今年もまた私はあなたのお墓を訪れた。あなたにチョコを供えるために。
 私は少しの間手を合わせるとお供えのチョコの残りをひとかけら口に入れた。甘くて苦い味と一緒にあなたの思い出が蘇る。私はチョコを口の中で転がしながらその思い出に身を任せた。

「どうしたの?」
 道端で泣く幼い私にあなたはまっすぐ声をかけてくれた。手に握った溶けかけのチョコを差し出しながら。
「タカシくんが私をぶったの」
 私は目にいっぱい涙をためながら答えた。それからわんわん泣いて、あなたがくれたチョコを食べて、それからやっと私は落ち着いた。その間あなたはずっと私の横で私の背中を撫でてくれた。
「君の名前はなんていうの?」
「ミイちゃん」
「家まで送ってあげるよ、ミイちゃん」
 それまで知らなかったけれど、あなたは私の家のすぐそばに引っ越してきた子供だった。それから私たちはいつも一緒に遊ぶようになった。

供えたチョコの端がほんのり溶けていく。あの日あなたがくれたチョコみたいに。
私はあなたの墓石のそばで空を見上げた。空はあの日みたいに澄んで、私の心を落ち着けようとしてくれているみたいだった。あなたの思い出は切なくて苦い記憶も呼び起こしてしまうから。

ずっと一緒にいるのが当たり前だと思っていた。
「君のことが好きだ」
だからあなたから突然告白されたとき、私は答えをためらってしまった。自分の心には気づいていたのに。
「考えさせて」
恋に不慣れだった私は二人の関係が崩れるのが怖かった。だから本当にほんの少しだけ考える時間が欲しかっただけなのに。
それからのことは鮮明に覚えている。あなたが去って少しして、隆君から電話があった。隆君の言葉を聞いて私は電話を取り落とした。
「アイツ、事故にあったらしい。…意識はもうないって」

我慢していた涙がこぼれた。
あの日、私はあなたがどれだけ私にとって大切な存在だったのかを知った。
「それはミイちゃんもよくないよ。タカシくんがおもちゃを貸してくれたのに、それを壊しちゃったんでしょ?」
 幼いあなたは私にたくさんのことを教えてくれた。
「次にタカシくんに会った時には一緒にごめんねを言おうね」
人にはちゃんとありがとうということ。人のことを大切にすること。全部あなたが教えてくれた。あなたがいたから私は今もいろんな人に支えられて生きている。

「ねえ、私、隆君と結婚するの」
 私はお墓に向かって言った。それからもうひとかけらチョコを口に入れる。
「今度は二人であなたに挨拶しにくるね」
甘くて苦いこの味はあなたとの思い出の味だ。
チョコが口の中で溶けるとき、あなたがそばにいてくれている気がした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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  • オリジナルライセンス

Chocolate affection

April様の『Chocolate affection』をノベライズさせていただきました。

あなたとの思い出を胸に、私は今年もあなたにチョコを供えます。

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▼ノベライズ元の楽曲▼

『Chocolate affection』

YouTube
https://youtu.be/nzlEWSI46-Y

ニコニコ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm36919922
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投稿日:2020/07/24 22:06:16

文字数:1,114文字

カテゴリ:小説

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