、ソード4聞こえるか。発進準備せよ。」
《こちらソード2、準備よし!》
《ソード3、発進準備完了!!》
《こちらソード4、いつでも!》
スロットルレバーを押し込むと、ジェットエンジンの推力に持ち上げられ、機体が上空に浮き上がった。フライトデッキにはミクと呪音キクが敵アンドロイドと死闘を繰り広げている。
一瞬、ミクがこちらを振り向いた。
「隊長・・・・・・早く!」
「ああ!」
エンジンノズルを元に戻すと、機体は吹っ飛ばされたように加速し、上空へと舞い上がった。
「ミク・・・・・・無事でいろよ・・・・・・。」
◆◇◆◇◆◇
《ソード隊が発進した。次、ロンチ隊発進準備!》
《早く、早く上げるんだ!》
《ロンチ隊各機をエレベーターへプッシュバックします!》
《エレベーター搭載完了、上昇開始!》
《六十、七十、八十、九十、エレベーター上昇完了しました!》
《エレベーターから、カタパルトへ!!急げ!!バケモンにやられちまうぞ!》
《うわっち!》
《大丈夫! わたしが守る!》
《おっと、すまない雑音君!!》
《第一、第二、第三、第四カタパルトに各機装着が完了した。》
《次来るぞ! 急げよ!》
《ロンチ隊、発艦を許可する!!》
《了解。ランチャー、発進。》
《ファランクス、発艦します。》
《アーチャー発艦する。》
《パイロン、発艦しますッ!》
《春瀬君、今行くぞ。》
《ロンチ隊発艦完了。次、ミューズ隊カタパルトへ!!》
◆◇◆◇◆◇
上空には味方の航空機が水面基地のAWACSを取り囲んで飛行していた。
《こちら空中警戒管制機、ゴッドアイ。緊急事態につき、今から水面基地、雪峰の各航空部隊の指揮を執らせてもらう。個別に指示に従え。》
だが、指示を受ける余裕も無く、レーダーには敵の機影が映し出された。
《警報! 高度、三千フィート、方位270より、敵航空機多数。座標、C-21すぐ近くだ!》
「何だって!」
俺達と他の味方戦闘機が一気にその方向へと旋回した。
敵の高度がかなり低空なため、こちらも高度を落とす。
すると太陽の光でまぶしく輝く海面の上に、攻撃機らしき航空機が見えた。
《タリホー! 敵機だ。これはかなりの数だ!》
《おいおい、こりゃ生きて帰れか分かんねぇな。》
《大丈夫だ! なんたってこっちには水面基地の強化人間がついてるんだ!》
敵の数・・・・・・肉眼で見える限りでは、数十といった数ではなかった。
なぜこんな大量の機体が・・・・・・とにかく、この大群で攻めてこられれば、俺達でも危ない。
《なっ、おい、なんだあれは!》
無線に割り込んだ誰かの声に振り向くと、後方から白い雲が恐るべき速さで迫ってきたのだ。それは信じられないことに、数百発のミサイルだった。
だが、アラーム音が鳴っていない。俺達が目標とされているわけではないようだ。ミサイルは俺達のすぐ下を突き抜けた。
そして、そのミサイルの大群は敵の大部隊に突っ込み、大爆発を起こした。
爆粉が消えた先ではすべてが消え去っていた。あれだけの数の敵機が一瞬にして消し飛んだ。
「なんなんだ今のは・・・・・・。」
それ以外、俺も誰も声を出すことができなかった。
《こちらゴッドアイ。上空で防空戦闘中の各機へ緊急連絡だ。》
ゴッドアイからの無線が沈黙を破った。
《今その海域にいる海軍の新型潜水艦に援護を要請してある。》
新型潜水艦・・・・・・?
《おい、見ろよ、あれ!》
麻田の声に、俺は身を乗り出して海面を凝視した。
そこには、巨大な細長い、黒い物体が浮かんでいた。
《あれが海軍の新型潜水艦か。》
《でけぇ・・・・・・。》
《なんだありゃ・・・・・・。》
《上空の味方航空機、聞こえるか。》
その潜水艦から無線が入った。
《こちら、日本防衛海軍、シグナル級潜水艦サンドリヨン! これより援護を開始する。》
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想