柔らかいシリコンを突き破っている色鮮やかな配線からくぐもった声が漏れる。
私にとっては耳をつんざくような叫びだったが、はたから聞けばそれはただの機械音に聞こえただろう。
精一杯の叫びの前においても、人間と機械の間の溝は深いのだ、と妙に虚しくなった。

いや、それは違う。これは声なんかではないのだ。私の頭が狂っただけなのだ。

そう信じられればどれだけ良かったろう。
もし仮にそれが真実だったとしても私はそれを認めることができない。
認めればこれまで何年もかけて構築してきた世界が崩れ落ちそうだったから。
たかがこのような宙ぶらりんの人型の為にそこまで自分が犠牲になる義理はない。

まだ叫び声は止まらない。核の部分はまだ無事なのだろうか。
四肢が潰れ、中身をこねくり回された後ですら尚これは生きている。

機械、もとい彼女を見つめた。
吸い込まれそうだった瞳はぐるりと上を向いてしまっていてもうこちらを向くことが無い。
瞼の奥に指を這わせれば治るだろうが、この神聖な表情を崩すことがどうしてもできなかった。
これまで見た誰よりも、今の人型が美しかった。
だらしなく垂らされている舌もとてもチャーミングだ。

君は美しいね、と声にならないような声で囁きかける。
声は届くはずがない。
音を感じ取る器官の耳も私がつぶしたのだから。

愛していたよ、と花を手向ける。
そこいらに咲いていた蒲公英を、せめてもと思い幾つもの壊れた人型にプレゼントする。


ああ、もう黄昏時。
私が誰か分からなくなるまでに帰らなくては。

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壊れた人工音声は彼女なのか機械なのか

嗚呼、又新しく買わなければ。

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投稿日:2013/01/08 22:47:45

文字数:657文字

カテゴリ:小説

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