「ファンクラブ」「コンセント」「擬人化」
西暦2511年。
あらゆる環境問題、国際不和、自然災害等を克服した人類は、残された最後の課題さえもその科学力で乗り越えようとしていた。火星移住による人口爆発の解決である。
「ねぇお兄ちゃん、火星ってとおいの?」
「うーん。三日くらいかかるみたいだから、遠いって言えば遠いのかなぁ」
とある家庭の子供部屋では、今まさに出発しようとしている葉巻型移住船が、天井スクリーンに大きく映し出されていた。兄妹はベッドで横になりながらその様子を見ている。
「あのオフネって、大自然ファンクラブの人たちはみんな乗れるんだよね? いいなぁ」
「良くないよ。火星ってまだ農業くらいしかやることないんだぜ? しかも、エネルギー使用料とかうるさいから、ロボ使って人口ファームも作れねえし」
「のうぎょうってなぁに?」
「あ・・・・、いや・・・・。とにかく、オレたちが毎日普通にしてることができないってこと」
「チャームとも遊べないの?」
「そう」
子供部屋のドアが開き、タコのような形のロボットが部屋に入ってくる。うぃんうぃんと踊るような仕草でベッドに近づくと、二つのチューブを差し出した。
「あ、えらいねぇ、チャーム。今日はまだちゃんと動いてるんだね」
「そろそろ覚えてきたみたいだな」
二人はチャームからチューブを受け取り、キャップを開けて中のものを飲むと、また横になって天井を眺めた。スクリーンの中の宇宙船は下部から大量の水蒸気と煙を出し、小刻みに震えながら上昇して行く。
「ああ! オフネ、汗かいてるよ。すっごいふるえてる。風邪ひいちゃったのかなぁ」
兄は鼻の下を手でこすると得意げに、
「それって『擬人化』って言うんだぜ。今日、古文で習った」
えへん、とした。
「ほぇー。・・・・・・あっ!」
ガシャン!
音を聞いて兄がベッドから起き上がると、部屋を出て行こうとしたチャームが体にコードを巻きつけて倒れていた。
「あー、またやっちゃったよぉ」
兄はチャームに絡まっているコードを面倒くさそうに解き、コード先端のプラグをコンセントに差し込む。
うぃんうぃんうぃん・・・・。
チャームが再起動する。
「覚えたと思ったのになぁ。にしても、電力供給は電池かコンセントって、なんでここだけ数百年も進歩しないんだろ?」
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