「初音!?なんでおまえ………」
家の前で段ボール箱を運んでいたカイト君はトラックから降りてきた私を見て驚きの表情を浮かべる。そりゃそうだろう。誰にも伝えず引っ越そうとしていたのだから。私は少し不機嫌な顔をしながらカイト君の前に迫った。
「なんで私に言ってくれなかったの!?黙って出ていくなんてあんまりじゃない!!」
「え…だって、初音に言ったってどうにかなることじゃねぇし…」
「どうなるかなんて関係ない!!友人として、最後まで見送ってあげるのは責任ってもんでしょう!?」
「す、すまなかったよ……誰にも迷惑かけたくなかったんだよ……」
カイト君が珍しく尻すぼみな感じだったので、私も少々たじたじとしてしまう。カイト君の優しさ故の結果だったのだ、誰にも引っ越しを伝えなかったのは。確かに思い返してみると先生の態度も作ったような感じだった。彼は先生にも生徒に悟られないようにと断っておいたのだろう。
…こんなことだったら、もっとしゃべっておけばよかった…
後悔しても遅い。この事実は曲げられないのだから。しかしやっぱり悔しい。せめて中学校が終わるまでは一緒にいたかった。
こんな風にカイト君に特別な態度をとってしまうのはなぜなのだろう。さっきから味わったことがない感覚に体全体が包み込まれていた。これは……
「いいこと教えてやるよ。初音」
また自分の世界に入りかけていたところを、カイト君の言葉で抜け出した。とっさに顔を上げて、彼を見る。鼓動の高まりを感じた。目の前になんでもない友人がいるだけなのに。
「おまえ、ピーマン嫌いだったろ?」
「うん……」
「実はさ、俺もピーマン嫌いだったんだ。前にピーマン食って吐き気催したことがあってさ。今日の昼食でも出てたけど」
「でも大好きって言って私の分まで食べてくれたじゃない…」
「へへ、すごいだろ」
わかった。この感覚は
恋なんだ。
だから私は…
「カイト君…私…」
「おまえはいつもどっかで守られてるってことだよ」
「……え」
カイト君から次々あかされる事実と複雑な心境とがぐるぐると体を駆け巡る。ココロの中の整理がつかない。
「おまえはずっと友達だから」
静寂。
「………………………イヤだ」
「は?」
「まだピーマン食べられないもん!!イヤだよ、私がピーマンが食べられるようになるまでここにいてよぉぉ!!!!」
私は泣きながら彼にすがりついた。涙が彼の青い私服に滲む。すべてが分かった今、私はすべての感情を爆発させていたのだった。私との出会い、生活はすべて人生の一場面でしかなかった。それだけに、友達だという言葉は聞きたくなかった。友達以上の存在になりたいと心の底から思う私だった。
「無理だ。俺は親に従うしかないから。大丈夫。初音ならうまくやってけるから」
そういって、カイト君は私の頬を指でなぞる。
「おぅい。カイト、出るぞ」
おじさんの声でカイトはニコリと笑顔を見せた。
「じゃ、初音。またな。おまえといた6ヶ月、結構楽しかったぜ」
やめて、いかないで。私に芽生えた、青春のつぼみを摘み取らないで……
ばたんとトラックの戸が閉まる音がした。こんなトラック、私が壊してしまえば…
「じゃあな、初音、いままでありがとな」
トラックが走り出した。
窓からはカイト君が手を振って………
くれていなかった。
そこにへなへなと座り込み、空を仰ぎながら泣き崩れる私だった。
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bagband
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ご意見・ご感想
かたつむり
ご意見・ご感想
かなり辛いです・・・。
致命的な痛みを伴いますw
2010/08/03 14:49:17
かたつむり
ご意見・ご感想
いつまでも友達って相手からいっておいて数年後再会して
「あれ誰だっけ?」とか言われると悲しいっていうよりあきれますよね・・・w
2010/08/03 14:39:24
初音ミミック
ひ、ひどい!!
それはつらいですねw
2010/08/03 14:44:02
かたつむり
ご意見・ご感想
本当、カイト今回いい人でしたね・・・。
思わずじぃんとしてしまいました。。。
とても、悲しい別れですね。カイト、手ぐらい振ればいいのに・・・(ノд`)
2010/08/03 14:32:54
初音ミミック
いつまでも友達…
それはときにつらいんですよね…
なにいってんだかw
2010/08/03 14:35:06