ミク、ルカ、リン、レンの四人はクリプトンから与えられた立派なマンションに住んでいる。
リビングの隣には防音のレッスンルームがあり、音響機器が一通り揃っているばかりでなく、結構な広さがあってダンスのレッスンもできるようになっている。
今日はミクとルカが新曲の振り付けを練習している。
「ねえ、ルカ、腰の振り方教えてくれない」
ルカが絡む曲は大人っぽい楽曲が多く、振り付けも相応に艶やかだ。
「こうよ、∞を描くように…」
ルカが手本を示す。
「こ、こう?」
「それじゃ∞が寝てるでしょ。そうじゃなくて、縦に∞よ」
フラダンサーのような見事な腰の振りを見せるルカ。
「上手いわねえ、ルカ。真似できない…」
ミクがちょっぴり悔しそうな顔をする。
「しょうがないわよ。あなたとわたしじゃ仕様が違うから。その差だと思うよ」
ミクはどんな複雑な振り付けでも一発で覚える。
腰の振りが真似出来ないのは、ルカの言う通り仕様のせいだろう。
「あたし、ルカみたいに、もっと色っぽさも身に付けたいの」
歌と踊りに関しては誰よりも真面目なミクが、切実な声で言った。
「もっかいやるね。どう、ルカ、さっきよりいいんじゃない?」
懸命に腰を振る彼女を、ルカは顎に手を当て難しい顔で見ている。
「ちょっと良くなったけど…うーん、あなたがいくら腰振っても、胸がないからねえ。あっ…ああ! ごめん! ミク! orzにならないで!」
ヘナヘナと床に崩れ四つん這いなったミクに、ルカが慌てて謝る。
「ルカ…それを言っちゃあおしまいよ…」
「ああ、寅さんになっちゃった。ごめんなさい、つい口が滑って」
「口が滑ったって、じゃあそう思ってんじゃない! 人が一番気にしてることをサラッと…」
ルカの手を借りてよろよろと立ち上がる。
「何かやる気なくなっちゃった…ルカ、もう一回だけ振りを合わせたら、終わりにしましょ…」
気を取り直して曲を流す。
二人が踊っていると、リンがレッスンルームに入ってきた。
真面目な顔で姉二人のダンスを眺める。
曲が終わるとボソッと感想を言った。
「息ピッタリね。でも、ルカ姉と一緒に踊ってると、ミク姉に色気がないのが如実に分かるわね。…ああっ! ごめん! ミク姉! orzにならないで!」
再びフラフラと倒れるミク。ルカが右手で顔を覆う。
「せっかく立ち直ったとこだったのに…」
駆け寄ったリンが、ミクを抱き起こす。
「ミク姉、気にすることないのよ。ほら、ダンスの上手さは同じくらいなんだから。ミク姉胸がないから、色気がないように見えるだけで…」
起き上がりかけていたミクがリンの手をすり抜け、床にのびてしまう。
「リン! フォローの仕方が逆よ!」
「え? 気にしてるのは胸の方? あたしてっきりもうあきらめてるものだと…」
リンは一生懸命肩を揺すって起こそうとしたが、ミクは拗ねてしまって、突っ伏したまま動かなかった。
☆
落ち込んだミクは自室にこもってしまった。
ドアの前で困り顔のルカとリン。
「ルカ姉、ごめん」
「謝らなくてもいいわよ。わたしも胸がないって言っちゃったし」
「すごい落ち込んでたね」
「大丈夫。夕飯にネギ料理作って、うちわでドアの隙間から匂いを送ってやれば出てくるわよ。そこを捕まえて引きずり出すから」
「マテ貝みたいね」
ルカは思わず吹き出した。
この時はまだ、後で笑い事ではない事態になるとはルカには予想すべくもなかった。
☆
夕食前にリンとレンは、Pさんに呼ばれてPVの撮影に行った。
ルカが部屋のベッドに寝転んで本を読んでいると、ノックもせずにミクが入ってきた。
「ルカ、おっぱい揉んで」
ルカが身を起こす。ミクはタンクトップに下はジャージと軽装だ。
ツインテールもほどいてストレートにしている。
「藪から棒ってあなたのためにある言葉ね。何なのよ?」
「おっぱいは揉むと大きくなるのよ。早い方がいいんだって。人に揉んでもらうと効果倍増なの」
「今さらそんな古い迷信を…」
手に持っていたインターネットを印刷したらしき紙を示す。
「ちゃんと論文もあるのよ。ブラジルのアントニオ教授が報告してるの」
受け取って斜めに目を通す。案の定うさんくさい。
「1962年…キューバ危機があった年の論文ね」
「分かったでしょ。早いうちがいいんだから、早速はじめるわよ。これから朝昼晩やるから、協力してちょうだい」
「まったくあんたは、この前はキスしてって言って、今度は乳揉めって…努力する方向間違ってんじゃないの?」
ミクがふくれる。
「何よ、自分は大きいからって。ルカにはあたしの悩みなんて分からないんだわ」
面倒くさいなあ。でも事の発端はわたしだし。
しゃーない、これで機嫌が直るんなら、ちょっとだけ付き合ってあげよう。
「分かった。揉むわよ」
「ありがと。じゃ、お願いね」
ミクがベッドに腰を下ろす。
「ここじゃダメ。レッスンルームに行きましょ」
「何で? いいよ、ここで」
ルカはミクの肩に手を置いた。
「あのね、おっぱい揉んでて、万が一変な気になっちゃった時に、場所がベッドの上じゃ便利すぎるでしょ」
真剣な顔でミクを見つめる。
ミクはゴクッとツバを飲み込んだ。
「そ、そうね。レッスンルーム行こ」
☆
レッスンルーム。
ミクが背もたれのない丸イスを二つ並べる。
「後ろからの方がいいわね。ミク、向こうむいて座って。ブラしてないよね?」
「うん」
縦に並んで座ると、目の前にミクの青緑色の髪が広がる。
…髪、邪魔ね。くっ付かないと手が届かないな。
足を広げ、丸イスをそばに寄せる。
顔が髪に埋もれて、息ができなくなってしいそうだ。
ルカは少し身体を斜めにして、顎をミクの左肩に乗せるような格好にした。頬が触れ合いそうだ。
近いわね…まったく、この前キスしたときみたいに変な気になんなきゃいいけど。
ルカの心配をよそに、ミクは医師の診察を受けるようにシャンと背を伸ばして座っている。
おし、やるか。
ルカが腹の方からミクのタンクトップに手を入れた。
とたんにミクが、加速装置でも付いているのかと思うスピードでイスから跳ね上がった。
「ル、ルカ! 生じゃないわよ!」
「へ? ああ、服の上からなの? そうならそうと最初に…」
「生なら脱ぐわよ! あー、ビックリした…」
ミクがイスに座り直す。
「ごめんごめん。じゃあ、仕切りなおしね」
後ろから抱きつくようにして、ミクの胸に手を回す。
なるべく乳首は刺激しないようにしたいのだが、胸が小さすぎて乳首を避けると変な揉み方になってしまう。
仕方ないので、掌をお椀形にしておっぱい全体を包むように被せる。
「いくよ」
「いつでもどうぞ」
掌全体を使って、やわやわと胸を揉む。
(へえ、小っちゃいけど、触り心地はいいじゃない)
「こんな感じでいい?」
「いい…よ…」
いいよと言いつつ、ミクの体がだんだんと前屈みになっていく。
アレ? と思いながら、ルカも身体を倒して手から胸が逃げないようにする。
「……………………………ってルカ!!」
ミクが立ち上がり、胸を押さえる。
「変な触り方しないでよ!! あたし真面目にやってるんだから!!」
ルカはロボットのように両手を前に出して止まっている。
「何よ? 変な触り方って?」
「い、いやらしいのよ!! 手つきが!」
はあ? とルカは釈然としない顔をした。
「普通に触ってるだけだけど。乳首もあんまり刺激しないようにしてるし」
「ほ、本当?」
疑わしげな目を向けつつ、ミクがまたイスに座る。
首を後ろに向け、ルカに釘を刺す。
「いい、婦人科医が乳癌検診するみたいに、一切余計なことしないで、事務的に揉むのよ。分かった?」
はいはい、と適当に返事を返し、また胸を揉む。
ミクは最初スッと背筋を伸ばして座っていたが、すぐに身をよじりだした。
時折なまめかしい吐息が漏れる
「…………………ス、ストップ! ストーップ!!」
ルカの手を振り切るようにしてイスから立ち上がる。
「や、やっぱりふざけてるでしょ! ルカ!」
ルカが溜息をつく。
「ミク、あのね。わたしは仰せのとおり、マッサージ機になったつもりでただただ手を動かしてるだけでございますよ」
ミクはタンクトップの上から手で胸を覆い隠し、ルカを睨んでいる。
風呂を覗かれたしずかちゃんみたいだ。
「ウソ! 絶対あたしのことからかってる!」
「いやらしいって、どんな感じなわけ?」
「……」
ミクが言葉に詰まる。
なるほど、口では言えないような感じなのね。
「ミク、あなた感じやすいんじゃないの?」
何気に言った一言で、ミクの顔がボッと火のついたように赤くなった。
「お、乙女になんてこというのよ!!」
「だってそうじゃない。エステでも胸触るのよ。普通こんな触り方したくらいで感じないわよ」
「……」
「うそだと思うんなら、わたしの胸揉んでみてよ」
ルカはTシャツの背をめくってブラのホックを外し、袖から肩ヒモを引き抜いて、服を着たままブラを外した。
髪と同じピンク色のブラを、傍らのテーブルに放る。
ミクがそれを猫のような顔で見ている。
「…ルカ、何カップだっけ?」
「D」
「でぃ、でぃい…」
愕然としているミクには構わず、背を向けて丸イスに座る。
「さ、どうぞ、揉んでちょうだい」
ミクが後ろに座り、おそるおそる胸に手を伸ばす。
少し躊躇ってから胸に手を当て、ひとつ深呼吸する。
覚悟を決めると、むに、とひと揉みした。
ルカは「お、来たな」と思ったが、すぐにミクの手は離れ、後ろでガタンと音がした。
振り向くとイスが倒れミクが床で寝転んでいる。
「何遊んでるの?」
「…お、大きい…」
「いまさら。あなたお風呂で見たことあるでしょ、わたしのおっぱい」
「…じ、直に触ると、量感が…」
ミクはダウンしたボクサーみたいによろめきつつ起き上がり、イスを立てて座り直した。
丸イスに座る姿はあしたのジョーのようだった。
「凹んでないで、揉むなら揉んでよ、早く」
「へいへい」
目尻に浮かんだ涙を拭い、悔しさをこらえてミクは胸を揉んだ。
うわあ、でか。メロン二個分だわ、こりゃ。
こんだけ大きくても張りがあって上向いてるし。
同じボカロで何でこんなに違うのよ。
今度KEIに会ったらひっぱたいてやんなくちゃ。
「ほら、どう? わたしは平気でしょ」
うーん、確かに。
「ミクが感度良すぎるのよ。あんな、ちょ、ちょっと…む、胸…揉んだ、く、くらい…で…」
アレ? アレレ? 何だか、ルカの身体がクネクネしてきた。
くすぐったさに耐えるように、ルカが身をよじる。
と思うと、ミクと同じように前屈みになってきた。
ミクはなおも胸を揉み続ける。
「………………ミク、ストップ………お願い…やめてっ!」
ミクが手を離すとルカは胸を押さえてうずくまった。少し息が荒い。
「こ…、こんなはず…ないのに…」
「ルカもいっしょじゃん。気持ちよかった?」
「バカ」
ルカは赤い顔をして言った。
「でも、おかしいわね。わたしがこんなに感じるはずは…メモリーのデータと違うし…わたしの推測では、可能性は二つ…」
「どういうこと?」
「ボーカロイド同士の間に働く、特別な力のためか…」
「もう一つは?」
「クリプトンに変態がいて、わたし達の身体をそういう仕様に作ったか…」
「前者! 前者でお願いします!!」
青い顔をしてミクが懇願する。ルカに言ってもしょうがないのだが。
「どのみちはっきりしてるのは、ミク、あなたおっぱい揉んでほしかったら、我慢するしかないってことよ」
ミクの肩にグッと力が入る。
「…わ、分かったわ。あたし頑張るから、ルカ、揉んで」
ここであきらめないとこが根性据わってるわよね。
ルカはそう思いつつ再び丸イスに座った。
☆
「…ス、ストップ…ルカ、降参、もうダメ…」
ミクもルカも板張りの床に転がっている。
ルカが胸を揉み始めるなり、ミクは身をくねらせ、イスから転げてしまった。
中途半端が嫌いなルカはミクの胸をつかんだまま一緒に寝そべり、おっぱいを揉み続けた。
はたから見たらレズってるようにしか見えない状況でミクはそれなりに頑張ったのだが、五分ほどで理性が持たなくなり、ギブアップした。
「そ、そうね…もう止めときましょ。あなたのあえぎ声聞いてたら、わたしまで変な気になっちゃいそう…」
ルカも頬が上気している。
「ルカ…あえぎ声とか言わないでよ…恥ずかしくて死にたくなっちゃう…」
「そう?可愛かったわよ」
「もう! やめてったら」
ミクがずれ落ちたタンクトップの肩ひもを直す。
「はあ、でもどうしよ。おっぱいモミモミ作戦がダメなら、いっそ高須クリニックに…」
その時、携帯電話の着信音が鳴った。ミクのだ。
「もう! 誰よ、こんな時に!」
テーブルの上に置いてあった携帯を取る。
「きゃっ! セロ様!」
セロ様とは、スーパーセロPのことである。
ミクの楽曲を中心にミリオンヒットを多数生み出している敏腕Pだ。
作曲業の傍らマジシャンとしても活躍し、「サプライズ」という流行語を産んだ。
才能がある上に温和な人柄で、ミクはそんなセロに憧れている。
深呼吸して気持ちを落ち着け、通話ボタンを押す。
「はい、お待たせしましたぁ。ミクでぇす」
あまりのぶりっ子声に、ルカがあんぐりと口を開いた。
「今からですね? はい、大丈夫でぇす。ルカとダンスのレッスンしてたとこで…」
「おっぱい揉まれてあえいでましたって言いなさいよ」
ミクがキッとルカを睨む。
「はぁい、それでは、すぐ向かいまぁす。いつも呼んでくださって、ありがとうございまぁす」
電話を切る。
「どっから声出してんの?あんた?」
「ルカ、聞いてたでしょ。セロさんとこ、行ってくるからね」
ルカの突っ込みは軽くスルーする。
ミクはその後三十分かけて着ていく服を選び、セロPのところへ出掛けていった。
☆
(後編に続きます)
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ブクマつながり
もっと見る(前編からの続きです)
「…ミク、ジェンダーとか勝手にパラメータ変えてない?」
スーパーセロPの自宅。
シンセサイザーやミキサーなど音響機器が所狭しと並んだ部屋で、ミクは新曲の調教を受けていた。
いつもより手こずるので首をかしげていたセロだが、どうやら原因に気が付いたようだ。
勝手をしていたのがばれ...「ルカ、おっぱい揉んで」(後編)
ピーナッツ
二月の札幌。
例年寒くなる時期だが、今年は特に冷え込みが厳しい。
一番早く起きたルカがストーブに火をいれる。
「…冷えるわね。あ、雪すごい積もってる」
ミクやリン、レンも起きてきて、みんなで朝食のテーブルを囲む。
今日はホットケーキだ。
「レン、出てきた? ウミウシ婆ばあ」
メープルシロップをかけな...双子だからって裸はダメ!
ピーナッツ
(前編からの続きです)
☆
深夜二時。ベッドでリンがふと目を覚ました。
枕がぐっしょりしている。
(…そっか、泣きながら眠っちゃったんだ…)
パエリアと四葉Pのことを思い出して、胸がチクリとした。
…喉渇いた。
リンはもそもそとベッドから起き上がった。
常夜灯だけがついた薄暗いキッチン。
...ラノベにおけるおかゆの効果について(後編)
ピーナッツ
昼下がりのリビング。けだるい時間が流れている。
リンとレンは新曲のレコーディングに行っていて、ミクとルカが家に残っていた。
二人は長いソファの左右に座って、ルカはファッション雑誌を、ミクはテレビを見ている。
ミクが全然テレビに集中していないことに、ルカは気付いていた。
視線がときおり自分に向けられる...ルカ、キスしたことある?
ピーナッツ
朝から雨が降っていた。
しとしとと弱い雨だが、同じ調子でずっと降り続いている。
空は均一な灰色の雲に覆われ、当分やむ気配はない。
朝食のテーブル。
ミク、ルカ、リン、レンの四人が食卓を囲んでいる。
「ルカ姉、今日あたしが夕飯作っていい?」
フレンチトーストをかじりながらリンが聞いた。
「いいけど、何...ラノベにおけるおかゆの効果について(前編)
ピーナッツ
ミクと鶴田社長、幸子夫人は固い握手を交わし、工場を後にした。
社長と夫人はミクとレンの姿が見えなくなるまで、何度も頭を下げ、手を振っていた。
「ミク姉、いいの? あんな大金貸しちゃって?」
大通りでタクシーを待ちながら、レンが聞いた。
「大丈夫よ。鶴田社長、いい人だったでしょ」
「いい人だとは思うけ...初音ミクの再建 ~ネギ煎餅の北斗製菓を救え~(後編)
ピーナッツ
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