『幕が下りたら』
舞台の上で 光の中で のみ
共にいられる事を知っている
物語だけが 僕らをつないでいるから
瞬間 僕らは二人になって
幕が下りたら 闇の中へ帰って
お別れ
舞台の上で 腕の中で いま
きみの柔らかな身体が滑る
物語ならば 二人に歌が降り注ぐ
永遠の祝福の中で生きて
幕が下りたら 拍手の枯れた静寂へ
お別れ
幕が下りたら
そのあとは どうしようか
幕が下りたら
そのあとは 何もないな
一人と一人が悲しむ
そんな言葉で 舞台を閉じることにしよう
舞台の上で 光の中で のみ
共にいられることを知っている
『地中海風の夜』
お前が来てからというもの
あんまり上手く 眠れないのだ
遠く聞く セレナーデが暈かした……
あの夜 魂が夜の底に触れた 一瞬
遠く帰る者たちは 立ち止まり
一斉にこちらを祈ったのだ
黙っていた
何も見えない中を 流れる雲
想像する 空のどこかから
この窓のすぐそばまで降りてきて
その黄金の髪を 微かに揺らした
切り取られた水平線は そのどこかに
彷徨う一頭の鯨を飼っていると
寂しい啼き声と 真っ暗な空と
それでも 優しいものは 帰りつつあった
『星が落ちた日』
石室の中に眠る星々は
失われた羅針盤を抱えて……
あの日
星が力尽きて空から落ちた日
人々は その冷たい光を放つ亡骸を
石の棺に横たえた
一等星を棺の中央へ 五等星はその周りに
星座の数と同じだけの棺が作られ
それより遥かに多くの星が眠っていた
そして人々は 地中深くに葬った
夜の海を行く船乗りらは
真っ黒に溶け合う海と空に
彷徨い続けた
砂漠を歩く行商人も
ささやかな明かりさえなくして
凍える地平線と
孤独な夜を過ごした
見つけられるはずだった大陸では
鬱蒼としげる原生林の中に
経済も政治ももたらされることはなく
駆け抜ける獣らの なだらかな毛並み……
我々 小さな箱庭に閉じ込められて
その果てさえも知ることはないだろう
そうしてこの星もまた 冷たい光を放つ
『鐘』
今も 聞こえる
胸のうちに
美しい鐘の音
全て 失ったあとの
穏やかなこころに
枯れた鐘の音
明日 僕は
今日死んだ友に笑おう
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