目深にフードを被り、全身をマントで身を包んだ男が、薄暗い部屋に立っていた。
あの、惨劇の舞台となった舘の応接間である。
男は手に何かを握っていた。それは『主人公』を導くために出された、色褪せた手紙だった。
今回の主人公は『ミク』と言うらしい。
元気で明るい、兄想いの優しい少女。
夜遅くに主人公がやってきて、家の住人達に迎えられ、歓迎される。
しかし、目を覚ましても夜が明けず止まった時計を見て怖くなり、この舘の秘密をしってしまった。そして、彼女は家に帰るために鍵を探した。
それが、時計の針。
本当は針等ではなく、これは屋敷の住人達の呪いを解くためのナイフだったのだ。
きっと、この主人公はそれに気づいていなかったのだろう。それを振るって、この屋敷に呪いをかけた張本人である娘と対峙して、見事勝利を得たのだ。
そう…──その、娘の闇さえ追い払って。
主人公は、遥か未来を望む成長を遂げた。
そうか。あの住人達は、娘を部屋に出さないようにして迷い込んできた「主人公」を棺の中に閉じ込めて殺したフリをしていたのか。
「今宵は、よい舞台でした…」
兄さん…──。
また目頭が熱を帯びる。
男は、この手紙に込められている魔力を紐解いて、どんな舞台がこの屋敷で繰り広げられたのか見ることができた。
それも全て、彼の兄が男のために仕組んだものだからだ。
この男のために作り上げているから。
体の弱かった自分に、兄はよく本を読んだり、魔法でこっそり舞台を見せてくれていた。
あの頃は、本当に楽しかった…──しかし、何時からか兄は狂ってしまった。
「こんな舞台はつまらない」
それが、全ての始まりだ。
「兄さん…」
兄は何時からか適当な人間を選び出して、呪いをかけるようになった。
主人公が正しい道を選ばなければ終わらない舞台を演じさせる呪い。繰り返しの魔法。
今回は手紙に込められた魔力を察知することができたのだ。残留する魔力に主人公の家に辿り着いたが、既に発ったあとだった。
探せばまだ間に合うかもしれないと彼女の部屋に石を投げ込んだ。窓ガラスが割れていて姿がなければ、探すだろうと思ったから。
げほっ、ごほっ、と男は咳き込んだ。また喘息だ。懐の油紙に包まれた薬を慌てて口に含む。
口に苦味が広がる度に、今も何処かで自分に見せるために他の舞台を作っているのだろうと頭を過る。
それも全部、自分が肉体的にも病弱で弱く、魔力もまともに使えた試しがないからだ。
ずっと、兄に頼ってきた。
どんな時でも助けてくれた兄が大好きだった。
何時だって、自分には一番のヒーローだった…。
止めないと…──また、この屋敷の人間達のように悲惨な末路を辿る人達が出来てしまう。
兄が、また罪を重ねてしまう。
咳き込みながら、手紙を懐に押し込んだ。
兄を止めるために、弱い身体に鞭を打つ。
そして、彼の姿は暗闇に溶けるようにして消えた。
時を止め、針をなくした振り子時計が…──ボーン、ボーンと何時かわからない時を告げた。
Bad∞End∞Night【自己解釈】⑬~君のBad Endの定義は?~終
本家様
http://www.nicovideo.jp/watch/sm16702635
こんな長々お付き合いありがとうございました。
2012*5*13
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